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障害があっても「今すぐ」働くには、フリーランスしか道がなかった

「フリーランス」というと、「会社勤めより独立したほうが稼げるから」と選択する働き方のイメージが強いのではないでしょうか。

仕事能力が高いからフリーランス。ひとりのほうがお金になるからフリーランス。「フリーランス」という働き方を広めている人にはそういう華々しい例が多いように感じます。

私はそういうイメージとは真逆の「稼げないフリーランス」です。発達障害が由来の感覚過敏と易疲労性を持ち、それでも「今すぐ働きたい」という希望を叶えるには、フリーランスの道しかありませんでした。

労働可能時間の壁

私は易疲労性(疲れやすさ)があり長時間労働ができません。

どのくらいの長さをもって「長時間労働」とするかは人それぞれだと思いますが、世間の感覚ではおそらく「1日8時間+時間外労働」が長時間労働なのではないでしょうか。

ところが私にとって、1日に働くことができる限界の時間は4時間です。それも「通勤時間を含めて」です。仮に通勤に片道1時間かかるとしたら、会社で働けるのは2時間が限界です。

それ以上の労働時間は私にとっては「長時間労働」となります。

1日4時間ですら「健康を保てるギリギリのライン」です。本音を言えば、労働時間はもっと少ないほうが、健康を維持して余暇活動もしながら人生を楽しむことができそうです。

ですが、そんな短時間の労働はそうそう見つからず、あったとしても実情は障害者不可の場所が多いです。

障害者雇用という不条理な制度

世の中には「障害者雇用」という制度があります。企業には障害者の雇用義務があり、従業員数が多い大手企業ほどその重要性が高まるため、積極的に障害者を求めている企業も多いです。

私にはこの制度を利用できない理由があります。そう、労働時間の制約です。

企業に障害者雇用で雇ってもらうためには、最低でも週20時間以上の労働が必要です。1日4時間、週5日が最低ラインなのです。それでやっと企業には「障害者を0.5人雇った」と換算してもらえます。

ところが、週30時間以上働ける人なら1人と扱われます。企業としては1人雇って1人換算になるほうが嬉しいわけで、障害者雇用枠で要求される労働時間は週30時間以上であることが多いです。

私はそんなに長時間働くことができません。在宅ワークでも週20時間が限界です。

それでも私は働きたい。「今すぐ」働きたい。そう思った私には、フリーランスの道しかありませんでした。

会社勤めできない障害者は“作業所”しかない

ところで、障害者の働く場所として、就労継続支援という福祉サービスがあります。いわゆる「作業所」のひとつです。雇用契約が可能なA型と、時給ではない工賃をもらう形のB型があります。

A型は時給なので最低賃金が保証されていますが、その代わりに労働時間も障害者雇用と同等の週30時間程度を要求する場所がほとんどです。

B型は工賃なので、最低金額の保証がありません。最低賃金未満になることが普通です。その代わりに労働時間に制限はありません。なお、B型事業所の工賃は1時間250円でも高いほうだそうです(私の地元の場合)。

私が働ける時間は通勤時間を含めて1日4時間が限度。となるとB型に1日2〜3時間の通所が現実的であり、1日の工賃は500〜750円程度が見込まれます。

一方、公共交通を利用するとB型事業所までは片道250円前後かかります。在住自治体の支援によりバス代は半額になるのですが、半額になったとしても往復250円前後。1日の工賃の半分が出ていきます。

これでは昼食をコンビニで買ったら赤字ですね。お弁当を持っていくとしても、かろうじて赤字が防げる程度の額にしかなりません。

これで体力はギリギリなのですから、生きていく意欲も失せようというものです。

フリーランスでやっていこうと思ったきっかけ

B型事業所では体力的な負担と収入額が全く見合わず、通所する意欲が保てなかったので、昨年、会社勤めに挑戦しました。会社勤めをするのは10年ぶりでした。

職場では能力を高く買ってもらえて、いろいろな仕事をさせてもらいましたが、一方で私の発達障害の特性に職場の人が対応しきれませんでした。

私としてもさまざまな仕事をすることになって「慣れる」ことができず、いつまで経っても疲労感は重いまま……それどころか疲労は増すばかり。週2日、1日4時間の労働でしたが、それで過労でうつ病になりかけるくらい、私にとっては過酷な職場でした。

うつ病の再発はどうしても避けたかったため、なりかけた段階で退職を決意しました。わずか4ヶ月で退職したことで、私には会社勤めを諦める決心がつきました。「私は人に雇ってもらえるほど長時間は働けないんだ」と痛感したのです。

ですが私の中から「働きたい」という思いが消えることはありませんでした。

今すぐ働きたい! そう思ってクラウドソーシングと内職を始める

クラウドソーシングには会社勤めを始める1年半前から挑戦していましたが、課題となるのは仕事量の調整でした。いくら自宅で働けようとも、四六時中いつでも働いているような状態では心身がもつはずはありません。それで一旦はクラウドソーシングを諦め、会社勤めを志したのですが、無理とわかってはまたクラウドソーシングを再開するしかありませんでした。

