マキシマムザホルモン / ヅラ対ヅラ【Dhurha VS Dhurha】(2022、日本)
エンタメ完成度 ★★★★★
頑なに楽曲をネット配信しないアーティストと言えば山下達郎、中島みゆき、チャゲアス、そしてマキシマムザホルモンであろう。この4組に共通しているのが、、、楽曲をネット配信していないということだ。他に特に共通項はないね。
さて、そんなマキシマムザホルモンの久しぶりの映像作品である。毎度「DVD」になるようなタイトルで今回はDhurha VS Dhurha(ヅラ対ヅラ)。ヅラというのはカツラのことではなく面、面構えの「ツラ」である。ライブの観客の顔をいくつかのタイプに分けて顔のタイプごとに客席をブロックでわけ、顔タイプごとにいじるという狂気の沙汰。ごめんちょっと何言ってるか分からない。毎度のマキシマムザホルモンである。
マキシマムザホルモンというバンドは破天荒なイメージやふざけた歌詞とは裏腹に非常に完成度が高いプロフェッショナリズムを感じるバンドである。ライブはMCに至るまで緻密に計算されており、笑いのパートはコントを見ているかのような完成度があり、ロック的なMCで熱狂させる煽りにも無駄も隙もない。この辺りは黒人アーティストのエンターテイナーとしてのプロ意識にも通じるものがある。妥協がないというか、どれだけおふざけをしていてもどこか張り詰めている、一流の芸人のようなピリピリ感がある。
全体として、全曲の作詞作曲を手掛けているマキシマムザ亮君の脳内妄想というか「ぼくがかんがえたさいきょうのバンド」を具現化しているようなバンドで、年々完成度が上がってきて今では完成度が半端ない(その分リリース間隔は空くようになっているが)。「これならいけるだろう」というネタを練りに練ってぶつけてくる、というか。最初にたまたま名前を出したので便乗してしまうと音楽性や生み出す世界観は全然違うが偏執的な完成度の追求は山下達郎にも通じるものがあるかもしれない。
この映像作品ももともと配信用に作られたものだが、「生配信」という体でスタートするもののその実めちゃくちゃ作りこまれている。作りこまれているゆえにライブ作品なのに「ネタバレ」があるほどだ。普通、ライブ作品ってネタバレはそんなにないからね。きちんと起承転結というか、単に「ライブ空間のパッケージ」を越えて「映像作品だからできる演出」がふんだんに盛り込まれている意欲作。演奏もめちゃくちゃタイト。MCもキレキレ。すげぇ。
レッチリやレイジアゲインストザマシーン、システムオブアダウンなどと共鳴しながら日本独自のサウンドを慣らしている稀有なバンド。ある意味日本のハードコアシーンが生み出した一つの完成系とも言えるバンドだと思う。めちゃくちゃ狭い価値観、ニッチな世界観を追求しているのに完成度が異常に高いというか、やはり黒人のエンターテイメント=「少数派がメインストリームに打って出るために洗練を武器にする」と同じ空気感を感じる。これだけニッチで尖った世界観を自己満足に終わらせないためには圧倒的な完成度が必要なのだ。マキシマムザホルモンのコンテンツに触れると「ぼくがかんがえたさいきょうのバンド」を具現化するための途方もない労力を感じていつも畏敬の念を覚える。凄いバンドだ。
本作も期待を裏切らない、いやむしろ上回ってくる出来。ぜひご視聴を。