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ロックミュージックを総括する6組のアーティスト、18枚のアルバム

ロックンロールが生まれた1950年代以降、70年近いロック史の中で数多のアーティスト、アルバムが生まれてきました。だいたい、ロック史において重要視されるバンドやアルバムは次の特長を持っています。

・ロックミュージックの領域を拡張した。
・その後、フォロワーが現れて一つまたは複数のサブジャンルを作った。

「聞いたことがない音楽」を提示して衝撃を与えると同時に、「私もこういう音楽をやりたい!」と後世に影響を与える、という2点ですね。

こうしたアーティスト、アルバムを、個人的には次の2種類に分けています。

1.その時代のロックミュージックを総括した、ロックのショーケースたるバンド、アルバム
2.独自の音楽性を追求し、自らの音楽スタイルを確立することでロックの領域を拡張したバンド、アルバム

今回取り上げるのは「1.ロックのショーケースたるバンド」です。今回選んだ6組のアーティストを聴くことで、おおまかなロックのメインストリームが分かる内容を目指しています。その時代の「ロックのリーダー」と言えるかもしれません。ロックシーンの各地で萌芽しつつあったさまざまなムーブメントをいち早くキャッチし、自分たちの作品に取り入れることでその時代のロック像を提示してみせた。このバンドの、このアルバムに取り上げられたことでロック史のメインストリームに浮上し、音像が広く認知された。そんな効果を持ったアーティストやアルバムです。

なお、2に該当するのはたとえばAC/DCEaglesBob DylanBruce SpringsteenGrateful Deadなどを考えています。音響的には時代の流行の影響を受けますが、本質的には時代性とは関係のないところで音楽性が変化・深化しているように感じます。Rolling StonesAerosmithElton Johnも時代と共にサウンドは変化しましたが、同時代のロックを総括しようという意味合いは薄く、今回紹介するアーティストに比べると2のタイプと言えるでしょう。

それでは6組のアーティストを紹介してきましょう。それぞれ一定のキャリアがあり、オリジナルアルバムも多いので「さらにダイジェストする3枚」を選びました。この18枚を聴けば、1960年~2000年ごろまでのロックのメインストリームの音がだいたい掴める。アンダーグラウンドなサブジャンルを除けば、「ああ、あのアルバムのあの曲に近いな」という感覚を持てるようになるのではないかなと思っています。

※なお、この3枚は「そのアーティストの最高の3枚」という視点ではありません。「そのアーティストのキャリアをダイジェストするならこの3枚」という視点です。ロックを総括するようなタイプのバンドは時代によって音楽性がかなり変わるので、その中で変化を追えるようなアルバムを選んでいます。

1.The Beatles

1組目はThe Beatlesです。まさに「ロックのショーケース」そのものを体現したバンド。むしろ、こういう「同時代のロックシーンのリーダー」というロールモデルそのものを作ったバンドと言えるかもしれません。The Beatlesのアルバムはどれも同時代のロックを拡張しつつ、シーンの流行を自分たちなりに解釈し、総括したようなものが多いので全作おススメですが、さらにダイジェストすると次の3作です。

1.Help!(1965)

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The Beatlesの主演映画「Help!」のサウンドトラックとして制作されたアルバム。いわゆる初期の最終作。まだこの頃はライブも行っており、ロックンロールの影響も感じるナンバーが多く収録されています。次作Rubber Soulからサイケデリック色がだんだん強くなっていきますが、初期のロックンロールバンドとしてのThe Beatlesを総括するアルバム。と同時に、63年からスタートしたブリティッシュインベンション初期のシーンをも総括しつつ、ロックに室内楽を取り入れた「Yesterday」によってロックンロールバンドから急速に脱皮しつつある過渡期でもあります。

2. Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band(1967)

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サイケデリックロック期の金字塔。ライブ活動から引退し、レコーディングアーティストになると宣言したThe Beatlesが、膨大なアイデアをスタジオワークに費やして作り出した音の万華鏡。1967年はJimi Hendrixのデビューした年でもあり、サイケデリックロックが急速に隆興しました。当時のロックシーンの多様性や発展を詰め込んだスナップショットのような作品。

