見出し画像

ライブ演奏曲で見るIRON MAIDENの歴史

作曲者で見るIRON MAIDENの歴史」に次ぐIRON MAIDEN分析第二弾です。IRON MAIDEN(メイデン)は1975(76説あり)年結成、1980年にデビューした、Heavy Metal(HM)を代表するイギリスのバンドです。第一弾では各アルバムの作曲者を中心に当時のバンドの戦略や人間関係を推測していきましたが、今回はライブ演奏曲に焦点を当てて、メイデンの歴史を紐解いていこうと思います。

メイデンの代表曲は何か、という問いを考えてみる時、「ライブでの演奏回数」は外せない要素でしょう。多く演奏される曲=代表曲、であり、それはどのような内訳になっているのでしょうか。

メイデンは2020年5月に来日公演が予定されていましたが延期となりました。メイデンのライブは高揚感・団結感・迫力・ドラマ性・巨大エディーに代表されるエンタメ性等々、メタル・ライブの醍醐味が詰まっています。1980年、NWOBHMの旗手としてロンドンから彗星のように現れたメイデンは、スタジオで緻密に作り上げられたアルバムと、爆発的なパフォーマンスで観客の度肝を抜くライブ・ツアーを両輪に世界を征服してきました。1990年代後半に一時停滞したものの、2000年代にはより大きな成功を手にし、2020年現在では、メタリカなどと並ぶ世界で最も動員力のあるメタル・バンドです。メイデンの再来日を祈念しつつ、40年に及ぶメイデンのライブ・ヒストリーを見ていきましょう。

今までリリースされたメイデンのオリジナル曲は158曲。アルバム曲154曲と、シングル(および編集盤)のみに収録されている4曲(Sanctuary、Burning Ambition、Invasion、Virus)です。他、ライブ演奏の記録があるカバー曲が4曲あり、レパートリーは全162曲。これらの曲を全年代/80年代/90年代/00年代/10年代で、それぞれ演奏回数ベスト30をご紹介します。10年ごとに区切るのはリリース年によって演奏回数に差があるからです。90年代リリースの曲は当然ながら80年代には演奏されないし、10年代リリースの曲は全体としての演奏回数は少なくても最近のライブでは多く演奏される、等があるので、各年代の代表曲を知る、という意味でも重要でしょう。まずは全年代で演奏されたトップ30を見てみましょう。

※なお、今回の集計にあたっては英語版Wikiを参考にしています。「”いくつかの”ショウでは○○の代わりに○○を演奏した」と正確な演奏数が分からなかったり、ページによって微妙に数字がずれていたりするところもあるので完全に正確な数字ではありませんが、集計結果はだいたい正しいと思っています。集計に使った数値のPDFはこちら。

全年代 演奏回数トップ30

1.Iron Maiden 100%
2.Hallowed Be Thy Name 83%
3.The Number Of The Beast 77%
4.The Trooper 71%
5.Run To The Hills 65%
6.2 Minutes To Midnight 64%
7.Sanctuary 59%
8.Wrathchild 51%
9.Fear Of The Dark 49%
10.Running Free 43%

11.Phantom Of The Opera 40%
12.The Evil That Men Do 39%
13.Heaven Can Wait 36%
14.The Clairvoyant 32%
15.Wasted Years 28%
16.Revelations 27%
17.Drifter 24%
18.Children Of The Damned 22%
19.Aces High 22%
20.22 Acacia Avenue 21%

21.Rime Of The Ancient Mariner 19%
22.Powerslave 19%
23.Flight Of Icarus 18%
24.Afraid To Shoot Strangers 18%
25.Another Life 18%
26.Prisoner 18%
27.Sign Of The Cross 17%
28.Murders In The Rue Morgue 16%
29.Guiter solo(murray/smith) 16%
30.Transylvania 15%

