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夢を見に行く旅

友人が、ちいさな町で夢を叶えた。

元同僚でコンサルタントだった彼女は、数年前に夫の仕事の都合で関西から中部地方に転居することになり、退職した。弊社はそのエリアにも支店があるため転勤も可能だったが、それを機にコンサルタントから全くの異業種に転身することにした。
ビールの醸造家だ。
大のビール好きだった彼女は、自分でビールを作ることにした。

いくら好きとはいえ、クラフトビールメーカーに勤めたりビアバーを開いたり、他に色々関わり方があるだろう。けれど彼女は、自分で自分のビールを作ることにした。コンサルタントとして食品・飲食関連企業の支援をしていたことも、もしかしたら関係していたのかもしれない。
アルコール製造は、依存性のあるものを作るとあってライセンスの取得に大変厳しい基準と複雑な手順を要する。開業後も、製造管理申請など大変厳しい手続きが必要だ。近年クラフトビールは盛り上がっているものの、多くの志望者はそのハードルの高さに諦めるケースも多いようだ。にもかかわらず、彼女は持ち前の営業力とネットワークを活かして名の知れたクラフトビール醸造所で修行し、同業界の先輩たちの支援を得ながら役所への複雑な手続きを乗り越え、今年ついにちいさな醸造所を開業した。

梅花藻が揺れる小川のほとりに、その醸造所はあった。
「久しぶり」
と予告せず急に訪ねて行ったら、「嘘でしょ?!」ととても驚き喜んでくれた。

ステンレスのタンクが並ぶピカピカの醸造所を案内してもらって、早速彼女が作ったビールを入れてもらう。タップから、自分が作ったビールをグラスに注いでくれる姿がかっこよかった。それを眺めるこちらも、感無量だ。
IPAと呼ばれるホップの強いインディアンペールエールスタイルのビールは、爽やかなホップがしっかり香る、けれど苦過ぎずさっぱりとした味わいで、私が飲んだ中で一番美味しいIPAだった。さすが、ビール好きの作ったビールだ。彼女が作った5種類のビールをそれぞれハーフパインとずつ、飲ませてもらったが、ベルギースタイルにしろエールにしろどれも素材の特徴とスタイルの個性がはっきりした、しっかり美味しいビールだった。

近況を報告しながらビールを味わっていると、お客さんがポツポツ入ってくる。常連さんや、よその店で聞いたとわざわざ訪ねてきた人もいた。初対面ながらカウンターに並んで情報交換をしたり、楽しい時間を過ごして夕方お店を後にした。
直前に訪問を決めたが、やはり行ってよかった。美味しいビールを飲めたことはもちろんだが、個人事業主として立ち上がった彼女の姿をこの目で見られて嬉しかった。

関西からはちょっと遠い土地だけれど、また彼女に会いに行こう。
そして、美味しいビールを飲ませてもらおう。

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