新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。
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グーグルマップで行く! 世界的世界旅行(完全版)

 グーグルマップには地形モードという表示方法があって、それで表示すると日本はほとんど山でできていることがわかる。どこもかしこも濃い緑色ばかり。
 だけどところどころ、穴のように薄い緑色の地点がある。それが平地だった。
 そしてそのほとんどに、聞いたことのある地名が、いわゆる都市と呼ばれる街がある。

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 東京、大阪、名古屋はもちろん、弘前、金沢、高松などの地方都市もそう。県庁所在地や新幹線の駅があるような場所はだいたい平地だった。
 明らかに、必然的に、ここに集まってきたということがわかる。
 日本で最大の平野と聞いていた関東平野はこうして見るととにかくバカでかいが、それ以外のほとんどの街は、露骨に周囲を山に囲まれている。陣取りゲームだったらとっくに負けが決定しているような状況だ。
 これを見るまで、街とは、偶然人が多くいた場所に発生するものだと思ってた。
 でもそれはたぶん間違っていて、人よりも先に、場所が、街があったことは明らかに思える。

 そのバカでかい関東平野の中心も中心、東京の池袋で育った。
 関東平野の広さについてピンときてなかったのは、どこにいても高い建物があったからだと思う。今も東京に住んでるけど、確かに山は見えないというくらいにしか実感がない。
 池袋にはHMVもジュンク堂もあって、閉店15分前に家を自転車で出れば余裕でその日発売のCDも買えた。電気屋がいくつもあって、その店で在庫切れでも隣の店では色違いまで選べる。同じブランドの洋服屋が東口だけで2店舗あることだってある。
 そういう、手に入れようと思えば(お金のことを気にしないでいいなら)たいていのものが手に入る場所に住んでいるからか、世の中が便利になっていくからか、生活になくてはならないものの数が、どんどん増えている気がする。

 パソコンやスマートフォンがなくては無理としか言いようがないし、それもできればハイスペックがいい。音が劣るからと手を出してなかったbluetoothイヤホンだけど、コードのないこの快適さといったら。ドラム式洗濯機や食洗機にも憧れるけど、手にしたらもう生活必需品になることは決定してる。そもそも家に洗濯機がない生活だって想像しがたい。
 いつかは空気のいい田舎暮らしも悪くないけどwi-fiは必須。ホームセンターはあるだろうけど、ときどきはハンズやロフトも行きたい。ユニクロや無印良品があると何かと便利だから、いっそそれらが全て入ったイオンが、できれば20分、妥協しても35分の距離にはあってほしい。コンビニは本音を言えば徒歩1分。宅配は待てて平均3日。
 そんな話を母親としてたら、母親が「私たちのころの下宿は、みんな共同トイレ、共同洗面だよ」と言ってきたからびっくりした。情報としてはもちろん知っていたのに。
「でも今さら水準を下げるのは難しいでしょ?」


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 新型コロナウイルスが日本で流行する直前の2月。友人とふたりで九州旅行にでかけた。
 博多空港から宮崎空港まで、熊本を経由しながらレンタカーでL字型に進む2日3日の旅行だった。距離にして3、400kmくらい。
 運転好きの友人が運転のほとんどを担当してくれたので、ぼくは助手席で調べ物をしたり音楽を流したりする係だった。常に次はどこに行くかを調べてるような慌てた旅行だったけど、行き先が決まればあとは会話と外の景色を見る時間にできた。

 そしてその助手席で、たくさんのいわゆる田舎を見た。
 それこそポツンと一軒家みたいな。Youはどうしてこの土地に!みたいな。
 地形モードのグーグルマップを見たら平地に集まる理由は一目瞭然だった。住みやすいからだ。山は住みにくい。
 なのにここには、山の近くであったり、さっき訪れたそう大きくない町からもこの大通りで1時間はかかるような場所に家がある。それは一軒だったり、パラパラと数軒だったりしたけど、この大通りを外れれば当然まだあったと思う。
 別に珍しい景色かと言われれば違う。何度も見たことのある風景だった。
 なのになぜか、妙に印象に残る景色だった。短時間に数を見たせいかもしれない。
 忘れてしまう想像の外側にも、ちゃんと生活はあるんだなということを思い知った。