※パーセンテージは演奏率

2020年までにメイデンは26回のツアー、2238回のライブを行っています。うち、最初の2つ、最初のMetal for Muthas Tour(1980)は複数バンドによる企画ツアー、2つ目のBritish Steel Tour(1980)はJUDAS PRIESTの前座であり、wikiに演奏曲のデータがないのでそれらを除外し、24回のツアー、2208回のライブを全数として集計しました。

1位は彼らの代名詞とも言えるIRON MAIDEN。演奏率100%、つまり、必ずライブで演奏しています。2位はHallowed Be Thy Nameで83%。けっこう下がります。収録されたのが3rdアルバムなので、当然ながらリリース前のライブでは演奏されていません。10位のRunning Freeまで、最近(10年代)のライブではあまり演奏されなくなりつつある曲も一部ありますが、そうはいっても「メイデンライブの定番曲」と感じる曲が並んでいます。

11位以降になると年代によってかなり変わります。リリースされた年代のツアーではよく演奏され、それなりに演奏回数もありますが、ライブで聴けると「レアな曲が聴けた特別感」が出てきます。19位のAces Highは代表曲の一つでベスト盤などにはほぼ収録されていますが演奏回数は実は少な目。ツアーの1曲目を飾る曲はそのツアーの印象が強いため他のツアーでは基本的に演奏しない、という不文律があり、Aces Highは基本的にリリース時のWorld Slavery tour(1984)のみでの演奏でした。このルールがあるのでメイデンはツアーごとにけっこう曲が入れ替わります。ブレイズ・ベイリー在籍期の1999年、ゲームとタイアップしたベスト盤リリースに伴うThe Ed Hunter Tour(1999)で久しぶりに演奏。

その後、ブルースが復帰した2000年以降は過去の一定の期間やアルバムを特集する企画ツアーを行うようになり、Somewhere Back in Time World Tour(2008-2009)、Maiden England World Tour(2012-2014)、Legacy of the Beast World Tour(2018-)で演奏されています。

20位以降はけっこうレアですが、先述した2000年代以降の企画ツアーで演奏された曲も多くあります。珍しいのは21位のGuiter solo(murray/smith)ですね。80年代はギターソロコーナーがありましたが、90年代以降はゼロです。おそらく今後もないでしょう。十分曲の中にギターソロが入っていますしね。あと、30位のTransylvaniaも2000年(00年代)以降一度も演奏されていません。

別の視点で見てみましょう。各アルバムから上位30曲に入った曲の多さランキングです。

1.魔力の刻印/The Number Of The Beast(1982)
   6曲(2.3.5.18.20.26)
2.鋼鉄の処女/IRON MAIDEN(1980)
   4曲(1.10.11.30)
2.キラーズ/Killers(1981)
   4曲(8.17.25.28)
2.パワースレイブ/Powerslave(1984)
   4曲(6.19.21.22)
5.頭脳改造/Piece Of Mind(1983)
   3曲(4.16.23)
6.サムホェア・イン・タイム/Somewhere In Time(1986)
   2曲(13.15)
6.第七の予言/Seventh Son of a Seventh Son(1988)
   2曲(12.14)
6.フィア・オブ・ザ・ダーク/Fear Of The Dark(1992)
   2曲(9.24)
9.X ファクター/The X Factor(1995)
   1曲(27)

ほぼすべて80年代、一部90年代リリースのアルバムとなりました。リリース年が古い方がライブで演奏されている年数が長いので当然の結果ですね。1位は1982年リリースの3rd魔力の刻印で6曲。代表作とされるのも納得です。2位は4曲で同数で3枚。1st鋼鉄の処女、2ndキラーズ、5th頭脳改造です。なお、7.Sanctuaryはシングルでリリースされた曲で日本盤1stにはボーナストラックとして収録されていますが、オリジナル盤には未収録なので1stに含んでいません。続いて5位は4th頭脳改造で3曲。6位は2曲でこちらも同数3枚。6thサムホェア・イン・タイム、7th第七の予言、9thフィア・オブ・ザ・ダークです。最後が1曲で10thでブレイズ在籍期のX ファクター。00年代以降のアルバムはランクインしていません。これらは年代別に見ていくとランクインしてくるでしょう。