3.The Beatles[White Album](1968)

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バンド史上初の2枚組。というかロック史においてもかなり初期の二枚組アルバムだと思います。「ある程度雑多で実験的な、そのバンドの音楽的興味をすべて詰め込んだようなアルバム」であり、それ以降の「ロックバンドの2枚組アルバム」のコンセプトも示したアルバム。中に収められた楽曲は前衛音楽(Revolution 9)からハードロック(Helter Skelter)まで幅広い音像が収められています。実はUSで一番売れたThe Beatlesのオリジナルアルバム。

おまけ:最初に聞かない方がいいアルバム Yellow Submarine

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名曲「All You Need Is Love」が収録されていますが、半分(B面)は映画のサントラでつかみどころが無いし、最初にこれに手を出すとThe Beatlesってどんなバンドなんだろう? と混乱します。ただ、「最初に」聞かない方がいいだけで、「聞かない方がいい」アルバムではありません。

2.Led Zeppelin

2組目はLed Zeppelinです。通称Zepp。The Beatlesが「ロックバンドのロールモデル」を築き上げたとしたら「ハードロックバンドのロールモデル」を築き上げたバンドと言えるでしょう。ブルースを基調としながら音楽性を拡張していき、ブルースだけでない世界各地のルーツミュージック(英国のトラッドミュージックやKashmirに代表される北アフリカ音楽の導入など)を取り入れ、ロックミュージックの可能性を拡張しました。

1.Led Zepplin Ⅲ(1970)

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正直、Zeppは1stから6thまではすべて名盤だし音楽性も拡張し続けているのですが、全体を見渡せる3枚という視点でまずはこちらから。LPのA面(1~5)はハードロックサイド、B面はアコースティックサイドで、ブリティッシュトラッドの影響を感じさせる音像。フォークロックとも言えます。A面1曲目のImmigrant Song(邦題:移民の歌)は一度聞くと忘れられないインパクトがあります。Black Sabbathの1stアルバムも70年リリース、タイトルトラックは”悪魔の音階”と言われた「トライトーン(三全音/増四度/減五度)」が用いられており、どこか不穏な雰囲気を持っていますが移民の歌もトライトーンが引っかかりのあるイントロの叫び声で使われています。こうしたトライトーンの流行はJimi HendrixPurple Haze(1967)で使ったのが発端な気もします。やはりそれまでの西洋音楽ではあまりない響きだし、ロックのイメージに合う音だったのでしょう。

2.Led Zeppelin Ⅳ(1971)

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ロック名盤では必ず取り上げられるであろうアルバム。アコースティックな響きを取り入れ、ハードロックバラードの一つの完成形を提示したStairway to Heaven(天国への階段)を初め、名曲ぞろいのアルバム。Led Zeppelinの音楽性が完成の域に達したアルバムともいえます。Ⅱで確立したハードロックの手法、Ⅲで確立したトラッド、フォークロックの手法をより深いレベルで融合させた作品です。なお、Led Zeppelinのアルバムはこの4作目まではタイトルがなく、便宜上Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳと呼ばれています。デビュー当時はギタリストのJimmy Pageは黒魔術的なイメージもうまく使いました。このアルバムも4人のメンバーがそれぞれ4つのシンボルで表記されており、古代ケルトのルーン魔術なども連想させますし、アルバムジャケットもタロットカードや錬金術に関与しそうな魔術的なシンボルを想起させます。これは同時代のBlack Sabbathや、Deep PurpleRitchie Blackmoreもそうでしたね。のちに出てくる北欧ブラックメタルのような本格的な悪魔崇拝、反キリストではなくあくまで娯楽、エンターテイメントとしての色付けというか、小道具として黒魔術的なイメージを当時のロックアーティストは身に纏っていました。たとえるならギターソロと手品は同じようなものでもあった。ギタリストは奇術師でもあったのです。だから背中を向けてソロを弾いたり、ソロを弾く手元をTVカメラに写されるのを極端に嫌う、などがこの頃はありました。そうした時代の空気も感じ取れる1枚。

