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4. お父さんが「やめろ」と言うとしたら|『岩田さん』の話をしよう|永田泰大×糸井重里×古賀史健 #岩田さんのつづき

(イベント主催であるほぼ日さんの協力をいただいて作成しています)

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「ちゃんと伝えたい」と考え続けていた岩田さん。
そのきっかけとなったのは、糸井さんの取材だったのかもしれません。
多くの時間を一緒に過ごしたふたりの経営者が、ふたりだけの場で、ひとりの人間として、何を話していたのでしょう。
永田さんの呼びかけで糸井さんも壇上に登場します。

手元の時計では、イベント開始からあっという間に1時間が過ぎていました。

まだまだ『岩田さん』の話は尽きません。


お父さんが「やめろ」と言うとしたら

永田:
いちばん重い難しいところで(笑)。

糸井:
いや。今日の話は、オレがいなくてよかったなと思って。
こうなんなかったもの、オレがいたら。
永田くんは、ぼくと古賀さんで話させようとしたんですよ。
「ダメだよ。その日はオレ休みだから」って言って(笑)。

明日までぼくは休みをとっているんだけど。
なんか気になって今日は来ました。

古賀:
ありがとうございます。

糸井:
よかった。
で、今の話……?

古賀:
はい。

糸井:
立ち話もなんなんで。じゃあ、そっちに座って。

古賀:
あ、どうぞ(笑)。

糸井:
……あの。
ふたりが考えてるようなことじゃないんだと思う。
社長になることの大きさみたいなものを考える人だったら、先代の山内さんが指名しなかったと思う。

永田:
はあー。

古賀:
ああー。

糸井:
つまり、上にいっぱい追い抜いちゃった人がいるわけだし、大変だぞって思ったら断るという選択もあるわけだよね。
だけど岩田さんは、それこそ「その仕事は自分がやったほうがいい」という合理的理由があれば、その仕事をする人なわけですよ。

06これは自分でやるのが合理的か

『岩田さん』本の半分を無料公開します|ほぼ日刊イトイ新聞 第三章より

糸井:
プログラムも、最初からチームに入るんじゃなくて、助けに行って最終的に何とかするわけじゃないですか。
それと同じで、アメリカの任天堂で仕事をしたりとか、日本に戻って経営企画室をやったりとか、その動きは、山内さんが岩田さんに社長として必要なことを全部させているわけだよね。

それで、大丈夫だろうと思ったから山内さんは社長に指名したわけだろうし。
ぼくの想像では、岩田さんが任天堂の社長を断る可能性が1個だけあって。それは、家族が京都に引っ越さなきゃいけなかったことじゃないかな、と。けっこう大きい変化だと思うんですよ。

古賀:
はい。

糸井:
社長をやるかぎりは家族で引っ越すわけだよ。だから、奥さんに「どう思う?」と聞いたのかもしれない。

岩田さんに漠然と聞かれたことがあるんだよ。そういう可能性があることについて、「どう思いますか?」って。
ぼくは家族の話をして「奥さんがイヤだって言ったら、やめようよ」と言って。

ぼくが岩田さんの好きなところのひとつで、「妻がイヤがっているけど、やります」とか言わないんだよ。

古賀:
そうですね、うん。

糸井:
で、もうひとつ話したのが、「お父さんに聞きに行けば?」と言ったの。

お父さんは、役人から市長になった人なんですよ。地方都市で、当時財政が苦しくて、そこの市長になってくれとまわりから頼まれてなったらしいんだけど。これも理由はたぶん合理性なんですよ。誰がやっても憎まれるような仕事だったと思うんだけど、お父さんもまたいい人でね、やったらしいんだよ、その仕事を。

古賀:
へえー。

糸井:
で、それをやったお父さんなら、本当のことを言うと思ったんで、「お父さんに聞いてみたら?」って言ったの。
ぼくがまだ東麻布の事務所にいるときで。玄関先で。
ずーっと靴履かずに話してた(笑)。