80年代 演奏回数トップ30

1.Iron Maiden 100%
2.Sanctuary 85%
3.Run To The Hills 78%
4.Hallowed Be Thy Name 78%
5.Phantom Of The Opera 71%
6.Running Free 67%
7.The Number Of The Beast 63%
8.Wrathchild 53%
9.Drifter 52%
10.2 Minutes To Midnight 45%

11.The Trooper 43%
12.Another Life 38%
13.Guiter solo(murray/smith) 36%
14.Children Of The Damned 35%
15.Rime Of The Ancient Mariner 35%
16.Revelations 33%
17.Flight Of Icarus 33%
18.22 Acacia Avenue 33%
19.Murders In The Rue Morgue 31%
20.Transylvania 29%

21.Prisoner 29%
22.Heaven Can Wait 25%
23.Wasted Years 25%
24.Prowler 25%
25.Killers 25%
26.Remember Tomorrow 22%
27.The Ides Of March 22%
28.Innocent Exile 19%
29.Aces High 19%
30.Powerslave 19%

80年代は8つのツアー、978回のライブを行っており、全年代で最もライブ回数が多い年代です(先述した通り、最初30回は曲目が不明なので含みません)。全2208回のライブのうち、半分近い44.3%がこの80年代。デビュー当時はとにかくライブを続けてファン層を拡大していったのでしょう。後述しますが90年代以降はライブのペースは一定に近くなっており、90年代、00年代、10年代でライブの回数はそこまで変わりません。80年代だけ、他の年代(10年区切り)の倍以上のライブを行っています。なので、ライブ回数が多いため80年代のランキング上位曲は全年代でも上に出てきています。

1位は変わらず、100%なので全年代で1位です。他は2.Sanctuary、5.Phantom Of The Opera、9.Drifter、が大きく順位アップ。80年代はかなり演奏率が高い曲でしたがその後、だんだん他の曲に置き換えられていることがわかります。5.Phantom Of The Operaは1st収録曲ですが、ややパンクからの影響も感じられるシンプルな曲もある1stの中では1.Iron Maidenと並ぶメイデンらしい複雑な展開を見せるその後のメイデンサウンドの原型的な曲で人気の高い曲です。比較的00年代以降も演奏されたことがある曲が多いですが、25.Killersは00年代以降、27.The Ides Of March、28.Innocent Exileは90年代以降演奏されていません。アルバム別に見てみましょう。後ろの()内の曲はこのアルバムに何位の曲が収録されているかを表しています。

1.キラーズ/Killers(1981)
  7曲(8,9,12,19,25,27,28)
2.鋼鉄の処女/IRON MAIDEN(1980)
  6曲(1,5,6,20,24,26)
2.魔力の刻印/The Number Of The Beast(1982)
  6曲(3,4,7,14,18,21)
4.パワースレイブ/Powerslave(1984)
  4曲(10,15,29,30)
5.頭脳改造/Piece Of Mind(1983)
  3曲(11,16,17)
6.サムホェア・イン・タイム/Somewhere In Time(1986)
  2曲(22,23)

1位は2ndキラーズで7曲です。1stより多いとは意外でした。80年代メイデンにおいては重要なレパートリーが多く含まれているアルバムだったのでしょう。2位は1st鋼鉄の処女と3rd魔力の刻印魔力の刻印からランクインした6曲は全年代のトップ30にも全曲残っており、全年代を通じて演奏されている名曲群であることがわかります。ボーカルがポール・ディアの時代の2枚(1st、2nd)からの演奏曲はだんだん減っていきますが、どちらも若き日のメイデンのパンキッシュな面を強く感じられる名盤です。

4位は5thパワースレイブで4曲、5位は4th頭脳改造で3曲、6位が6thサムホェア・イン・タイムで2曲です。1988リリースの第七の予言からはリリースされてからの演奏期間が短かったため80年代にはランクインせず。リリースが古い4thより5thからの曲の方が多くランクインしているということは、このアルバムからリリース時のツアー以外にもセットリストに残って演奏される曲が多かったということでしょう。