3.Physical Graffiti(1975)

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2枚組のアルバム。The BeatlesのWhite Albumと同じく、「ある程度雑多で実験的な、そのバンドの音楽的興味をすべて詰め込んだようなアルバム」です。一聴して耳を惹くのは6.Kashmir。サハラ砂漠をドライブ中に歌詞を思いついたそうで、全体的にどこか砂漠的、北アフリカ~アラブ圏の音楽的影響も感じさせるロックの領域を拡張した名曲です。北アフリカ音楽への探求はこの後も続き、のちにギタリストのJimmy PageとボーカルのRobert Plantが組み、No Quarter: Jimmy Page & Robert Plant Unledded(1994)というアルバムをリリースしますが、そこではエジプトとマラケシュ(モロッコ)のミュージシャンを迎えてKashmirを含むZeppの曲を再演しています。

おまけ:最初に聞かない方がいいアルバム Coda

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メンバーの死により、Zeppは急な活動休止~解散を余儀なくされます。アルバム契約が残っていたためアウトテイクを集めて急遽リリースされたアルバム。いわばアウトトラック集なので、マニア向け。もちろん、オリジナルアルバムとしてリリースされるだけあって一定以上のクオリティがあるものが選ばれていますが、最初に聞くのはおススメしません。

3.Queen

幾度かの再評価を経て、現在も映画の影響でリバイバル中のQueen。彼らも音楽性の変化が激しいバンドです。各メンバー(4人)がそれぞれ作曲を行えることも曲調の幅広さを産み、時代時代の流行に対応できるポテンシャルがあったともいえます。彼らは評論家ウケが悪いバンドで、デビュー当時はUKの評論家から酷評されました。Queenのデビューアルバム発売は1973年ですが、当時はグラムロック全盛期でルックス的にはブームに乗っていたものの音楽性はプログレ、メタル、フォーク、バロックなどをごった煮で詰め込んだものであり、アイデア先行でまとまりに欠けると評された。今回は「ロックのショーケースたるバンド」を取り上げていますが、実のところ初期Queenは、流行とは関係なく独自性をひたすら追求したバンドでした。なので、取り上げるか迷ったのですが、独自の音楽を追求した過程でさまざまな音楽ジャンルを独自に吸収していき、作り上げた音楽性が結果として後世に影響を与えたと言えます。また、独自の音楽性を追求して大規模な商業的成功を収めた後、中期(The Game)以降は同時代のロック音楽、ひいてはポップスの流行を積極的に取り入れて音楽性を拡散させていきます。

1.A Night at the Opera(1975)

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「オペラ座の夜」の邦題で親しまれる作品。それまで模索してきた「様々な音楽とハードロックの融合」が結実し、オペラとハードロックを融合してみせた「11.Bohemian Rhapsody」を筆頭に幅広い音楽性の曲が並びます。この頃はアルバムに「No Synths'」とクレジットされていました。当時、シンセサイザーがだんだんと導入され、さまざまな音がシンセで代替されるようになっていましたが初期Queenは生楽器に拘り、多重録音によって壮大な音を作りました。この頃のQueenは「ロックシーンを総括するバンド」というより「自分たちの音楽をひたすら追求する」バンド。その結果としてロック音楽の地平を拡げた、いわば「プログレッシブロック」の精神性に近いバンドでした。

2.The Game(1980)

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Queenが「外部に対して開き始めた」作品。当時の流行であったディスコサウンドを大胆に取り入れて大ヒットした「3.Another One Bites the Dust」など、音楽的に独自路線から同時代とのリンクに比重が移っていきます。従来のQueenらしさを保ちつつ、当時の流行を自分たちなりに解釈する、トレンドを取り入れてシーンを総括してみせるような動きが出てきます。このアルバムはトレンドと独自性の両者のバランスが取れたアルバム。一番完成度が高いアルバムかもしれません。

