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病気になる仕組み③ 五邪六淫

病気になるのは、正気と邪気の戦いで正気が負ける(邪が強い(実証)or正が弱い(虚証))ことが根本原因です。(→参照①)そして、何かが余ってしまったり(実)ポンプ機能が弱ったり(虚)して滞りが出来ても病気になります。(→参照②
邪気というのは、五行の表に出てくる「気」(やわるしすでは天の気と言い表します)がメインです。種類は「風・暑・湿・燥・寒」の5つ。
五行の表に出てくる時は「気」と呼ばれていて、それは特に悪いものではありません。ここでも、中医学の根底に流れる「ただ存在するだけで悪いものはない」という考え方が出てきます。
例えば、火の行の天の気は「暑」です。暑の気という事は、熱を持った粒々エネルギーです。夏の暑さが厳しい昨今ですが、そもそもは熱の粒々が適度にあることで「あったかい」と感じる段階があるはずです。そして、「あづい…」という段階があります。「あったかい」とか、それ以前に特に感じないという段階は「気」と呼び、「あづい…」となってくると「邪」と呼ぶという感じで捉えていただくといいかと思います。つまり、同じものなのに「気」と呼ぶか「邪」と呼ぶかは、人間のご都合だ、という事です。医学は人間の為のものですから、人間都合なのですね。
そして、この邪たちは、人間の体の外から入ってきたり(外感)、体内で生まれたり(内生)します。(一応、外から来る場合「六淫」、中で生まれる場合「五邪」と呼びますが、季節性で外から来る場合に「邪」と呼ぶことがあって紛らわしいので、専門家じゃなければ覚えなくてもいいんじゃないかと思います)
まずは5つそれぞれの特徴を記しておきます。分かりやすいものから始めます。

■寒
水の行の気で陰邪です。単純に「冷やすエネルギーの粒々」です。
人体に与える影響としては、①傷陽②凝滞③収引です。
①傷陽
寒邪のせいで陽気が減ると思ってください。プラスマイナスで打ち消し合うイメージです。寒邪そのものによって体が冷えるのですが、更に陽気も減って温める力が弱まるという二段階の影響を受けるわけです。(「寒邪がある→陽気損なう→冷える」だけではないということ)
陽気が足りない(陽虚)時に起きる症状が様々に出て、体が冷えたり、気化作用が弱ったりします。下痢、尿が無色透明で多いなども陽虚の目印です。
②凝滞
字の通り「凝り、滞る」です。理科で習ったように、物質は温度が上がればよく動き、低温なら動きが鈍くなります。水であれば、加熱により沸騰し気体となり動きまわりますが、冷やせば動きが鈍くなり固まって氷になります。あのイメージです。(ですので、暑邪は逆の特徴を持ちます)
では何が「凝り、滞る」のかというと、まずは気血津液です。そして「不通即痛」に繋がっていきます。津液が巡らなければ、痰が出来る部分と乾燥する部分とが出来るでしょうし、気血が巡らなければ末端が営養されず冷えが来たりします。
また、便が凝り滞れば便秘になりますし、胃がそうなれば消化不良や胃もたれなどにもなります。
このように、起きる症状は、何が凝り滞っているかによって様々に現れます。
「寒邪の存在→凝滞→何が凝るかによって、様々な症状」
③収引
「収縮して、引っ張る」というイメージをしてください。(凝滞も少し関わっています。凝り固まった部分が収縮して、周りを引っ張ってしまうわけです。)引き攣れた感覚になったり、それによりまた痛みが出たりします。分かりやすいのは、筋脈や経絡に寒邪が入り収引され、肩こり腰痛になるものです。
腠理が収引されると、開閉がうまくいかず、入って来た邪を追い払えなくなったり、衛気が巡りにくくなったりします。その時には悪寒がしたりします。