90年代 演奏回数トップ30

1.Iron Maiden 100%
1.Hallowed Be Thy Name 100%
1.2 Minutes To Midnight 100%
1.The Trooper 100%
5.Heaven Can Wait 94%
6.The Clairvoyant 92%
7.The Evil That Men Do 77%
8.The Number Of The Beast 77%
8.Fear Of The Dark 77%
10.Wrathchild 73%

11.Afraid To Shoot Strangers 70%
12.Sanctuary 68%
13.Run To The Hills 54%
14.Man On the Edge 52%
15.Bring Your Daughter...To the Slaughter 48%
16.Sign Of The Cross 45%
17.Lord Of The Flies 44%
18.Tailgunner 38%
19.Fortunes Of War 28%

20.The Aftermath 28%
20.Blood On The World's Hands 28%
20.The Edge Of Darkness 28%
23.Be Quick Or Be Dead 24%
23.From Here To Eternity 24%
23.Wasting Love 24%
26.The Clansman 24%
26.Futureal 24%
28.Die With Your Boots On 24%
29.22 Acacia Avenue 23%
29.Holy Smoke 23%

90年代からは80年代に比べてライブ回数が半分以下に減ります。80年代後半からツアーが大規模になり、世界各地のアリーナクラスでの会場でライブを行うようになっているため、80年代に比べると回数が減っています。90年代は6つのツアー、453回のライブを行っています。

回数が減った分、ひとつひとつのツアーの影響が大きく出ています。基本、メイデンは一つのツアーでは一つのセットリストです(数曲の入れ替えや、数会場でしかやらない曲などはありますが)。なので、たとえば20位に同位3曲、23位にも同位3曲など同じ演奏回数の曲がありますが、これは「リリース時のツアーでセットリストに組み込まれ、最初から最後まで演奏された曲」がランクインしています。10位までは比較的おなじみの曲が多いですが、それ以降はリリース時ツアーでしか演奏されていない曲が多く含まれていますね。アルバムリリース時にはそのアルバムからの新曲を多く演奏するのがメイデンの特徴で、セットリストはかなり年代によって変化しています。長いキャリアを誇るバンドでありながら「必ず演奏する曲」がほぼありません。それこそ、全年代を通してみればバンド名にもなっているIron Maiden1曲だけであり、他はライブによって演奏されないこともあるわけですね。常に新曲をライブで演奏し続ける現役感の強さがメイデンの魅力でもあります。

90年代の特徴として、上位曲の演奏率が高い。他の年代では10位で演奏率が50%を切っているのに対して、70%台を保っています。つまり、定番曲がセットリストに占める割合が高かった。これはブレイズが歌えるブルース期の曲を限定し、完成度を上げようとしたからかも知れません。ボーカルが変わったことでレパートリーは限定されたと考えられます。なお、ブレイズ・ベイリー期のツアーは3回行われています。うち、2つ以上のツアーで演奏されたのは14.Man On the Edge、26.The Clansman、26.Futurealの3曲です。この3曲がブレイズ在籍時の代表曲と言えるでしょう。ブレイズのボーカルスタイルにも合っている印象ですね。

続いてアルバム別に見てみます。後ろの()内の数字は、順位ではなく表記順です。23なら上から23行目。同順位の曲がいくつもあったので。

1.X ファクター/The X Factor(1995)
  7曲(14,16,17,19,20,21,22)
2.フィア・オブ・ザ・ダーク/Fear Of The Dark(1992)
  5曲(9,11,23,24,25)
3.魔力の刻印/The Number Of The Beast(1982)
  4曲(2,8,13,29)
4.ノー・プレイヤー・フォー・ザ・ダイング/No Prayer For The Dying(1990)
  3曲(15,18,30)
5.頭脳改造/Piece Of Mind(1983)
  2曲(4,28)
5.第七の予言/Seventh Son of a Seventh Son(1988)
  2曲(6,7)
5.ヴァーチャル・イレヴン/VIRTUAL XI(1998)
  2曲(26,27)
8.鋼鉄の処女/IRON MAIDEN(1980)
  1曲(1)
8.キラーズ/Killers(1981)
  1曲(10)
8.パワースレイブ/Powerslave(1984)
  1曲(3)
8.サムホェア・イン・タイム/Somewhere In Time(1986)
  1曲(5)