永田:
そんな大事な話を、玄関先で(笑)。

糸井:
いや。
「いつ、どう言うか」みたいなのがあるんだよ(笑)。

それで、岩田さんに「どう思いますか」って言われて。オレも「ああー」って思って。
オレでもそうするなと思ったから、お父さんの話をしたの。

そしたら、「そうですね。行ってきます」って言って。

古賀:
すごいなあ。

糸井:
たぶん、お父さんが何をしてたか、みたいな話を岩田さん聞いたと思うんだよ。

古賀:
そうですね。

糸井:
ロジックで、合理性で、みたいなことをみんなの前では言っているし、実際にやっているけれど、ものすごく大きく言うと、やっぱり人の関係が岩田さんの……ベースだと思うんですよね。

だから、任天堂の社長になるのはすごいことに決まってるけど、「客観的には、それはすごいことですよ」って岩田さんはきっと言うだろうね。
だけど、「それが、ぼくにとっては仕事なんですよ」と言うだけで。

そういう人が任天堂の社長になったのは、すごく良かったなと思う。

古賀:
そっか。
そうですね。

糸井:
うん。

永田:
そういう人だからこそ、山内さんも……

糸井:
うん。
というのが質問の答えかな。

だから、君たちのその、「任天堂の社長になる重さは……」っていうのは、やっぱりちょっと週刊誌的なんだよ。

古賀:
週刊誌的(笑)。
いや、自分のこととして、42歳で任天堂の社長になるって考えると、「自分には無理だ」というか。うーん、背負うものの重量にビビっちゃうというか……。

糸井:
ぼくが岩田さんをすごいなぁと思うのは、社長になったあとのことだね。
たとえば、外国人同士が揉めてる間に入って、「ここを上手くやるにはどうしたらいいか」とかやっていたわけだよ。そういう仕事って、ぼくには想像つかないからさ。
フランス人とイタリア人とドイツ人が、それぞれ「あっちがああいうこと言うからさあ」みたいに揉めるわけでしょう?

永田:
海外に支社があるんですよね、任天堂もね。

糸井:
それを、みんなが集まって、「ドイツがさー」「フランスが」とか言ってるのを聞いて、岩田さんが「それは、ドイツ側が言うことはこうですね」と。

永田:
岩田さんらしく(笑)。

糸井:
「なるほど。だとしたら……」みたいなことを、たぶん、やるわけじゃない?
それはちょっとね。涙が出るくらいこう、偉いなあと思うよ。

古賀:
でも、その「お父さんに聞きに行く」っていうのは、いいですね。
たぶん、そういう機会でもないと、父親と息子が仕事について話すとか、人生の岐路について考えるとか、ないですからね。

糸井:
お父さんが大変な仕事をやった人だったから。
その人が「やめろ」と言ったら、岩田さんもやめるんじゃないかというのもあるし。

よほどのことだよね、そのお父さんが「やめろ」と言うとしたらね。
でも、言わなかったということだよね。

古賀:
でしょうね。

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永田:
お父さんが、市長として人のために奔走しているというのを見て育っているというのも、価値観としてすごく大きいですよね。きっと。


岩田さんが助けてくれるわけじゃないんだけど。助かるんだ

永田:
岩田さんは、最終的に任天堂の社長になった人ですけども、最初は大学在学中のバイト先の人が起こした小さい会社に転がり込むわけですよね。
その選択は岩田さんの人格的に、ちょっとやんちゃな感じがちょっとするんですけども。

糸井:
岩田さんはやっぱり、プログラマーがプログラマーだけやってるのがイヤだったんじゃないかな。

古賀:
あー。

糸井:
あるチャンスがきたら、全体を見て、チームをつくって、乗り出したいぐらいに思っていたんだと思うよ。
けっこう、血気というか、大きなビジョンはあったんだと思うよ。