クラウドソーシングでフリーランスで働く道も、決して楽なものではありません。誰も仕事をくれないので、自力で探さなくてはなりませんし、私はフリーランス向きのスキルを持っていませんでした。

フリーランス向きの職種として、Webデザイナーやプログラマー、ライターなどが挙げられます。この中で私がかろうじて仕事にできそうなのはライターでした。ですが挑戦してみたところ、疲労が強すぎて健康を維持できず、職業にするのは困難だとわかりました。

ものづくりの内職にも挑戦しましたが、「そこそこの品質のものを大量に作る」という職種だったため私には合いませんでした。完璧主義的な思考があるせいか、集中しすぎて疲労が強くなってしまい、少ない個数しか作れないのです。その代わりに完成度は高いらしいのですが、向こうが求めていたのは量だったため、契約を解除されてしまいました。

そこで自分が受注できるなかでは適職と言えるデータ入力を主体することにしました。

データ入力のような単純作業は、

・作業の見通しが立ちやすい
・作業時間の見積もりもしやすい
・脳の負担が重すぎない

という3つの利点があり、私にとって健康を維持しながら働きやすいのです。

ただし、クラウドソーシングサイトでデータ入力の仕事は多くあるように見えて、自分向きのものはなかなか少ないのが現実です。中には無在庫転売の片棒をかつぐ仕事もあり、倫理的にどうなのかと思ってしまう部分もあります。

データ入力のよい仕事を見つけるのに苦労するので、ゆくゆくは他のスキルを身につけることも考えるべきなのでしょう。これは今後の課題のひとつです。

健康を維持して長く働くための自分なりの工夫2つ

改めて確認しますが、以前クラウドソーシングに挑戦して一旦続けられなくなった原因は、仕事量の調整が上手くできなかった点でした。

・応募しすぎて忙しくなりすぎる
・応募を控えすぎて暇になりすぎる
・案件検索を、自由時間にやってしまう

このような問題があって心身の疲労が重くなり、クラウドソーシングを続けることが難しくなってしまったのです。

なので、第一の工夫として「1日の業務時間を明確に決める」から始めました。自分の営業時間を定め、業務に関わることはその時間内のみに行うのです。

具体的には、

・業務そのもの
・業務に関わる連絡(メールや電話)の確認、対応
・案件探し
・業務に関連する雑用

などです。仕事に関わることはとにかく業務時間内のみ! これを徹底することで、自分の弱点である「疲労しやすさ」をカバーし、細く長く働けるようになりました。現時点ではなんとか8ヶ月ほど継続できています。

昨年辞めた会社は4ヶ月でしたが、その10年前に辞めた会社は1年2ヶ月(そのうち好調に働けたのは6ヶ月だけ)です。これを思うと私にとってはかなり長く働けていると言えます。

第二の工夫は、仕事とプライベートの切り分けです。私の場合、在宅ワークで私用のパソコンを仕事にも使います。そこで、私はブラウザ(Google Chrome)の仕事用アカウントを作り、仕事関係は全てそちらにまとめました。

・仕事中は、プライベートなものを見ずに済む
・プライベートの時間は、仕事のものを見ずに済む

メールアドレスも私用と仕事用は完全に分離しています。これが非常に快適です。業務時間以外は仕事がらみのことは見聞きしたくないため、完全に分けることで在宅ワークのストレスが減りました。

フリーランスの在宅ワークとはいえ、オフィスに出社するつもりで業務時間を明確にし、仕事とプライベートを可能な限り分ける。これが私の働き方には必要なことなのです。

労働時間は1日4時間です。午前2時間、昼休み1時間、午後2時間。また週5日労働(原則として月曜〜金曜)と定め、休日に仕事をした場合は代休を作って週休2日が崩れないようにしています。

私は規則正しい生活を好むアスペルガー症候群なので、食事時刻と就寝時刻はもともと決まっていました。なので仕事時間を定めることにも苦痛はありませんでした。むしろ祝日で乱れることに苦痛があるほどです。その点は自分の障害特性に感謝してもいいかもしれません。

肝心の収入はまだまだ少ない

さて、このような働き方を心がけて収入はいかほどかと言うと、おおよそ月収1万円前後です。誤字ではありません。10 thousands yenです。

この1万円という数字、会社勤め経験者から見ればあまりに少額でしょうが、就労継続支援B型事業所に通所していた身からすると月収が倍以上になりました。

というのも、私が健康を維持して通所可能な日数は当時週2日、1日2時間だったので、1日500円。フルに行けて月8日で月収4,000円でした。通勤は約1時間かかりました。交通手当があったので、交通費はかかっていませんが、それにしても少ないですね……。その上、休むこともときどきあり、月8日も通えない月のほうが多かったです。