なんと、意外なことに1位は10thX ファクターで7曲です。このアルバムリリース時のツアーは回数も多い(128回)のと、ブレイズ・ベイリーにボーカルが変わった初のツアーなので、ブレイズの初アルバムである10thから多く曲を選んでセットリストを作ったのでしょう。実際、youtubeに上がっているライブ映像などを見るとスタジオ盤よりよく聞こえる曲もあります。X ファクターについてはこちらの記事もどうぞ。アルバムの完成度という点では決して名盤や代表作ではありませんが、メイデンの歴史において転換点であり、重要な役割を果たしているアルバムです。

2位は90年代リリースの9thフィア・オブ・ザ・ダークで5曲です。妥当な感じがしますね。むしろこれが1位かと思っていました。収録曲数が多いので多少散漫な印象はありますが、名曲も多く入っているアルバムです。3位はやはり強い3rd魔力の刻印で4曲。次いで90年代リリースの8thノー・プレイヤー・フォー・ザ・ダイングの3曲です。8thはメインソングライターの一人だったエイドリアン・スミスが脱退してしまい、曲調が初期のダークさやパンキッシュさをやや取り戻したアルバムですが、メイデンの流れの中ではやや異質。ライブでもそれほど取り上げられていません。

5位以降はだいぶバラけています。特筆すべきは1st鋼鉄の処女と2ndキラーズから1曲づつしかランクインしていないこと。全年代の演奏回数では10位に入ったRunning Freeも30位圏外に落ちています。90年代はボーカル変更によりやや迷走していた感もありますが、他の視点で言えば新たな音楽性を模索し、ライブでは定番曲はセットリストに固定しつつ、どんどん新しい曲も演奏したチャレンジングな年代だったとも言えます。

00年代 演奏回数トップ30

1.Iron Maiden 100%
2.Hallowed Be Thy Name 100%
3.Fear Of The Dark 89%
4.The Trooper 88%
4.The Number Of The Beast 88%
6.2 Minutes To Midnight 75%
7.Run To The Hills 68%
8.Wrathchild 50%
9.Revelations 43%
10.Brave New World 43%

11.The Evil That Men Do 43%
12.Sanctuary 38%
13.The Clansman 36%
13.The Wicker Man 36%
15.Heaven Can Wait 32%
15.The Clairvoyant 32%
17.Can I Play with Madness 32%
18.Wildest Dreams 28%
19.Wasted Years 24%
19.Aces High 24%
19.Powerslave 24%
19.Rime Of The Ancient Mariner 24%

23.Sign Of The Cross 21%
23.Blood Brothers 21%
23.Ghost Of The Navigator 21%
23.The Mercenary 21%
23.Dream Of Mirrors 21%
28.Die With Your Boots On 21%
29.Moonchild 18%
30.Phantom Of The Opera 17%

00年代はブルース・ディッキンソンが2000年に復帰し、メイデンの第二黄金期がスタートした年代です。6つのツアー、380回のライブを行っています。ライブ回数で言うと40年の中では一番少ない10年間です。その分、一つのツアーで取り上げられた曲が上位に来やすい傾向があります。また、00年代からニューアルバムのリリースツアーの合間に「過去の一定の時期を振り返るツアー」が組まれるようになりました。アルバムリリースに伴うツアーではないのでニューアルバムからの新曲ではなく、過去のどこかの時期にフォーカスした曲が多めにセットリストに入ります。ベストアルバムリリースの伴い80年代曲が多めなGive Me Ed... 'Til I'm Dead Tour(2003)、DVD「Early Days」リリースに伴い初期2枚からの選曲が多めなEddie Rips Up the World Tour(2005)、80年代のブルース期のアルバム(3rd~7th)までの選曲が多めなSomewhere Back in Time World Tour(2008-2009)の3つがそれです。さすがに歴史が長くなってくると「ニューアルバムからの新曲を聴きたい」というニーズと「昔の名曲を聴きたい」というニーズのどちらも増えてくるので、その両方にこたえる妙案です。そのため、過去曲の演奏回数も増えています。

