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1/26発売『小説 西海屋騒動』(二見書房)はこんな話③ 椅子取り合戦の世界

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 『西海屋騒動』を一言で言い表すなら、「悪党の話」です。
 本作には驚くほど悪党しか出てきません。
 ここでいう悪党は、中世に出てくる体制に与するをよしとしない武士たちのことではなく、字義通りの悪党です。
 江戸時代は(もちろんある程度の流動性は前提としてありましたが)固定的な社会でした。
 基本的に経済成長があり得ない社会なので、決められた枠の中にしか仕事はありませんでした。これは基本的には一家に一人が殿様に仕える形を取る武家だけの話ではなく、農民もそうでした。できた子供たち全員に土地を分割しては家が成り立たないので、長子に家を継がせて残りは「厄介」というお手伝いさんのような立場になって家の仕事を手伝うのが常になりました。明らかに、公式なお役目の席数と人口が噛み合っていないんです。
 もちろん、公式なお役目の外側にも色々な仕事はありますが、それでも、余剰な人口が出てきます。そういう人々が都会に出て、食い扶持を探し、中には都市で居場所を見つけるのですが、それも叶わなかった者は「無宿者」になっていくのです。
 何が言いたいって?
 江戸時代も後半になってくると、どんな立場に身を置いていても、椅子取り合戦がそこかしこにあったということなのです。

 そして、競争が苛烈になれば、「何が何でも」とばかりに戦い出す者も出てきます。
 本作に出てくる人物だと、(『小説 西海屋騒動』における)主役、理吉に影響を与える慶蔵がぴったりはまります。
 江戸後期から幕末に横溢していたであろう、ハングリーな空気感、これこそが本作の魅力なんじゃないかと思います。

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