こういった作用をする「寒気」「寒邪」ですが、これが外から入ってくるパターンと、体内で生まれるパターンがあります。
外から入ってくるのは、例えば冬だったり、クーラーがキツイ所で過ごすとか、寒い国に住んでいるとか、かき氷を食べるなどの状況が考えられます。
更にこの寒邪が体表面にある状態が続くか、中に入ってくるか、どこにいるかでまた証が変わってくるので、症状も変化します。
体の中で生まれる時は、主に「陽虚」が原因です。体を温めることが出来ず、冷えが続くと寒邪が生まれてしまうのです。全身の陽虚の場合もありますし、脾陽虚、腎陽虚など臓腑ごとの陽虚で生まれることもあります。寒邪が陽を損なうし、陽虚が寒邪を生み出す、という因果の行ったり来たりがある関係です。
外から外邪として受けた場合は、「散寒」(表面にある場合)、「温中」「温○」(臓に入った場合)しますし、内生した場合は「補陽」がメインになります。
・散寒:白ねぎ、ひらたけ、よもぎ、八角、ムール貝
・温中:生姜、桂花、胡椒、インディカ米、赤貝
・温肺:からし、胡桃
・温腎:ピスタチオ
・暖肝:黒米、黒砂糖

■暑
火の行の気で陽邪です。「熱のエネルギーの粒々」です。
人間の体に与える影響は①昇散②傷津耗気です。
①昇散
火の行ですので、炎をイメージしていただくと分かりやすいと思います。炎は上へ燃えていきます。燃える物体が下にあっても上に向かって燃える(ろうそくなど、火を下にして持つと燃えが早くなりますよね)という性質は、よく考えたら変ですが、それは燃えるという現象ではなく、火そのものの特徴なのかもしれません。そして、炎はちらちらとしますし、延焼することもあることから、「散」も分かりやすいのではないでしょうか。
暑気、暑邪による病気は、上半身や表面に出やすい、とびひしやすい、というような特徴に繋がります。が、そうは言っても足に炎症が起きたりもしますので、あまりこだわらないでください。たまに思い出してください。表面にというのは、できもののイメージを持っていただくといいと思います。
②傷津耗気
熱のエネルギーなので、津液を蒸発させ減らしてしまいます。全身の津液が減ることもありますし、熱邪がある場所の津液が減ることもあります。そして、その結果、乾燥が起きたりもします(これが燥邪の仕業と区別をつけにくい)
そして、熱が気分(衛気営血の分類による気分)に入ると、気も損なわれます。これは、熱くて汗をかく時に、津液と一緒に気も出ていくというものとはまた別です。(仕組みが書かれている古典を発見できていませんが、熱で分散しようとする体のエネルギーなどを気が統率しようとして消耗する、または、熱証の部分が自分の熱を維持しようとして気を吸収する、という感覚が近い気がします。)
この2番は、夏バテに繋がっていくイメージは簡単にできますね。
※火・熱
暑邪の強いものとして、熱邪と火邪があります。この違いも様々に書いている方があるので、割愛します。
①生風動血
主に火邪で起きます。熱の場合は、風邪を生み出す段階までという感じです。熱エネルギーは空気を激しく動かすので、それが風になります。その風が血分に入ると、血流が激しくなってしまうことがあります。出血したり、爛れを伴う皮膚炎が起きたりします。心にも負担がかかります。
②心神に影響
①ともリンクする部分がありますが、心という臓だけでなく、心が司っている精神活動全般にも影響が出ます。元々持っている体質・証と合わさって、そわそわやイライラ、うつうつなどになったり、ひどいと失神、卒倒したりもします。(上に上がる、血脈に影響ということで、脳の血管の心配も出てきます)

外感する場合、夏だったり熱い国だったりがあります。局所的に熱に当たってしまった時も同様です。内生するのは、臓腑に熱が生まれる時があるのと、陰虚によるものがあります。また、風邪が暴れまわって火邪が生まれることもあります。臓腑に熱が生まれる時には、感情が関わっていることもあります。
熱を外感した時には「清熱」「清暑」「瀉火」を使います。内生の場合は、陰虚なら「滋陰」、臓腑の熱はそれぞれの熱を取るもの(例えば「清肝」「瀉心火」など)
・清熱:アロエ、きゅうり、冬瓜、柿、緑豆
・清暑:苦瓜、ローゼル、ココナツ、パパイヤ、菱の実
・瀉火:あさり、塩、くちなし