3.The Miracle(1989)

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Queenは一度解散危機を迎えています。それを救ったのが映画「ボヘミアンラプソディ」でも描かれた通りLive Aidでした。1985年のLive Aidで再結集したQueenは全世界に中継され、世界中で人気を得る。そして1986年に「Kind Of Magic」をリリース。このアルバムを引っ提げて行った「Live Magic」ツアーは過去最大規模のツアーでした。これにより南米や欧州での人気が再燃する。アメリカや日本での人気はひと段落していた時期ですが、むしろ世界の他の場所で人気が出ていた。そのツアーを経てリリースされたアルバム。このアルバム制作中にフレディ・マーキュリーはAIDSであることを他のメンバーに告げたと言われています。それもあってかバンドの結束力が高い。また、音楽的にも過去最高に開かれており、「6.Rain Must Fall」など一部ワールドミュージック的なビートも取り入れられています。80年代後半、(USに限らない)世界のメインストリームのロックシーンの音像をよく反映した作品だと思います。

おまけ:最初に聞かない方がいいアルバム Flash Gordon

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これはタイトル通り、映画のサントラです。ほとんどがインスト。もちろん、Queenらしい音楽なので、好きになった後に聞く分にはいいアルバムなのですが、最初に聞いて「なんだこれ」とならないように。CD屋のコーナーにせよ、サブスクリプションにせよ、「オリジナルアルバム」のところに並んでいるのでやや紛らわしいですね。テーマソングは名曲ですが、あえて最初に聞く必要はありません。

4.David Bowie

David Bowie(ディヴィッド ボウイ)、通称ボウイ。ルックスも音楽性も変幻自在のロックスター。グラムロック、日本で言えばビジュアル系の源流の一人でもあり、ニューウェーブ、テクノなど、アンダーグラウンドな音楽シーンの潮流をいち早くかぎつけ、自分のフィルターを通して発表し続けたアーティストです。常に時代の流行を先取った先鋭的な音像を鳴らしており、それが時代とシンクロする時もあればしない時もありましたが、振り返ってみればロック史の多大な領域を照らす道標のような作品を多く遺しました。また、「ロックスター」としての在り方、アイコン(偶像)のロールモデルとしても多大な影響を与えています。

1. The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars(1972)

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最初、シンガーソングライター(SSW)として1967年にデビューしたボウイはだんだんその独自性を開花させていき、「地球に落ちてきた男、ジギースターダスト」という独自のキャラクターを作り上げます。音像的には同時代を席巻していたいわゆるハードロックなのですが、どの曲にも独自の美学がある。ロックのいかがわしさ、妖しさが詰まった不思議な魔力を持った作品。

2.Scary Monsters(1980)

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変貌し続けたボウイの70年代を総括する作品。ポストパンク、ニューウェーブ的なひねくれたシンセサウンドが印象的な作品です。1曲目の日本語のナレーションも耳を惹きます。先鋭/実験的だったベルリン3部作(「Low(1977)」「Heroes(1977)」「Lodger(1979)」)を経て、80年代の商業的大成功「Let’s Dance(1983)」に至る過程。当時のロックシーンの音像やトレンドがよく分かる作品です。なお、小ネタですが1曲目のナレーションをしている女性はミッチ広田さんと言い、女優の広田レオナのお母さん、SparksKimono My House(1974)のジャケットの右側の女性です。

3.Blackstar(2016)

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ボウイの遺作となってしまった2016年作。癌の告知を受けた後に制作されたアルバムであり、死期を悟って作成されたアルバム。一部の曲では同時代的なエレクトリック・ソウルへの接近も見らるものの、全体としてはボウイ自身の総括という側面もあり、それが結果として多様な音楽性、ボウイを通してのロック史を振り返るような内容になっています。自らへのレクイエムのようにも聞こえると同時に、「継続することへの制約」から解き放たれた自由さもあり、変化し続けたボウイの最終章にふさわしい作品であると同時に、2010年代ロックの音像も知ることができる作品。

