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携帯料金の値下げはユニコーンを生み出すか

菅総理大臣が就任し、かねて総理の持論である、携帯電話料金が諸外国に比べて高く値下げをするべきだ、という考えを、首相になっても政策の一つとして堅持する方針が示されている。

この方針のスタートアップやイノベーション推進に対する影響については、あまり論じられることが多くないように思うので、この点について考えてみたい。

言うまでもなく、通信会社は通信料金収入をもとに通信設備などの整備を行ってサービスを提供している業種である。当然ながら通信料金が下がれば設備投資に振り向けられる金額もそのぶん少なくなることが一般的に考えられる。

そして、ちょうど今、通信方式は4Gから5Gへと移り変わる時期にあり、また長期的視野で見れば、次の世代である6Gについて新たな規格を定めようという時期に差し掛かっている。

こうした時期に、5Gに対して十分な設備投資ができなければ、最新の通信環境を整えることに時間を要し、また6Gの規格策定においても日本の研究を基礎に置いた意見が世界的に取り入れられなければ、機器開発やネットワークの構成などにおいて、日本にとって不利な条件で規格が決まってしまう可能性も無いとはいえない。

そして、こうした通信インフラが迅速かつ高品質に整備されていることは、インターネットを前提とする各種のスタートアップのサービスにおいて重要な基本的な条件であるといってよいだろう。

単に個人が使うスマートフォンなどのサービスに限らず、むしろビジネスにおいて使われる部分が4Gから5Gに変わる時に大きく影響すると考えられている。この5Gの整備状況如何によって、それを活かせるサービスをいち早く生み出しそれを市場に問い、フィードバックをもとにサービスを高めていくという、スタートアップに求められる経営スピードを保つためにも、通信インフラが最新・最善の状態に保たれていることは、日本にとってスタートアップの育成、ひいては我が国のイノベーションの推進にとって大きな前提条件の一つになると、筆者は考えている。わが国はスタートアップの振興を政策として打ち出し、ユニコーンを日本でも生み出そうという掛け声をかけているのだ。

仮に通信料金の値下げが、結果として通信環境整備の遅延をもたらし、また次世代通信規格の策定において日本が不利な状況に追い込まれることを招くのだとしたら、国全体としてみた時に、それは果たして長期的に見て国益に沿うものなのかどうか、というところは十分に検討して頂きたい所だと思う。

通信料金に限らず、どんなものでも「もっと安い方がいいですか」と問われれば「もっと安い方がいい」と答えるのはいわば当たり前である。では、「もっと安い方がいい」と答えている人が、いわゆる格安の MVNO に乗り換えているかといえば、総務省主導の各種の政策誘導が長らく続いているにもかかわらず、遅々として進んでいないということはデータが示しているところである。携帯料金値下げは、政策として耳ざわりは良いのだろうが、本当に国民が望むものなのだろうか。

また大手通信会社が通信料金を下げた時に、MVNO が果たして生き残る余地があるのかという点についても、これまで総務省が行なってきた政策に矛盾があるのではないかと指摘されて久しい。

いずれにしても、単に通信料金が高いか安いかといったところにフォーカスをせず、携帯電話料金を値下げすることが長期的に日本にとってプラスの効果をもたらすのかどうかというところについては、スタートアップやイノベーションという観点だけではなく、例えば防災の観点など、幅広い視点から検討されることを期待したい。デジタル庁を創設してDXを推進するにあたっても、通信インフラはその屋台骨ではないかと思うのだが、この点も議論を深めて頂きたいと思う点である。

むしろ、先進国の中で特に日本が伸び悩んでいる賃金・給与を高めることによって、相対的に通信料金が安く感じられるようになっていく方向に持っていくことこそが、政治の仕事ではないかと個人的には考えている。

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