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「まぶしい光」で片頭痛

モトオは朝日が苦手でした。

朝の光を避ける様子はまるでドラキュラのようで、初めて目にした時はなにか見てはいけないものを見た気がしました。

結婚して一緒に暮らすようになったある日、私がカーテンを開けて朝の陽射しを入れた時のことでした。隣で寝ていたモトオが「うひゃあーっ」と、やられた感半端ない変な声を出してきたのです。

面白い声を出してきたので、ふざけていると思いきや、なんと彼は大真面目。

私がカーテンを開けたことに本気で怒っていると分かった時はドン引きでした。
理不尽に思った私は「おまえはモグラか、ドラキュラか!?」と、心の中で一人突っ込みを入れるしかありませんでした。

カーテンを開けただけでこんなに怒るなんて!仕返しに、次は十字架を見せてやろうかと思いました。つきあっていた頃は、朝日が苦手なんて素振りは一切なかったので別人のようでした。

でもまあ、きっと仕事で疲れているのだろうと大目に見てあげることにしました。けれど、途端に私は薄暗い部屋で陰気な朝を過ごさなければいけなくなり、朝型の私は耐えられなくなっていきました。

彼は寝室に陽の光を入れないのは当たり前で、オレの実家ではそれが常識だと言いました。その証拠に彼の家では、彼の父が仕事のコネを使って手に入れた舞台用の本物の暗幕をカーテンとして使っていたそうです。「暗幕は最高だね。光が一切入ってこなくて、朝でも真っ暗で良かった」という話しに、ぞっとしました。

結局、私はモトオに気を使うことをほどほどにすることにしたのですが、モトオには夫婦はパートナーという概念がない上、ASDだったので、そもそも心の理論がなく自分の気持ちも人の気持ちも分かりませんでした。ASDと知らずに結婚生活をスタートさせるとどうなるか、私はまだまだ知りませんでした。

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ムスメも苦手だった

モトオと同じASDの特性を見事に引き継いでいるムスメですが(これを言うとムスメは烈火の如く怒るのでうちでは禁句なのですが)この光問題も同じでした。

寝起きの悪さはずっと睡眠の問題だと思っていたものが、実は感覚過敏と脳の過剰反応だと分かったエピソードがあります。

「片頭痛の原因がまぶしい光!?」というテーマのテレビ番組(NHKためしてガッテン)で、片頭痛の原因がまぶしい光だと分かっただけではなく、ストレスや感情の影響、睡眠不足に、睡眠過多、チョコに、赤ワインに、香水、ベーコン、ソーセージにナッツと原因は多岐に渡るらしいのです。

ムスメがそれを見て「分かるー!」と嬉しそうに頷いているのを見て驚いたのは私でした。ムスメが頭痛持ちだということを全く知らなかったのです。

「頭が痛いって言ったことないよね?なんでいままで言わなかったの?」と聞くと、「なんでって聞かれても。。。普通によく起きるし、言っても別に変わんないし、そもそもこの感じが頭痛だって分かんなかったんだと思う」と言うのです。

聞けば聞くほど驚くというか、大変な世界にいるんだなあと思いました。

番組によると、生き物には「第三の目」と呼ばれる光センサー(内因性光感受性網膜神経節細胞)があり、脳に信号を送るらしいのですが、脳が過剰に反応すると頭痛を引き起こすそうなのです。

部屋の白い壁も原因になると聞いて「引っ越してきた時、なんか思った!ここって全部真っ白でダメなんじゃん」とムスメが言うので、「いままでのあなたの部屋も(生まれてからずっと使っていた子供部屋)白だったよね?」と私が言うと、「私の部屋の壁だけベージュがかってたから大丈夫だったよ」と言うのです。

そうだ、そうだった!遠い昔、いつか生まれてくる子供の為に「よく見るとベージュっぽい優しい白」の壁紙を選んだことを思い出した。そんなつもりはなかったので私は忘れていたけれど、ムスメはずっと意識していたそうです。知らずに壁紙の色が特性に合っていたのは驚きでしたが、「じゃあ今は真っ白だから頭痛がしてるの?」と聞くと、初めの頃は白過ぎて疲れてたけど今は慣れたんだとか。

テレビでは、対策にサングラスをかけることを勧めていましたが、ムスメの頭痛はそれほどではないそうです。寝る時はできるだけ暗くして、カーテンから漏れる朝日は慣れるしかない。寝起きが悪いのは仕方がないけど、以前に比べると大分良くなったよね、などなど。いままでは特性の事となると怒り出していたので、こうして普通に話せることが奇跡でした。


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