おまけ:最初に聞かない方がいいアルバム David Bowie Narrates Prokofiev's Peter and the Wolf

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ボウイはけっこう企画盤やサントラが多く、地雷というか、「いきなり聞くとわけが分からないアルバム」が多いのですが、その中でもオリジナルアルバムとしてカウントされている場合もあり危険度が高いのがこちら。オーケストラをバックに物語の朗読という作品。作品としては良質ですが、「ボウイというアーティスト」の入門作としてはまったくおススメしません。ジャケットが何種類もあるのもまた地雷。

5.U2

アイルランド出身、4人組で1980年のデビュー以来、40年以上にわたりメンバーチェンジが一度もないバンド。アイルランドの独立紛争などをテーマに「怒れるポストパンクバンド」としてデビューし、その後音楽性を拡張していき世界最大規模のロックバンドとなりました。ボーカリストのボノは社会問題の問題提起やチャリティーの参加などに積極的で、ジョンレノンを継いで「社会にメッセージを発信するロックスター」のロールモデルとなっています。

1.The Joshua Tree(1987)

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ポストパンクを超えて、新たな「ロックの王道」を作ったアルバム。社会に開かれたポリティカルなメッセージと、内省的で個人的な鼓舞が混在する、パーソナルな領域に入り込んでくる音楽。80年代はアリーナロックの時代であり、ド派手に装飾されたルックスやサウンドがメインストリームを席巻する中、いわば地味とも言えるシンプルかつオーガニックな音作りで、アメリカのルーツミュージック(ブルースやカントリー、ゴスペル)を取り入れた作品。この後のオルタナティブロック、ロックシーン全体のルーツミュージックへの回帰の先鞭をつけたアルバムともいえます。

2.Achtung Baby(1991)

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91年、NIRVANAやPearl Jamがデビューしグランジ、オルタナがロックシーンの主流となりアリーナロックが急激に減衰していく中、U2はクロスオーバー、ミクスチャー的なサウンドに変化します。ギターのルーツを掘り下げた時期を経てエレクトロニックミュージックを取り入れ、同時代のアシッドハウスやマンチェスターサウンドへの接近も感じます。90年代ロックはルーツ回帰かミクスチャーか、どちらかの両端に触れたアーティストがメインストリームでヒットを飛ばしましたが、U2はその両方の動きを自分たちなりに取り入れ、陳列しています。

3. All That You Can't Leave Behind(2000)

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2000年代の幕開けを告げるアルバム。90年代のグランジオルタナのロックシーン全体のトレンドと、U2のクロスオーバー、ミクスチャー期を経てアリーナロック期に戻るような開放感のあるスケールの大きい王道ロック。2000年ごろから王道的なロックが少しづつ復権をはじめ、2001年の同時多発テロ以降はその流れが本格化した印象を持っていますが、その先駆けとなった作品だったように記憶しています。初めて聴いた時「久しぶりにこういうロックを聴いたな」という感覚と共に、「新しい王道ロック」が生み出された感覚がありました。

おまけ:最初に聞かない方がいいアルバム Super Deluxe Edition系

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U2は企画盤がほとんどなく、どれを聴いてもそんなに逸脱したアルバムはないのですが、最近「20周年デラックスエディション」などがリリースされています。サブスクだとオリジナルアルバムよりこちらが先に出てくる場合があるんですよね。たとえばAll That You Can't Leave Behindのデラックスエディションは4枚組なのですが、2枚目以降はマニア向けのライブ音源やデモ音源だったりするし、最初に手を出すことはお勧めしません。一度オリジナルアルバムを聴いてから楽しむもの。

6.Metallica

80年代以降のロックシーンにおける大きな潮流である「メタル」。メタルのショーケースたるバンドがMetallicaです。アルバムごとに大きく音像を変えており、全活動期間を通じてメタルシーンの道標となっているバンド。