永田:
そうかもしれませんね。

糸井:
それがないと、おもしろがれないよ。HAL研の社長になるとか。

古賀:
そうですね、そうですね。

永田:
じゃ、やっぱり岩田さんの中にも野心の火みたいなのはあった……。

糸井:
そうだと思うね。
「野心」というと、荒々しいものに感じるけど。
プログラマーの人たちがすごいのは、技術がすごい人のことを、あっさり認めるんだよ。「この人は自分よりすごい」って。だから、自分がHAL研でプログラマーをやることについては、大きな未来を思い描いてたんじゃないかなぁ。

永田:
そこに自信もあった。

糸井:
そう思いますね。
岩田さんがHAL研の社長になったときって、会社の中に自分より年上の人たちがたくさんいたわけだよね。そのやりづらさはなかったのかなと思って、ずいぶん前に訊いたことがあるんだよ。

まだあのときは東麻布に会社があったときかな。車で新宿まで送っていく時に聞いたんだよ。
はっきり覚えているけど、有栖川公園のあたりで。「ここ、カメがいるんだよ」って話をして(笑)。

「若いプログラマーの岩田さんが、先輩方がいるところでトップになって、なんで大丈夫だったの?」って聞いたの。
そしたら「ぼくらの世界は、できる人の言うことを聞くのが常識みたいになっているんです。たまたま、ぼくはプログラマーとして技術を持っていたんで」って。

古賀:
なるほどなー。

糸井:
ちょっと話が変わるけどさ。
ふたりが今日、「理系のことを文系の言葉で」みたいに言っていたけど、ホントは文系とか理系とか関係ないんじゃないかね。

つまり、理系の人のほうがよく勉強したというだけじゃないかね?

古賀:
まいったなあ(笑)。

永田:
文系3人で話してますが(笑)。

糸井:
誰かも言っていたんだよ、「勉強っていうのは理系のことだよ」みたいな。

もうひとつ言うと、語学もそうじゃないですか。勉強しないで、できた人なんかいない。
だから、理系のことと語学ができなくて、「ぼくらは文系だ」と言ってるのは……。

永田:
勉強してないだけのこと(笑)。

糸井:
そういうことでしょう。

古賀:
うん。

糸井:
これは、ぼくは自分に言ってるよ。
好きな本とか読んでさ、みんなが勉強してる間に女の子にちょっかい出したりしてさ、フラれてさ、「文系はこういう人の気持ちがわからないと」とか言ってさ。

岩田さんは、あとから文系のことを勉強したんだよ。途中まで理系の人として普通に勉強してて。

永田:
はい(笑)。

古賀:
はい(笑)。

糸井:
得意なところは伸ばしていって。
それで、「人というのは、言っていることと思っていることは違うんだな」とか、あとからおもしろがって学んでいったんじゃないかな。

永田:
大きいですね。ちゃんと勉強していたというのは。

糸井:
何もないんだよ。オレたちみたいなのは、もう。
いっぱい字を書いたっていうだけだ。

永田:
それはそうです(笑)。
いっぱい書くことによって、何かちょっと煙に巻いたような。

糸井:
そう。
オレなんか、短いし。

永田:
コピーライターだから(笑)。
でも、いまは毎日書いてるっていう煙の巻き方が(笑)。

糸井:
毎日書いてるっていうだけだよ。
だから……。
笑うけどさあ。

古賀:
結論がすごい(笑)。

永田:
ワハハハハハ。

糸井:
いやあ、そうなんだよ。

永田:
いいお話をたっぷり(笑)。

古賀:
ありがとうございます。

糸井:
だけど、だけど。
だけどね、本当に頭がいいっていうのはどういうことかって、岩田さんもわかっていたことだと思うんだよ。それが、人間関係だっていうのを。
脳細胞がいちばん活発に動くのは、人間同士の会話だったりするわけだから。

