見出し画像

小さな三代目企業の職人軍団 教科書なきイノベーション戦記を読んで

「なかなかできることじゃないよな。」正直なところ、読んだ直後の感想でした。
竹延幸雄氏、塗装工事会社の3代目社長、の著書です。
150名もの職人を抱える関西有数の規模の塗装業者さんの「マスオさん社長」です。
私自身が似たような境遇であるところもあり、非常に興味深く読ませていただきました。
著者が目指している「頑張っている人が成長でき、報いることができる会社」というゴールに
向かって、熱意を持って進んでいく姿にただただ感服してしまいました。

塗装業界。恥ずかしながら、私には3Kという固定観念がしっかりと張り付いてしまっています。
そして、そういう業界の現場にはバリバリに固まったやり方があって、素人が口出しして変えようなんてしようものなら、きっと厳しい返り討ちにあうにに決まっている、っていう思い込みがありました。多分、そのイメージは当たっているところが少なからずあると思います。
竹延社長は、ご自身が「素人」であるということも認めた上で、中に入り込んで学び、そして変革を実行してきました。

自身のご家族(祖父)が職人で、その方への敬意が根底にあってこそできることかもしれないです。でも、一流大卒で大手企業出のしかも「マスオさん」という立場です。そこで、短期間に改革に挑まれて達成されていることが私には大きな驚きでした。自分だったら従来のやり方を踏襲して、親戚縁者である本社スタッフを味方につけておきたいと思うところなのに、社長はその本社部門のスタッフにチャレンジして彼らは会社を去り、業界の価格構造にメスを入れて外部からも苦情をクレームをつけられたり。お義父さんの理解というサポートがあったからこそできたことかもしれないですが、本の中ではそういった苦労の部分はサラリとした表現にとどまっています。でもそれは並大抵のことでは決してできないことですし、折れない強い心があってこそ達成可能だったのだと思います。

現場における作業分析から始まり塗料の一斗缶の変更とか農業用運搬器具の活用による作業効率改善といったことから始まり、これまで技は盗むものだった職人さんの世界に、教育して育てるという文化を持ち込み、一人前の職人を早く育てるシステムを作りました。
職人の人材育成を手がける会社KMユナイテッドを設立し、ハローワークや防衛庁に通って思いを伝えて優秀な人材を獲得されたり。そこには人を育ているという思いが強くあればこそなしえたことだろうとつくづく思います。プロフェッショナルである職人の仕事の地位をしっかりと評価して報われるようにしようという思いが伝わってきます。やはり根底にあるのは人への思い、敬意なんだと思います。だからこそ、熟練の職人さんも喜んで協力されたのだろうと思います。

竹延社長のイノベーションは、ややもすると偏見を持って見られる職種への見方そのものを変えること、そこから始まっていると思います。そう考えると日本にはまだまだイノベーションを起こせそうな業種がたくさんあるのかもしれません。慢性的に人材不足に悩まされている業種は増えていますが、職種そのものの地位を再度見直してどうすればそれらの中でプロフェッショナルを育成することができるのかを考えてみると仕事の質を変えることができるヒントが見つかってくるかもしれないと思わされました。

この記事が参加している募集

推薦図書

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?