1位は不動ですが、2位のHallowed Be Thy Nameも90年代に続いて100%に。あとは2000年代リリースの新曲は10位のBrave New Worldが最高位ですね。全体的に、先述した企画ツアーによりニューアルバムからの曲の比率が下がり気味で、新曲のランクインが減っています。アルバムごとに見てみましょう。90年代と同じく後ろの()内の数字は、順位ではなく表記順です。

1.ブレイヴ・ニュー・ワールド/Brave New World(2000)
  6曲(10,14,24,25,26,27)
2.パワースレイブ/Powerslave(1984)
  4曲(6,20,21,22)
2.第七の予言/Seventh Son of a Seventh Son(1988)
  4曲(11,16,17,29)
4.魔力の刻印/The Number Of The Beast(1982)
  3曲(2,5,7)
4.頭脳改造/Piece Of Mind(1983)
  3曲(4,9,28)
6.鋼鉄の処女/IRON MAIDEN(1980)
  2曲(1,30)
6.サムホェア・イン・タイム/Somewhere In Time(1986)
  2曲(15,19)
8.キラーズ/Killers(1981)
  1曲(8)
8.フィア・オブ・ザ・ダーク/Fear Of The Dark(1992)
  1曲(3)
8.X ファクター/The X Factor(1995)
  1曲(23)
8.ヴァーチャル・イレヴン/VIRTUAL XI(1998)
  1曲(13)
8.死の舞踏/Dance Of Death(2003)
  1曲(18)

1位は2000年リリースでブルース復帰作の12thブレイヴ・ニュー・ワールドで6曲。ブルース復帰作ということで力の入ったアルバムでした。企画ツアーも増えたといえどもやはりニューアルバムからの曲を多めに演奏しているメイデンの姿勢がうかがえます。2位は同率で6thパワースレイブと7th第七の予言。人気曲の多いアルバムですが、意外にライブで取り上げられてこなかったアルバムです。リリース後の80年代、90年代ではそれほど曲数もランクインしていませんし、2000年代になって再評価されライブでも多く取り上げるようになったアルバムです。

4位は定番の3rd魔力の刻印と4th頭脳改造で3曲。6位に90年代からは1曲増えた1st鋼鉄の処女と、6thサムホェア・イン・タイムで2曲づつ。あとは各1曲で2ndキラーズ、9thフィア・オブ・ザ・ダーク、10thX ファクター、11thヴァーチャル・イレヴン、13th死の舞踏と続きます。13thはリリース年代なのに曲目が少な目ですね。けっこうエッジの立った個性ある曲が集まっている名盤なのですが。特筆すべきは00年代(2006年)リリースなのにランクインがないのが14th戦記 ーア・マターオブ・ライフ・アンド・デスー です。これはコンセプトアルバムであり、リリース後のツアーでアルバム全曲再現という非常に攻めたツアーA Matter of Life and Death Tour(2006-2007)を行いました。当時は「名盤全曲再現ライブ」が流行り始めたころですが、メイデンほどの大会場・大規模ライブを行うアーティストで、リリースしたばかりの新譜を全曲再現した例は、少なくともメタルアーティストでは他に知りません。このツアーで全曲演奏された分、このツアー以外で演奏されることが少なく全体の演奏回数は少なくなっています。