やっぱり人間関係というのは文系も理系もなく、学ぶ部分がありますよ。だから、岩田さんはやっぱり大人になってから学んでいったんじゃないかな。

人について、「これは人間が持ってる嫉妬の成分だな」とかさ、「これはやっぱり誰でも手を伸ばしたくなる欲望だな」とか、そういうのをわかった上でね。

岩田さんは、会社の誰が上手くいってるとか上手くいっていないとかを、客観的に理解できるところがあって。それは、彼の相当いいところだったよね。

そのうえで、自分を後ろにできるからね。そこがすごいよね。

永田:
後ろでしたね、岩田さんは。

糸井:
ちょっと過剰に後ろだった。
もうちょっとワガママ言っちゃったほうが、逆に周りが楽だったかもしれないっていうことはちょっとだけ思うなあ。

古賀:
過剰に後ろなのは、宮本さんがいたからではなく……ですか?

糸井:
宮本さんがいたからというよりは、なんて言うんだろう。素晴らしい役人というのはそうなのかもね。
自分が前に出る意味もないと思っているだろうし。

あと、岩田さんは人の悪口を言わないよね、やっぱり。

古賀:
それはすごいですね。

糸井:
陰でも言わないね。

永田:
ふたりだけで京都で話しているときに、ちょっと愚痴っぽくなったり、みたいなこともあんまりなかったですか?

糸井:
ないね。
苦手な人には近づかないようにしてた、というくらいはあったかもしれないけど。
あとメディアが、自分が話してることを居丈高な発言みたいに書くのはすごくイヤがってた。
だから永田さんを呼んだり。

永田さんは、いい人に思われるように書くのが上手いんですよ。

会場:(笑)

永田:
人聞きの悪い……それはそれで嘘つきみたいな(笑)。

糸井:
まあ、刺身を出すのにさ、小骨がついたままの刺身ってないでしょう。 
永田さんは小骨をきれいにした刺身を出すわけ。

永田:
それは昔からそうです。たぶん古賀さんもそうです。

糸井:
うん。
じゃあ古賀さんもそうなんだよ。

古賀:
はい。ありがとうございます(笑)。

糸井:
わざわざ小骨いれておいて、小さい炎上商法をする人たちがメディアにはいっぱいいたから。
だから、そういうことはイヤだなっていうのは、岩田さんが悪く言うというか……。

永田:
困ったんでしょうね、それはね。

古賀:
そうですね。

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糸井:
さっき、後ろで聞いててさ。ちょっと寂しくなったね。
何度かこう、岩田さんもぼくも「さあ。右かな?左かな?」という決断のところで、「左のこと考えないことにしたんですよ。もう右!」と言ったりするときがあったんだよ。
そのときに、岩田さんは岩田さんで、嘘でもいいから「そっちでいいんじゃない?」と言われたいってときあったと思うんだよ。

オレなんかはもっとさ、風に揺れるカカシみたいなもんだからさ。田んぼの真ん中で風にさらされてるから。

そんなときに「岩田さん、これどう思う?」って言うとさ、「ひとつはあれですよね」とか、3つぐらい言ってくれてさ。
で、「……っていうことじゃないでしょうかね」とか言うからさ。
「今の話、全部大丈夫ってことじゃない?」とか言ったりして。
「そうですよ」みたいな。

あれで、だいぶ助かったんですよ。
それが、今はなくてさ。

古賀:
うん。うん。

糸井:
だって、「それはいいですね」って言われるだけでさ、別に岩田さんが助けてくれるわけじゃないんだけど。助かるんだ。やっぱり。

そういう相談をしたくなるときがね、あるよ。師走はとくにあるよ。

古賀:
ああ。そうか……。

糸井:
師走は、「どうしよう、来年」みたいなさ、会社の子たちには、「オレはもう、これからばくち打ちになるから」とか嘘までついてさ。

「もう石橋とか叩かないから」とか言ったはいいけどさ、ひとりになったときに、やっぱり。うーーんって。

永田:
休みの日だから、いろいろ。

糸井:
そうそうそう、休みの日はね、悩むのよ。

来てよかったよ、今日。

会場:(笑)


(もう少しだけつづきます。最終回は2/7公開予定です)

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