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日本文法と日本語文法(ご恵贈御礼も兼ねて)

解説者の近藤泰弘先生より飯倉篤義『改稿 日本文法の話 第三版』(ちくま学芸文庫)をご恵贈いただいた。

解説に「おそらく大半の方は,この版で初めて本書をお読みになるのだと思う」と書かれており,まさに私はそこに該当する。解説でも言及されている『日本語表現の流れ』はどなたか(たぶん金水先生)に勧めていただき古書で買い求め読んでいたが,だいぶ前のことだ。続けて解説では日本語文法の研究史がコンパクトに(本書の背後にある時枝文法についてはやや詳しく)まとめられている。その他やや複雑な本書の書誌についても説明がなされている。書籍の解説には感想が書かれていると思うことも多く,その意味で解説はこうあるべしというのを見せられたような気がする。そういう意味では解題に近いかもしれない。

さて,以下は長い余談になる。本書を頂いてから時枝誠記『日本文法』や三上章『象は鼻が長い 日本文法入門』が頭に浮かび「日本文法」が「日本語文法」になったのはいつだろうと思ったのだが,近藤先生にも同じような感想が届いていたようだ。

近藤先生は日本語を広めた人として佐久間鼎の名前を挙げている。その広がりがどうだったのかを確かめる一助になればと思う。

ちなみに私自身は外国語学部日本語学科というにいたこともあり,「日本語文法」にかなりなじんでいるが,「日本文法」と呼ばれていたことは一応知っているというぐらいだ。

まず,NDLサーチのNgramを使ってみたところ,かなり日本文法が優勢で,入れ替えは96年頃(私の大学入学!)だった(画像にNgramへのリンクを付けている)。

この他に「国文法」という呼称もあるが,おおむね「日本文法」と同じような変化を辿っている。

NDL Ngramは本文を検索するので実態を反映するように思えるが,当然引用部分も出てくる(実態は未検証)ので,このケースでは実態と少し離れているかもしれない。

単純に研究界隈での使用実態を追うならNDLサーチやCiNii Researchもいいだろう。NDLサーチは明治・大正・1940年代まで・以後10年単位での検索結果は簡単に出せる。ここで書籍のタイトルに限定して「日本文法」と「日本語文法」を見てみよう。

NDLサーチを見ると入れ替えは1980年代と90年代の間に起こっている。

いくつかタイトルを見ると,「日本語文法」を冠したものでは『はじめての人の日本語文法』(野田尚史)が1991年で,他は学習者用の本や日本語教育関係の書籍が目立つ。日本語教育は1989年に改正入管法が成立して今の体制になったようで(資料),そのことも反映しているように思える。

次にCiNii Researchで論文を見てみよう(本も見れるけど,量を考えたらNDLサーチの方が良いと判断)。変化のカーブは書籍とほとんど変わらず,入れ替えmの1980年代と90年代の間に起こっている。

あくまで主観だが,「日本文法」という表現は古いという感覚があったので,入れ替えが80年代と90年代の間というのは驚いた。ただ,私が好きな井上和子(編)『日本文法小事典』も1989年刊行なことを考えると,そこまで古い表現ではないと考えるべきだろう。やはり主観というか印象はこうまで変わるというのを実感する。

余談が非常に長くなったが,本書は刊行が古いとしても,適切な読み方(それも解説にある)をすることで,現代語の深い理解にも繋がるものだと思われるので,ぜひ多くの方に読んでいただきたい。


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