1. Master of Puppets(1986)

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メタルミュージック最高傑作のひとつに数えられる作品。Metallicaは多国籍、多様なバックグラウンドを持ったミュージシャンの集合体であり、幅広い音楽ジャンルからの影響が混じりつつ、メンバー共通言語としての「メタル」を追求していきました。初期に追求していたスラッシュ(鞭打つ)メタルの音像が結実した作品。ハードコアと(メタリカ以前の)メタルの両方から影響を受けた疾走感、攻撃感と共に、ストーナーロック的な反復感、バンドサウンドが重なり合うダイナミクスで曲を聞かせるスタイルが確立されています。ロックに力強い肉体性を取り戻した作品

2. Metallica(1991)

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バンド名をタイトルに冠した通称「ブラックアルバム」。従来のサウンドからよりグルーヴィーでヘヴィなサウンドに変化しており、グランジオルタナが隆興する時期にリリースされ、メタルシーンの旗手であるメタリカもグランジ、オルタナな音像に変化したと話題になりました。のちにニューメタル(Nu Metal)と呼ばれることになる一群のルーツ的な音でもあり、ヘヴィな音像ながらリフやボーカルメロディはより覚えやすく、口ずさみやすくなっています。独特のドラムの音像と共に、90年代のメタルの方向性を規定した作品

3.St.Anger(2003)

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メタル(ハードロック=激しいロックと言った方がいいかも)シーンをMetallicaが総括しようとした最後の作品。この作品以降は独自性を掘り下げるようになっていきます。総括しきれなくなったのでしょう。このアルバムは賛否両論分かれた内容ですが、逆に言えば賛否両論が大きく分かれた最後のアルバムでもある。今振り返れば、当時隆興したNu MetalやMetalcoreを取り込み、新時代の(メインストリームの)激しいロック全般を見通そうとした作品だったと言えます。

おまけ:最初に聞かない方がいいアルバム Lulu

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Lou Reed(ルーリード)とのコラボ作。Metallicaの作品というよりルーリードの作品にMetallicaが参加した、という内容なので、最初に聞くべきアルバムではありません。なお、繰り返しますが「最初に」聞かない方がいいだけで、「聞かない方がいい」アルバムではありません。

総括

以上、18枚選んでみました。今回書いたのはあくまで個人的なロック史観ですが、改めて見てみてもこうした「ロックシーンを総括するようなバンド」は2000年代以降、ほとんど現れていない気がします。

今回選んだ基準は、各種メディアでの名盤評価(たとえばAllmusicやRolling Stonesの偉大なアルバムランキング、NME、RYMなど)も踏まえていますが、もう一つ「1億枚以上アルバムを売ったアーティスト」でもあります。これだけ売れたアーティストは音楽シーンに与える影響力がやはり大きい。この後の世代だとColdplayを筆頭にRadioheadLinkin Parkあたりがロックシーンを総括しつつ切り開く、流行を取り入れて自在に音楽性を変化しつつ次のロックシーンを規定するような役割を果たしているようにも思いますが、まだ評価が固まっていないと判断して今回は割愛しました。

今回振り返ってみて思ったのが、6組中5組がUKのアーティストですね。UK史観なのか。USのバンドは「自分の音楽性を掘り下げる」傾向が強いように思います。おそらく、USは音楽市場が大きいのでそれぞれの個性を掘り下げていった方が評価されるのでしょう。UKはやや距離がある分、そうしたトレンドを取り入れて総括的に並べてみることで次の時代を規定する、指針を示すような役割を果たしてきたように思います。まぁ、The Beatlesの足跡、ロールモデルを追っているといってもいいかもしれない。The Beatlesというバンドにそういう特性があったため、そのバトンを引き継いでロックを総括しつつ進化させようとするバンドがずっと現れたとも思えます。ビートルズって改めて聴くとすごく射程が広いバンドなんですよ。その後2000年ぐらいまでのロックシーンのほとんどのメジャーなトレンドの萌芽を含んでいる。だんだんビートルズ史観では語れない場所にロックシーンの中心が移動してきて、それが物議を醸したローリングストーン誌の「偉大なアルバム500」2020年版に繋がっているように思いますが、この話はまた改めて次回以降に。

