昨夜のカケラ。

お腹が空いた。
彼のいないベッドはいつもより少し広く、カーテンの隙間から差し込む強い光は、二度とやってこない昨日の月を溶かし、ペットボトルの水を照らしている。
私はとりあえず胃薬を流し込み、少しだけ残った昨日の酒を薄めるように更に水を飲む。

昨日の夜をあんなにも忘れたくないというのに、結果残されたこの頭痛を早く消してしまいたい。
残された矛盾に少し笑うと、顔を洗う為にキッチンへ向かう。
ペシャンコにされた缶の数は忘れたい夜の数に比例していて、涙をかき集めるように私はそれを燃えないゴミ袋に仕舞っていく。

彼は気付かせないのを優しさだと思っているし、それは理解している。
それはお互いにとって。
しかし、私にとってそれは優しさであり、寂しさでもある。
きっと、寂しい気持ちというものは、優しさを餌に成長していき、淋しさへと変わっていく。
彼の存在で淋しい気持ちを知ってしまった、この字のように。

一人だから寂しい。
一人じゃなかったから淋しい。
本当ならば彼はまだ、私のベッドにいたはずだというのに。

昨日のカケラを食べて、私は今日も生きていく。
残された昨日のアテで、どうやら私の昼食は十分そうだ。

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