シーズン終了間際の山行
今年の夏は暑すぎて、また忙しすぎて、週末のほとんどを冷房の効いた部屋で怠惰に過ごした。標高2,700mを超えて、そのツケを払う羽目になる。
10月の三連休に有給休暇をつけて、5連休を確保していた。どこに行こうかずっと悩んでいたが、これまで登ったことのない山に登ることを思いついた。西日本にはない、2,000mを超える山。ちょうど、紅葉のシーズンになっているはずだ。
以前からYAMAPで登山計画だけ作成したものの実現していなかった、白山に登ることにした。当初の計画ではテント泊の予定だったが、怠惰な夏を過ごした身体には厳しすぎるし、天気も良くなさそうだった。そこで、白山室堂の山小屋を予約した。
前日は在宅勤務にして、仕事が終わるや否や車で福井に入り、翌朝出発した。登山口に着いたのは9時を回っていたため、予定より随分遅くなってしまった。1,200m地点はやや涼しかったものの、ザックを背負って歩き始めると一気に汗だくになった。今年の夏は暑い場所にはほぼ行かなかったため、身体が暑さに慣れていなかったのだ。早い段階でバテてしまい、通常であればコースタイムより随分早いペースで登るのだが、親ほどの世代にまで追い抜かれる始末だ。山小屋泊で、0℃近くになる気温予測に畏れをなして防寒具を増やしたのも良くなかった。吟味せずに詰め込んだ荷物の重量が、長時間のデスクワークで体力の衰えた身には大きな負担となった。
日本三大霊山と言われる白山は、白山比咩神社を本宮とする奥宮であり、古くから山岳信仰の対象として敬われ、また修行の場でもあった。標高1,200mから山頂2,700mまで、約1,500mの高低差がある。これをコースタイム4時間ほどで登るのだから全体的にとんでもない急登だが、延々続く坂はそれでも良く整備されており、1時間半ごとにきれいなトイレもある。その上で、十二曲がり(激坂)や弥陀ヶ原(天国)、五葉坂(激坂)など、苦→楽→苦→楽を繰り返すという日本人のドMゴコロをくすぐる構成になっており、唸らされた。期待していた紅葉は、今年の秋が暑すぎて生憎色づく前に落葉しているそうだったが。
休憩も含め5時間かけて山小屋を運営する白山室堂ビジターセンターに辿り着くと、受付をして部屋に案内してもらい、汗まみれの体を汗拭きシートで拭いてさっぱりしてから、売店で念願の山頂生ビールをいただいた。
こんな高所で生ビール(キリン)が飲めるなんて。そもそも、普段の山行では帰りの運転があるためビールなんて飲む機会がなかった。宿泊登山ならではの楽しみである。
そして、標高が高いと泡がモクモク膨らんでしまうという知見を得た。溢れそうだったので、慌てて啜った。これもお神酒の一種なのだろう。ただし、標高2,450m地点は5℃程度だったので、寒すぎて震えた。
夕食は17:00で、日没は17:40くらい。消灯は20:00だった。いよいよ頂上を目指す明日に備え、お米多めなご飯を食べて、山荘脇の高いところに登って夕陽が沈むのを眺め、部屋に戻った。20:00消灯なんて、普段は絶賛残業中の身にはどう過ごせばいいかわからなくて戸惑ったが、気づけば爆睡していた。考えてみれば、この数日は会社のシステムが強制終了となる21時半過ぎまで働いて帰宅は23時、睡眠時間も短く前日は移動もあり3時間程度しか寝ていない。未明まで目も覚まさず、トイレに起きたときに見上げた夜空は、満天の星で埋め尽くされていた。
翌朝、山頂でご来光を迎えるべくまだ暗いうちから出立する他の宿泊者たちの気配を感じながら、夜明けギリギリまで布団の中にいた。夕陽と朝陽は写真で見ると見分けがつかないことを、数年前の剣山テント泊で私は知っている。とはいえせっかくなので太陽が昇る前に外に出たが、曙光を確認して部屋に戻った。山小屋は8時には退出しなければいけないので、荷物をまとめてから7時ごろに朝ごはんを食べて、出立。そこから、標高2,700mの山頂御前峰まで上り、白山比咩神社奥宮を参拝した。
登山前日までは天気が悪いと予想されていたため、雨なら行程を短縮して下山しようと考えていたが、時々霧が出る程度で快晴に恵まれてしまった。おかげで、何一つ省く理由がなくなったので、計画通りお池巡りをしてから下山することになった。朝からすでにひと山登ったので、すでに疲労が蓄積されている。おまけに、斜度のきつい道を下るとなると、脚が自重に耐えかねた。すっかり筋肉から脂肪に等価交換された前ももが、ずっと小刻みに痙攣している。一歩一歩崩れそうになりながら、せめて転倒しないよう慎重に歩みを進め、結局想定の1.2倍ほどの時間をかけて登山口まで戻ってきた。これまで数々の山に登ってきたが、自分のコンディションがここまで悪いのは初めてだった。
山は、筋肉を使って登るものであって、脂肪では登れないし下れない。
あまりに肉体的に辛かったので、景色を楽しむ余裕があまりなかった。その後、温泉旅館で疲れを癒したつもりだが、フルマラソンを走った後のような筋肉痛に苛まれており、帰路の運転もMT車のため苦労した。今も、ヨボヨボと部屋を壁伝いに移動しているし、三連休が終わるまでに治る自信がない。
しかし、これだけ整備された山だったおかげで、怪我をすることなく無事下山できたのかもしれない。いざという時も、他の登山客が多いおかげで誰にも発見されずにひとり朽ちていくリスクは低そうだった。何より、自分の現状を厳しく目の当たりにできたのは良かった。背負った個々のアイテムを軽量化するより、自分を軽量化する方がずっとコスパが良いのはわかっている。
筋肉痛が治ったら、パーソナルトレーニングジムに入会するつもりだ。考えてみれば来月人間ドックもあるし、年末にはパレルモにも行く。それまでに、ある程度結果を出したい。