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Mega Bog / Life, and Another

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US、シアトルの女性SSW、Erin Birgy(エリン・バージー)によるプロジェクト、MEGA BOG。2009年にこの名義で活動をはじめ、現在はLAにて活動中。本作が5作目のアルバムです。個人的なパートナーでもあるジェームズ・クリフチェニア(ビッグ・シーフ)との共同プロデュース。Bandcampのリリース文に書かれたアルバムナラティブ(アルバムの物語)によると、互いのツアーですれ違いの生活が続く中、ふと一人で落ち込むこともある日々を送っていた中で、ネットで再放送されていたSF作品、FrasierとStarTrek Deep Space9を見て心が落ち着いた。テラフォーミングと宇宙移民の倫理に関するテキスト、およびケン・リュウの地球往事三部作も読んだ。そうしたSF作品に触れているうちにだんだんと創作意欲が湧き上がってきて作成したアルバム、とのこと。リリース文から一部抜粋。

これは、レコードがピカレスク(悪漢小説)で擬人化されていない壮大なストーリーバッグの形をとる方法です。ピンク・フロイドの 『ザ・ウォール』、ヴィム・ヴェンダースの 『夢の涯てまでも(Until the End of the World)』、そしてバッキー・フラーとジューン・ジョーダンによるニューヨーク市の再開発計画(1964年、警官による黒人少年射殺に端を発する抗議運動の中でハーレムのスラム街をどのように再開発すればよいかを提案したもの、「ハーレムのスカイライズ」プロジェクト)が、想像力に富んだ必要な人生の、惑星上でまだ書かれていない大きなカンタベリー物語(14世紀にイングランドの詩人ジェフリー・チョーサーによって書かれた物語集)のエピソードだったと想像してみてください。Mega Bagはここでその章をエッチング(表面加工)し、世界の残忍な重さを集団生活の闘争(する力)に変えます。

Pitchforkで8.0、Allmusicで★★★★を獲得。「RIYL(これが気に入ったらこれもおすすめ)」と題されているところに記載されている名前はLaurie Anderson, Kate Bush, Slapp Happy, Kevin Ayers, Bridget St John, David Bowie, Cate Le Bon, Aldous Harding, Big Thief, Hand Habits, Yoko Ono, Nico, Ursula K. Le Guin, Ken Liu, David Wojnarowicz, Wim Wenders。

活動国:US
ジャンル:Alternative/Indie Rock、Lo-Fi、Neo-Psychedelia
リリース:2021年7月23日
活動期間:2011年ー現在

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総合評価 ★★★★☆

音を使って自由に感情を表現したような作品。アルバム全体を通してさまざまな情景が伝わってくる。ジャジーで都会的な雰囲気とカントリーのリラックスした雰囲気が同居し、エッジの立ったギターと浮遊するボーカルがつかみどころのない曲に輪郭を与えていく。くっきりしたポップな聞き心地もあるが、全体としては意味に分解しづらいというか、純粋な「聴覚体験」を楽しめる音楽。リリース文の通り、SF的だし妙に壮大な感じとDIYな感じが同居する、意味が多すぎてかえって意味が分からなくなる不思議な音像。自在に変化する音像だが、極端にアヴァンギャルドではなく一定の抑制された聞きやすさがあり、音楽としての娯楽度が高い。さまざまな音が入っているがドリームポップとかおもちゃ箱とかそういう表現よりはアバンギャルドでありながらも「ロック」の手触り。ギターであったり管楽器であったりベースであったりキーボードであったり、楽器できちんと演奏して作り出している音が溶け合っている。B面はほぼ一つの組曲となっており、技巧やメロディで構築していくというより、音空間、音響で聞き手を旅にいざなう作りになっている。描かれる感情やシーンはそこまでヘヴィでも熱狂的なくどこかユーモラスで日常的、それゆえにリアルさを感じる。日常に寄り添いながら感情を昇華してくれる素敵なアルバム。

1.Flower 02:35 ★★★★

クリアなギター、ひっかくようなアコギの音とシャンソンのようなつぶやくような声、けっこうジャジーポップな音像。軽やかに曲が進む。さわやかな朝の音像。曲調は洗練されているが、演奏はスムーズに流線形に進むというよりは、少し引っ掛かりがありルーズでスワンプな感じもあり、インディーロック感を感じる。つぶやく声と、その合間に湧き上がってくる楽器のメロディ。朝の物思いだろうか。かなりポップで明るいスタート。

2.Station to Station 04:25 ★★★★

少しダウナーになるが、落ち込んでいるというよりは落ち着いている感じ。低めの声が入ってくる。ちょっとDavid Bowieを思わせる曲。Station To Station(1976年のボウイのアルバム名)というタイトルからしてボウイオマージュなのかな。ちょっと宇宙、SF的な空気感(Space Oddity的な)もある曲。

3.Weight of the Earth, on Paper 03:12 ★★★★☆

空気感が変わり、飛び跳ねるようなリズムに。リズムが力強い。ジャジーなポップ。都市の雑踏のような生命力、躍動感を感じさせる。途中からスペーシーなジャズに変わる。心地よくもスリリング。