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この企画を思いついたのは「ロック名盤100」とか「ロック名盤500」といった企画を見ていて、ちょっと多いなぁ、と思ったこと。ここからは個人的な音楽史観ですが、一つのジャンルやシーンで本当に普遍的な魅力を持ったアルバム、アーティストって数組だと思うんですよ。「ロック」はあまりに広大なので「パンクロック」とか「ハードロック」とかのサブジャンルになりますが、各ジャンルで1~2枚選んで聞けばある程度トレンドというか、全体像が見通せるようなアルバムというのがある。それで概要を知って、気に入ったらそこから入っていけばいい。気に入らなければそのジャンルは(その時は)そんなに深追いしなくていい。

個人的な体験として、ロックと並んでワールドミュージックを好んで聞くのですが、ワールドミュージックって入り口が難しいんですよね。幅広すぎる。そうした音楽をどう掘っていいか分からなかった時に「とりあえず3組、代表的と思われるアーティストを聴く」ということをやっていました。たとえばアフリカだったらFela KutiSalif KeitaKing Sunny Adeを聴いてみた。そうなるとそこからいろいろな情報が分かってきて、他のシーンも見通せてくる。ブラジルだとCaetano VelosoJorge BenJoao gilbertoとか。そこをきっかけに、そのアーティストを掘っていけばシーンの大まかな部分が見えてくる。そうか、Joao gilbertoとコラボしているAntonio Carlos Jobimという人がいるのか、とか。

今回は「ロック」という広大なジャンル(そもそも「ロック」をどう定義するのか/しきれるのか、自分でもやや曖昧です)の入り口となるようなアーティスト、という視点で6組、さらにキャリアが長いアーティストばかりなので、そこから3枚を選んでみました。

あと、「最初に聞かない方がいい」も選んだのは、人生で最初に買ったアルバムの一つがあるバンドのリミックスアルバムだったんですよね。洋楽を聴いてみようと思って、ランキング1位を買っとけば間違いないだろうと思って近所のCDショップで聴いたら、なんというか当時はやっていたリミックスもので、ぜんぜんそのアーティストの他のアルバムと違っていた。これが嫌な記憶として残っているので、あえて選んでみました。昔はCDを買わないと中身分からなかったので、ダメージが大きかったんですよ。今でも、最初にちょっと特殊なアルバムに触れてしまってそのバンドのことを誤解する、ということもあるだろうし。もしこれらのアーティストで「最初に聞かない方がいい」しか聞いたことがない方がいたら、他のアルバムも聞いてみてください。

次回、今回の6組18枚ではさすがに抑えきれなかった他の重要作、というか「これだけ聞いておけばロック史がだいたい分かる」ものを追加で選びたいと思います。

今回の18枚
1. The Beatles / Help!(1965)
2. The Beatles / Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band(1967)
3. The Beatles / The Beatles[White Album](1968)
4. Led Zeppelin / Led Zepplin Ⅲ(1970)
5. Led Zeppelin / Led Zeppelin Ⅳ(1971)
6. David Bowie / The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars(1972)
7. Led Zeppelin / Physical Graffiti(1975)
8. Queen / A Night at the Opera(1975)

9. Queen / The Game(1980)
10. David Bowie / Scary Monsters(1980)
11. Metallica / Master of Puppets(1986)
12. U2 / The Joshua Tree(1987)
13. Queen / The Miracle(1989)
14. Metallica / Metallica(1991)
15. U2 / Achtung Baby(1991)
16. U2 / All That You Can't Leave Behind(2000)
17. Metallica / St.Anger(2003)
18. David Bowie / Blackstar(2016)

それでは良いミュージックライフを。

続編記事はこちら

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