私は感覚過敏などもあり、外に出る日が3日続いたら1日以上の休みが必要で、5日連続して外出すればその後1週間の休みが必要なほど疲労します。ですので外に通う形では労働可能時間も日数も少なくなります。

私はそこで「日数を増やせるよう地道な努力を」と考えませんでした。なぜなら、就労移行支援や就労継続支援に5年ほど通所しても、通所可能日数は週2日以上には増えなかったからです。週1日から週2日には増えたのですが、週3日の壁は数年かけても越えられませんでした。

その理由の中には体力的な負担もありますが、「あまりにも僅少な収入でモチベーションが保てなかった」も確かにあります。精一杯努力しても月収4,000円じゃ医療費もまかなえません。(私は医療費は自分の収入から払っています)

なので、このまま週3日の壁を越えるまでまた何年かかけるよりも、「今すぐ!」働ける方法としてフリーランスの在宅ワークを選択しました。結果として月収は自分にとっては増えました。

何よりも日々の充実感が段違いです。クラウドソーシングでは通常、わざわざ障害をカミングアウトしません。一般の在宅ワーカーに混じって応募しながら採用され、報酬を得られるのは達成感に繋がります!

自分で仕事を探し、応募して交渉し、達成して、報酬をもらう。この充実感、達成感はフリーランスならではでしょう。

もっと知ってほしい「人並みかそれ以上に仕事ができる発達障害者」の困難

最後に、私が会社勤めをしようとするにあたって存在する大きな支障の話をします。

それは私が仕事ひとつひとつをとれば「人並みかそれ以上」の仕上がりになることです。

発達障害者の仕事の困難といえば、「覚えが悪い」「仕事が遅い、不正確」「仕事の出来が悪い」などが主だと思っている方は多いでしょう。それらの対処を書いた本が多数あることからも、そういった困りごとを抱える当事者と職場の人がいかに多いか想像がつきます。確かにそれはそれで苦痛が大きいのでしょう。

ですがそういう情報が溢れるせいで、人並みかそれ以上の仕上がりで仕事ができる私は、苦痛を理解してくれる人に滅多に出会いません。人並みかそれ以上の仕上がりの仕事をする過程で「体調不良になるほどの苦痛」「健康を維持できないほどのストレス」を感じていると言っても、全く信じてもらえず、相手にもしてもらえません。障害者支援が仕事の人ですら、ほとんど理解してはくれないのが実情です。

仕事の出来がいいせいで、「苦痛だ」「苦手だから避けたい」と言っても、「いやちゃんとできてるでしょ」と謙遜扱いです。更にレベルアップした仕事を与えられることもあります。そして仕事の苦痛が強くなりすぎ、体調が維持できなくなって退職。それが過去2回の会社勤めで起こったことです。

クラウドソーシングを始めたばかりのころ、「文章が上手い」等とよくほめられるからライターを仕事にしてみようと挑戦したことがありました。そのときも1〜2本書いて限界を感じましたし、他の仕事も手につかないほどの疲労を感じました。

他人が認めてくれる能力を、さまざまな困難に阻まれて満足に発揮できない。それが私の人生です。

思えば私はどこへ行ってもそうです。「優秀な人」と扱ってもらえる反面、感じている苦痛はわかってもらえず、体調が悪化してダウン。その繰り返しです。

フリーランスを志そうと思ったのは、人に理解してもらうことを諦めたからでもあります。仕事の仕上がりがよくても、強い苦痛も現実に存在します。なら私が自分自身で仕事を選り分けるしかありません。人に任せては、また私が極度の疲労で潰れるのです。

ましてや、私の特性を充分に理解して仕事を割り振ってくれる人に出会う日など来るとは思えません。何しろ障害者支援が仕事の人にもなかなかわかってもらえない困難さなのですから。

苦痛や困難は人と比べるものではありませんが、「頑張っても人並みにできない人たち」は苦手さをわかってもらいやすそうだなと羨ましくなってしまうことがあります。ですが向こうからしたら私のような例が羨ましいのかもしれませんね。「隣の芝生は青く見える」とはよく言ったものです。

まとめ:自分を正しく使える人間は自分しかいない

「どこかの誰かが自分の能力を上手く使って楽に稼がせてくれる」などという夢物語は、現実にはそうそう起きません。

私のような人の理解を得づらい障害特性の人間は、自分で自分を使いこなすしかないのだと、会社勤めに2度目の失敗をしたことで悟りを開くに至りました。

フリーランスで働いてみて苦痛や困難を感じることはたびたびありますが、生活の工夫を考えて実践するのは私のライフワークのひとつです。工夫が功を奏したときには喜びもひとしおです!

今後の課題・目標は、

・もう少し収入を安定させ、向上させること
・余暇活動ができる余力を生み出すこと

この2つです。

今は人生を楽しむ余裕が足りないので、余暇を楽しむ精神的余裕が生み出せる仕事の形をこれから模索していきたいです。

これからも自分らしい働き方で、人生を楽しんでいきます。

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