あと、8thノー・プレイヤー・フォー・ザ・ダイングからは1曲もエントリーなし。あまり演奏されないアルバムです。

10年代 演奏回数トップ30

1.Iron Maiden 100%
1.Fear Of The Dark 100%
1.The Number Of The Beast 100%
4.The Trooper 91%
5.Hallowed Be Thy Name 63%
6.2 Minutes To Midnight 61%
6.The Evil That Men Do 61%
8.Wasted Years 55%
9.Blood Brothers 54%
10.Run To The Hills 46%
10.Aces High 46%

12.The Wicker Man 45%
13.Running Free 45%
14.Powerslave 29%
14.Children Of The Damned 29%
14.If Eternity Should Fail 29%
14.Speed of Light 29%
14.The Red and the Black 29%
14.The Book of Souls 29%
14.Death or Glory 29%

21.Revelations 26%
22.Can I Play with Madness 25%
22.Moonchild 25%
22.Phantom Of The Opera 25%
22.Prisoner 25%
22.Seventh Son of a Seventh Son 25%
27.El Dorado 25%
28.Dance Of Death 23%
29.Wrathchild 23%
30.The Clansman 21%

いよいよ直近10年代です。10年代は4つのツアー、397回のライブを行っています。ツアー数は少な目ですがライブ回数は00年代より多い。1つ1つのツアーが大規模化しています。14thファイナル・フロンティアリリースのツアーと、過去を振り返るMaiden England World Tour(2012-2014)、15th魂の書リリースツアーとゲームとタイアップして全年代ベスト選曲的なLegacy of the Beast World Tour(2018-)の4つのツアーが行われました。

1位は100%で3曲。Iron Maidenは定番として後2曲Fear Of The DarkThe Number Of The Beastが100%です。00年代以降の曲としては10位以内に9.Blood Brothers がランクインしています。あとは、デビュー以来30年にわたって演奏回数ランキング上位に入っていたSanctuaryがついに圏外に。代わりに90年代、00年代では圏外に落ちていた13.Running Freeが復活しています。

それでは、アルバムごとに見ていきましょう。毎度()内の数字は、順位ではなく表記順です。

1.魔力の刻印/The Number Of The Beast(1982)
  5曲(3,5,10,15,25)
1.魂の書/The Book of Souls(2015)
  5曲(16,17,18,19,20)
3.第七の予言/Seventh Son of a Seventh Son(1988)
  4曲(7,22,23,26)
4.鋼鉄の処女/IRON MAIDEN(1980)
  3曲(1,13,24)
4.パワースレイブ/Powerslave(1984)
  3曲(6,11,14)
6.頭脳改造/Piece Of Mind(1983)
  2曲(4,21)
6.ブレイヴ・ニュー・ワールド/Brave New World(2000)
  2曲(9,12)
8.キラーズ/Killers(1981)
  1曲(29)
8.サムホェア・イン・タイム/Somewhere In Time(1986)
  1曲(8)
8.フィア・オブ・ザ・ダーク/Fear Of The Dark(1992)
  1曲(2)
8.ヴァーチャル・イレヴン/VIRTUAL XI(1998)
  1曲(30)
8.死の舞踏/Dance Of Death(2003)
  1曲(28)
8.ファイナル・フロンティア/The Final Frontier(2010)
  1曲(27)

1位は全年代を通じて強い3rd魔力の刻印と10年代の新譜である16th魂の書の5曲。最新作からのランクインが多いのは、ライブで新譜からの曲も一定数入れていることがうかがえます。次点は00年代から引き続いて再評価の機運が高い7th第七の予言が4曲でランクイン。続いては90年代には1曲まで減ったもののだんだん持ち直してきている1st鋼鉄の処女と、6thパワースレイブが3曲でランクイン。あとはこちらも定番を抱える4th頭脳改造と00年代復活作の12thブレイヴ・ニュー・ワールドから各2曲。あとは1曲づつで6枚がランクイン。1曲もランクインしなかったのは00年代に続いて8thノー・プレイヤー・フォー・ザ・ダイング、14th戦記 ーア・マターオブ・ライフ・アンド・デスー と、新たに10thX ファクターですね。15thファイナル・フロンティアは10年代リリースながら1曲しかランクインできていません。悪くないアルバムなのですが、オープニングのイントロがややつかみどころがないのと、バラエティにあふれる曲が入っているもののキラーチューンが少なかったせいでしょうか。

