見出し画像

小説「夜のサーカス」の魔法

小説「夜のサーカス」、とても素敵でした。

 舞台は、19世紀のサーカス。
 予告なく現れて、その日の日没に開園。
 白と黒で作られた美しい大小さまざまなテントでは、多種多様な演目が行われる。軽業師、彫刻芸、猫、占い、などなど。道化師はいない。
 一つのテントにずっといる人もいれば、できるだけ多くのテントを周る人もいる。
 みんな思い思いに楽しみ、その素晴らしさに感嘆し、やがてまばらに帰っていき、夜明けとともに閉園する。

 サーカスには、いろんな人が関わっている。企画者、衣装、時計職人、奇術師、軽業師、占い師、お客。そして、このサーカスでは本物の魔法(作中では魅了とも呼ぶ)が扱われる。このサーカスは、魔法で出来ている。

 この小説は、一章毎にそれぞれの立場のサーカスの1日の物語を綴る。たまに風景だけの短い章もあり、それが他の群像劇小説と大きく異なる印象を与える。
 眩暈がするようなこの仕立てが、小説自体から魔法の気配を漂わせる。

 また、謝辞を見て驚いたのだが、2011年発売のこの小説は、劇団「パンチドランク」から発想を得たらしい。NYでスリープノーモアが超ロングラン中の、あの団体だ。確かに、このサーカスは体験型のコンテンツがたくさん出てくる。氷の庭、雲の迷路、香りの箱、どれも実際に体験できたらどれほど素敵だろうか。

 一章一章はかなり短めで、一章読んでは夢想し、また読んでは夢想することを繰り返していたら、読破にいつもより時間がかかってしまった。

 文字で書いてある小説を読んだのに、感想を文字にするのがちょっと難しい。とても美しい魔法だった。

 映画化が決定しているらしいが、まずは、この魔法のような形の小説を体験してほしい。

 ちょっと調べるとクオリティの高いファンアートもたくさんあった。
分かる。好きになっちゃうよね、この世界観。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?