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読書メモ #16 『波打ち際の蛍』 島本理生

私は何度も深く息を吐きながら、痛みや逃避では解消することのできない感覚を何度も何度も慎重になぞる。
ぜんぶあふれ出しそうになって、だけど今の距離で私が悲しいことや苦しいことをさらけ出すのは、近付くためじゃなくて、完璧な依存になってしまう気がしたからやめた。
「じゃあ、これはいったいなにを信じるための話し合いなんですか?他人じゃなければ、日常がそこまで悪いものじゃない、世界はけっして危険な場所じゃないこと?」
「ぜんぶ含めて、それを判断している自分自身を信頼するの。そのために私がいるの。これから先、きっとまた誰かがあなたを傷つけることだってある。世界が安全な場所だなんて誰にも約束できない。それでもあなたが、また日々を続けられるように。それは誰かが優しくしてくれるとか、世界が救ってくれるからじゃなくて、あなたが、あなた自身を支えることなの」
なぜなら私が彼に見せたいものはほんとの少しの矛盾もシミもない綺麗な傷跡だからだ。その上からつけた無数の掻き傷は、自分自身の弱さだ。そんなものは見せたくない。ただでさえ見せたくないところばかりなのに、さらに上塗りしたくない。
『波打ち際の蛍』 島本理生

『すべて真夜中の恋人たち』を思い出させるような雰囲気で、ただ、読み終えたあとの気持ちとしてはこちらの方が安心した。

冒頭の相談室でのやり取りだけで蛍が好きになった。今の私にも必要な要素を持った男のひと。
2人の距離が縮まって私も蛍の内側を少しずつ知っていって、蛍が元恋人と普通に出掛けてしまう人だと知ってがっかりしたし、危なかっしい女の子がタイプだと知ってなんてつまらないんだとも思った。でもそれは私が蛍に持っていて欲しいと思っていた要素を、彼が持っていなかったに過ぎなくて、誰が悪いかと言うと私なのだ。本を読んで自分を責めるのは如何なものかという感じだけど、他人の欠けている(と感じる)部分を、自分自身の欠けている部分に鏡合わせするみたいに、したい。それができないから私は人間関係が、特に恋愛関係が下手なんだろうと思った。

元恋人に受けたDVに苦しむ彼女に過剰に感情移入したせいか(私にその経験はない)、おそらく初めて本で泣いた。
恋愛小説ではあるが、恋愛以外の要素とのバランスが私にはちょうどよかった。

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