さて、40年にわたるメイデンのライブ史を観てきました。時代と共に演奏する曲、その時の代表曲(バンドが提示したい曲)が変遷しているのがうかがえます。全体を通して演奏曲が多かったのは3rd魔力の刻印でした。あとは、00年代、10年代になって演奏曲が増えているのが7th第七の予言です。00年代以降リリースで演奏回数が多いアルバムは12thブレイヴ・ニュー・ワールドと16th魂の書ですね。どちらも名盤だと思います。もしこれからメイデンを聴く方がいれば、最初はこの4作から聴くことをオススメします。

一度も演奏されていない曲

最後に「一度も今までライブで演奏されたことがない曲」を見てみましょう。メイデンのレパートリー全162曲中、今まで一度も演奏された記録がない曲が45曲あります。各アルバム別にご紹介します。

鋼鉄の処女/IRON MAIDEN(1980)
なし(全曲演奏されている)

キラーズ/Killers(1981)
2曲
 Prodigal Son
 Purgatory

魔力の刻印/The Number Of The Beast(1982)
2曲
 Invaders
 Gangland

頭脳改造/Piece Of Mind(1983)
2曲
 Quest For Fire
 Sun And Steel

パワースレイブ/Powerslave(1984)
3曲
 Flash Of The Blade
 The Duellists
 Back In The Village

サムホェア・イン・タイム/Somewhere In Time(1986)
2曲
 Deja-Vu
 Alexander The Great

第七の予言/Seventh Son of a Seventh Son(1988)
2曲
 The Prophecy
 Only the Good Die Young

ノー・プレイヤー・フォー・ザ・ダイング/No Prayer For The Dying(1990)
3曲
 Fates Warning
 Run Silent Run Deep
 Mother Russia

フィア・オブ・ザ・ダーク/Fear Of The Dark(1992)
7曲
 Fear Is The Key
 Childhood's End
 The Fugitive
 Chains Of Misery
 The Apparition
 Judas Be My Guide
 Weekend Warrior

X ファクター/The X Factor(1995)
4曲
 Look For The Truth
 Judgement Of Heaven
 2 A.M.
 The Unbeliever

Virus/シングル(アルバム未収録)(1996)
1曲
 Virus

ヴァーチャル・イレヴン/VIRTUAL XI(1998)
1曲
 Como Estais Amigos

ブレイヴ・ニュー・ワールド/Brave New World(2000)
2曲
 The Nomad
 The Thin Line Between Love & Hate

死の舞踏/Dance Of Death(2003)
5曲
 Montsegur
 Gates Of Tomorrow
 New Frontier
 Face in The Sand
 Age Of Innocence

戦記/A Matter of Life and Death(2006)
なし(全曲演奏されている)

ファイナル・フロンティア/The Final Frontier(2010)
5曲
 Mother of Mercy
 The Alchemist
 Isle of Avalon
 Starblind
 The Man Who Would Be King

魂の書/The Book of Souls(2015)
4曲
 When the River Runs Deep
 Shadows of the Valley
 The Man of Sorrows
 Empire of the Clouds

演奏されていない曲もなかなか面白いですね。結構良い曲も多く、シングルカットされている曲やリードトラック的に扱われている曲もあるので、ライブで再現しづらい、ボーカルの音域がつらいなど、ライブで演奏しづらい理由があるのかもしれません。「ライブで演奏されなかった曲」ばかり集めたプレイリストを作って演奏されなかった理由を考えるのも楽しいかもしれません。

今回は、ライブ演奏曲から見たメイデンの歴史でした。それでは次のメイデンライブを心待ちにしながら。UP THE IRONS!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?