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一橋MBA戦略分析ケースブック 事業創造編 アットコスメ

このケースブックの最終章は、化粧品の口コミ情報サイトを展開するアットコスメでした。化粧品の製品特性を上手に捉えた情報サイトを展開することで、化粧品メーカー、消費者の両方のニーズをうまく掴み、顧客が喜んで貴重な口コミ情報を蓄積してくれるプラットフォームを構築した企業です。

プラットフォームビジネスケース3部作

このケースブックでは、5章弁護士ドットコム、

6章メルカリ

そして、この7章 アットコスメ

ビジネスモデルのタイプはそれぞれ違います。弁護士ドットコムでは弁護士を身近にすることを可能としました。メルカリでは、リユース市場におけるC to Cの取引を容易にしました。今回のアットコスメ では、プラットフォームが化粧品メーカーと消費者の両者のニーズを満たし、そして業界のロングテール化にも一役買っています。商品の口コミ情報であれば、アマゾンやその他電子取引サイトでの購入のレビュー機能は普通にあります。なぜ、化粧品に特化することでニッチャーとして成功することができているのか?を見ていきます。

消費者の話したい欲求を満たす

化粧品は医薬品と同等とまではいかないものの、体に塗布するものなので、個人の肌の状態や体質によって大きく効果が違い、また、規制の縛りもあります。消費者である女性は常に自分に合う化粧品を探し求めて彷徨っています。そのため、化粧品会社も消費者とのコミュニケーションに大きなコストをかけているという特徴があります。でも、消費者は過去の失敗の経験から化粧品会社の宣伝文句だけでは信じられずに身近な人の口コミに頼ってしまう、という傾向があります。アットコスメは、自分にタイプの似た消費者の口コミを絞り込んで閲覧できるということが大きなメリットです。さらに、消費者の女性が口コミを書きやすくなるような仕掛けが施されています。他のSNSとは違って、ニックネームで書き込め、また、コメント欄が無いので批判や炎上に晒されるリスクもありません。自分のことを書きたくなる欲求は脳神経科学の分野でも明らかにされているようです。

「自己開示」の行為は、中脳辺縁系ドーパミン系を構成する脳内領域の活動と強く結びついているという。自分のことを他人に語ることは、(中略)人間としての本能的な満足感を得られることが明らかになったのだ。

口コミという市場データの獲得

化粧品会社にとっても、アットコスメの存在は自社製品の使用感だけでなく、他社品の評価を知ることもでき非常に有益な情報ソースとなっています。アットコスメの収益の4割以上は市場調査等のB to Bのサービスとなっています。実際にアットコスメのサイトを見てみるとトップページ上では企業からの広告と思わしきものも目につきますが、同時に新商品のプレゼント企画という体裁を持っているものが多いです。企業にとっては、新商品をプレゼントして、口コミを多く書き込んでもらうことでプロモーションにつなげたいのでしょう。この方法だと大手化粧品会社が展開するような大規模な広告宣伝費の投資を必要としません。化粧品製造のアウトソーシングの規制緩和などもあり小規模スタートアップの参入が容易になる中で、アットコスメの役割が追い風となり化粧品のロングテール化を促したと考えることも可能です。

アットコスメは情報の品質管理にも細心の注意を施しています。書き込み自体は変更することはないものの、意図的に創作されたもの(いわゆるステマ)で無いかを、24時間体制で監視しています。

アマゾンとの補完関係

アットコスメでは化粧品の販売も行っていますが、優先順位は情報です。その点が、アマゾンとは異なります。極論として、顧客は 1、アットコスメで情報検索して、2、アマゾンで購入、3、アットコスメで口コミを書き込んでくれれば良いということになります。化粧品という特異な商品では、年齢や肌質などの情報があって、それと使用感想が加わることで顧客にとっても情報の有益性が増します。アマゾンが追随して詳細な口コミデータ集積をすることは優先順位から言って難しいのでしょう。

プラットフォームビジネスの構築について(まとめ)

今回、3つのケースを読んでプラットフォームビジネスについて考えることができました。その中で気づいたことは以下のようなところです。

ビジネスの取引は一方通行ではない

弁護士と相談者、消費者間、化粧品会社とユーザー。それぞれのニーズを満たすことでその両側を顧客とすることができるのがプラットフォーマーです。

フリーをうまく活用すればデータが蓄積され強みとなる

消費者の自己開示欲求のように貴重な口コミデータを無料で書き込みたくなるような場を提供することで有益な情報を集積できます。それが市場についての貴重な情報資産となります。

独自性のあるエリアに焦点をあててることができればばGAFAでも手出しできないニッチなプラットフォーム構築が可能である。

アットコスメの創業者の吉松氏は”CRMでは実現できないメーカー横断的な購買データを集めるために口コミの活用する“というアイデアから起業に至りました。目指したモデルはアマゾンの書籍販売でしたが、化粧品という独自の生存空間に合わせたプラットフォーマーとなることで、アマゾンには真似のできない空間を創り出しました。化粧品以外でも”独自の空間”を作り出すことは可能かもしれません。

プラットフォームの構築と言われると非常にIT寄りで、自分のような非IT人間には手の届かない印象がありました。今回、3つのケースを通して、ITだけではなくビジネスの嗅覚が最初にあってこそだということがよくわかりました。

今まで、一橋MAB戦略ケースブック事業創造編を読んできましたが、考える機会を与えてくれた本書の執筆者には深く感謝したいと思います。フレームワークを駆使して分析のスキルについても紹介されていますので、実践的にケース分析を他企業にも試みたい方にもおすすめの一冊です。

お読みいただきありがとうございました。

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