■湿
土の行の気で陰邪です。「水っぽいのエネルギーの粒々」です。
湿の特徴は①重着粘滞②阻滞気機です。
①重着粘滞
湿の粒々は、重さを持ちます。他の粒々も持ってるのかもしれませんが、湿はそれが顕著です。しかも、粘り気があってくっつきやすい。「潤うね」程度の湿気はとてもありがたいですが、多すぎると、重いし、くっついてきて煩わしいし、べたついてモノゴトを停滞させます。(それが②にもつながっています)
そんなわけで湿邪による症状は、重さ・粘り・くっつく感じを伴います。例えば、「だる重い」疲労感だったり、「頭に何か乗っかってる」頭痛だったりします。また、皮膚炎の中でも「湿気」つまりジュクジュクを伴うとか、傷にしても「ねばねば」したもの(膿など)が関係しやすくなる、といった具合です。
②阻滞気機
湿邪は他の邪に比べて重さがあり、物質に近い存在と捉えることが出来ます。粒々としての存在感が一番ある、といいますか。なので、気の巡りを阻んで滞らせることもあります。似た状態に、痰による気機の阻滞もありますが、打つべき手が違うので分けて認識しておきましょう。(湿が重なりすぎて痰になることもあります)
この時は、湿邪による症状の他に、気の巡りが悪くて起きる症状や気が足りない(滞ればその先は足りなくなる)症状が起きたりします。

ここで気を付けたいのは、「湿」は常温である、ということです。と言うのも、湿邪を温度と共に考えてしまうと、弁証がおかしくなるからです。
何故、湿邪に温度を勝手に加えて考えてしまうかと言うと、2パターンあると思います。一つは、日本の夏のイメージで、暑邪と一緒に症状などを考えてしまう。もう一つは、湿は陰邪だから冷たい、と繋げてしまう。
あくまでも湿は水っぽい粒々です。氷でも蒸気でもありません。これを忘れないでください。
状況によって、湿邪は暑熱邪や寒邪と一緒になって襲ってきます(もしくは発生します)。でもそれは、「一緒に来た」だけです。分けて考えることが重要です。

外から来る湿邪のパターンとして、梅雨時など雨の多い時に外から襲ってきます。土地で考えると、日本は海に囲まれているので、どちらかと言うと湿邪に襲われやすい国です。
内生のパターンとしては、津液の巡りが悪い場合が考えられます。津液の巡りが悪い原因は?と考えていくと、様々に原因が広がっていきます。一番単純なものですと、何か障害物があって巡りの邪魔をしているとか、ポンプである脾が元気を失っているとか、陽が足りなくてうまく湿を蒸発できない、などです。他にも、臓腑の働きと合わせて、様々に考えることが出来ます。
・袪湿:さくらんぼ、にんにくの芽、どじょう、鱧
・燥湿:金柑、花椒、カルダモン
・利湿:空豆、ココナツ、蟹、しじみ、くちなし
・化湿:ぼけ、ふじ豆

■燥
金の行の気で陽邪です。「かさかさしたエネルギーの粒々」です。
燥の人体への影響は傷津のみです。
①傷津
燥邪があると津液が減ってしまう。それだけなんです…
特に肺の潤いがなくなりやすいということと、口や鼻から侵入してくる、というくらいしか情報がありません。
※これを以て、燥邪は簡単とする向きもありますが、金の行は謎が多い気がするので、新しい世代の中医学として観察研究が必要なのではないかと思っています。よろしければマガジンに入れていないこちらも。→「金と菌」
燥邪も温度とは無関係で、温燥と涼燥、どちらもあり得ます。