4.Crumb Back 03:14 ★★★★☆

笑い声が入ってきて、前の曲の雰囲気、テンポを引き継いで次の曲へ。心持スローになるか。ジェファーソンエアプレインとか、60年代サイケ、女声ポップロックの雰囲気も感じる曲。ヴィンテージっぽいギター音。たどたどしいソロが乗るがドラムやビートがスムーズで力強く、音像全体は洗練されている。ちょっとラテンな感じもする。昔のダンスホールミュージックの要素を感じる。次々といろいろな音が出てくる。飛び道具的なSEではなく、ギターなどの楽器音。

5.Butterfly 02:50 ★★★★

間髪入れずに次の曲へ。どんどん曲がなだれ込んでくる、シーンが展開していく。怒涛の展開。やや声が飛び回る、(80年代の)ケイトブッシュ的なボーカル。ベースはうねりを持ってボトムを支えていてポストパンク的。ピアノ、管楽器の音が入ってきてジャジーな空気感を作る。ただ、都市的な洗練と素朴なカントリー感、飛び跳ねる自然が混じっている。

6.Life, and Another 04:10 ★★★★

曲間ほぼゼロでどんどんつながっていく。ストロボのようなギター、空間の中でときどき光る閃光のようなカッティング。どこかロボットのようなカクカクした雰囲気のある曲、ニューウェーブというか。アルペジオのフレーズを奏でだし、アーバンでメロウな雰囲気に。ドラムの表情が変わったからか。曲の中でさまざまな表情に変わっていく。変幻自在で演劇的。プログレ。ここで一度曲が切れる、LPで言うとA面が終わったのだろうか。

7.Maybe You Died 04:27 ★★★★

すこし曲間があいて曲が始まる。静かな立ち上がり。少しづつ音が入ってくる。吹き込む風のような音。冬眠中の物思いのような。眠りだろうか。タイトルは「たぶんあなたは死んだ」。そう言われればそんな音像にも思える。どこか彼岸的な、明晰ではない意識。だんだんと後半になるにつれて音像が明るくなっていく、深いところから上昇していくような。

8.Beagle in the Cloud 01:42 ★★★★

単語が置かれる、語り掛けるような。隙間が多い音、インタラクティブな芸術作品のような、体験型アートのような、演者の動きに反応して音が鳴る仕組み。言葉や動きに合わせて音が付きそう。そんなイメージが浮かぶ曲。言葉に付随して音がついているが歌い手の動きも見えるような気がする。

9.Darmok 03:19 ★★★☆

B面(7曲目以降)のほうが全体的に音が落ち着いていて、より深い。ジェフバックリーあたりも想起する、どこかスピリチュアルな感じもするし、スペースロック的、宇宙空間のような、深くて広い空間を感じさせる音響。そこを遊泳するような音空間が続く。インスト。

10.Adorable 01:13 ★★★★

曲間なくボーカルとアコギが入ってくる、かと思ったらリズムが打ち鳴らされる。伝統的なフォークソングの趣が一瞬でてきて、浮遊するジャジーな音空間に。アシッドジャズ。少し浮遊した後リズムが着地した、と思ったらまた浮遊して終わり、短いがめまぐるしく変わる曲。

11.Bull of Heaven 01:59 ★★★★

間髪入れず次の曲へ、8曲目以降はつながっている一つの組曲だな。雰囲気が変わってのしのしと、機械的な何かが動いているような音。風力で動く人工生物のオブジェがあったな。ああいう生物と無機物の間のような音。

12.Obsidian Lizard 02:07 ★★★★

こちらもまだつながっている。やや緊張感のあるシンセの反復音にボーカルが乗る。不安だろうか。着地し、落ち着きを取り戻す、やや明るめのコード、シーンに変わる。揺れ動く感情。ボーカルとシンセだけで曲が進んでいく。さまざまな感情がうごめく、明るいか暗いか、メジャーともマイナーとも言えないところでめまぐるしくゆらめくメロディ。8-12は一つの組曲感が強い。

13.Before a Black Tea 03:29 ★★★★

少し曲感が空いたというか、場面が変わる。飛び跳ねるような、感情の起伏、やや明るめだけれどどこか破れかぶれのような、少し逸脱してしまいかけているようにも思う。浮かれているような、ヒステリックなような。明るく振舞っているがたまった鬱憤を発散しているようにも思える。ギターのアルペジオが穏やかに反復し、なんとか宥めているがまたボーカルが少し飛び出していく。ぐしゃっと軽いノイズで終曲。

14.Ameleon 05:20 ★★★★☆

落ち着きを取り戻し、一人の時間か、深く潜るような音像。ところどころノイズが入る、何の音だろう。咀嚼音、紙を丸めるような、クシャっしたノイズがかすかに。コップの音も聞こえる。不思議な生活音を感じさせるようなノイズがところどころに薄く入っている。曲が進行していきコーラスへ。メロディに意識が向けられる。この曲はピンクフロイド的な、浮遊するスロウブルース感もある。タイトルのAmeleonとは造語だろうか。アメレオン、アメリカのカメレオン? 途中から目まぐるしく音像が変わっていく、さまざまな音が飛び込んでくる。子供のコーラス。音像は深い、深くベースの音が響くスペーシーな音空間のままだが差し込む光のような音が入ってくる。

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