外から来る場合というのは、いわゆる湿度の低い季節やそういった場所にいる時です。
対策としても「潤燥」というものになります。これが肺に集中して策を施したい場合は「潤肺」、大腸なら「潤腸」という具合です。
・潤燥:人参、ほうれん草、梨、鶏卵、ごま油、白ごま、豆腐
・潤肺:クレソン、白きくらげ、杏、杏仁、牛の髄、蜂蜜
・潤腸:バナナ、桃、ヨーグルト、大豆油、落花生

■風
木の行の気で陽邪です。※これだけ、粒々のイメージがあまり持てません。動き、波、変化という方がいいのかもしれませんが、一応、それを起こす粒々があるかのようにとらえています。
風の人体への影響や特徴は①開泄昇発②善行数変です。
①開泄昇発
表面を開き、内にあるものを追いやってしまうイメージです。そして、上下で行けば上に上がりやすく、内にこもるよりは発散傾向です。木の気なので、「伸び伸びと」と言えばそうなんです。人間の体内でも、自由奔放に振る舞います。肌表面から入ってくるのですが、「ねえねえねえ!いる?入っていい?お邪魔しまーす」というのを返事を待たずにやってくる感じです。そして、家の中のものを手に取っては放り投げ、何なら家の外に捨てる。
少しの風気ならば、気付かない内にそっとゴミ捨てしておいてくれて気が利くなあとなるのですが、多い風は言うなれば「趣味のコレクションまで勝手に断捨離してくれる有難迷惑な人」です。しかも、誰か一緒に連れてくるんです。他の邪を。これが、「風邪は万病の素」という言葉に繋がっていると言われます。
②善行数変
これは①とも多いにリンクしています。意味は、「よく行動し、数多に変化する」です。自由奔放なので、体内でもあっちこっちに移動し、症状も様々に変化します。玄関で植木鉢を割り、キッチンで水をぶちまけ、リビングでソファを破る、といった暴れ方です。しかも、突然来訪します…。
例えば、肌が痒いなあと思った時に少し掻くと、痒い場所がどんどん移動していくことがあります。あれが善行のイメージです。そして、痒かっただけなのが、赤くなり、ブツブツが出来て来て、汁が出る、というような変化が数変です。他に身近な例としては「カゼ」があります。
「カゼ」は日本では「風邪」と書きますが、風邪が何かを連れて来て起きる「感冒」のことを指します。カゼは、喉の痛みや悪寒から始まり、鼻水、咳、痰、頭痛、発熱と、体のあちこちに色々な症状が起きます。これも善行数変です。風邪のせいなのです。

外から来る風邪としては、ぴゅーぴゅーと吹く風のイメージになると思いますが、気圧の変化も風と捉えてもらうといいかもしれません。空気が動くけばそこに風邪が発生する、という考え方です。
同様に、体内の気が暴れる状況になると風が内生します。例えば、体内に火邪があると、そこに風が生まれます。特に、肝火が原因になりやすいです。肝の陰虚、血虚からも風が起きるとされています。
外から風が入ってこようとする時に留めるのは「袪風」の力で。内生しないようにするには、「平肝」「養血」などを使います。既に体内で暴れている場合には「熄風」します。
・袪風:うど、コールラビ、葉ねぎ、海老、松の実、黒豆
・熄風:桑の実
・疏風:菊花、薄荷
・平肝:金針菜、セリ、ピーマン、牡蠣、くらげ、ラフマ
・養血:金針菜、いか、ライチ、レバー、黒胡麻、松の実


以上、5つの邪気も病気の原因となります。
そして、これらの邪気が生まれやすい季節、というものがありますので、季節ごとに対策をとってみてください。
体質的に特にこの邪気にやられやすい、という傾向もあります。ここは臓腑との関連が出てきます。
また、邪気の内生の原因には、「感情」によるものもあります。感情が臓腑を傷め、邪気が内生します。感情、性格によって体調が変わってしまうのです。逆に考えれば、感情のコントロールや思考の仕方を変えるだけで体調も良くなる可能性がある、ということです。
内外の邪対策、正気の充実、巡りの改善、やるべきことは山積みに見えます。

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