 帰りの飛行機が発つ前に友人は疲れて寝てしまい、黙って窓の外を見ていた。
 滑走路まで移動する飛行機がゆっくりと旋回して一時停止する。その後けたたましいノイズが起こって、猛烈な圧がかかる。それらが消えた瞬間、機体は空を飛んでいた。
 さっきまでいた空港は全貌を表したかと思うと、すぐに小さくなった。
 そして光の道が見える。大通りに列をなす車の光だ。

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 あの光がないところにも、当然生活はあるんだね。
 光は眩しくて、簡単に暗がりをつくるけど。


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 思い出していたことがあった。
 2014年にツイッターで回ってきた「ツイートの位置情報を世界地図に落とした地図」のことだ。

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 光っているのは、日本、韓国、東南アジア、アメリカの東半分と西海岸、ブラジルの海側、ヨーロッパがまばらに。それだけ。
 他の国が海のように暗い。
 ツイッターは、知り合いだけと繋がるような他のツールとは違い、もっともオープンで世界的なツールだと思っていた。実際、たびたび炎上が起こるのは、その人がツイッターをオープンな場だと自覚していないせいだったとは思う。
 だけどこの地図の光で、とんでもないまやかしから冷めた気分だった。今までの数年は何だったのと、胸がドキドキする。
 世界的だと思ってた場所は、世界じゃなかった。
 世界的の世界は、世界じゃなかった。
 全然違った。
 ごくごくごくごく、ごく一部。


 ときどき誹謗中傷で溢れるツイッターも、ネットも、その外側には広大な「そこ以外」がある。
 可視化できない優しさは可視化された暴言にはなかなか勝てないし、誹謗中傷する側が悪いことだって確か。
 光に目と心を奪われて入った世界なのだろうけど、命も奪われそうになったら、そのすき間だらけの暴言シェルターから抜け出てほしいと思う。
 その世界は、世界じゃないから。
 生活必需品だと思ってるものの8割を捨てても、実際は別に生きていけるのだと思う。


 本当はごく一部の、世界的な世界の正体。光の正体。
 上の地図を見ればそのほとんどが、いわゆる都市と呼ばれる街だってわかる。
 じゃあ、都市ってなんだろう。
 たとえば、新しく出会った人がLINEを使っていなかったり、スマホさえ持ってなかったら、ぼくはその人をきっと面倒に思う。
 だけど、グーグルマップに表示された平地と、飛行機から見た光と、ツイッターの使用率を表した世界地図の本質は同じ。
 平地の外側に、光の外側に、使用の外側に。あの助手席で見たように、生活はちゃんとある。
 それを「人知れず」だとか「粛々と」だとか「細々と」なんて表現するのは高慢な態度だと思う。
 なのに繋がれるところだけを世界だと思ってしまう。基準だと勘違いしてしまう。
 光のとこだけを。世界的な世界だけを。
 だって、Youはどうしてこの土地にって、確かにぼくは思った。

 英語では発展途上国のことをdeveloping country(発展している国)と言い、先進国のことをdeveloped country(発展し終えた国)と言う。日本語も英語も、こういうおごった態度ならいつか足をすくわれるぞと思ってた。
 でも自分の感覚の中にこのセンスを、残念だけど見つけてしまう。

 新潟県にある新幹線の駅のすぐ近くに住むいとこたちに会うと、まず最初の話題が「健ちゃんあれ食べた?」「あのお店には行ったことある?」だ。
「ないよー。ずっと東京に住んでいる人はいちいち行かないもんだよ。東京タワーだって記憶がないくらい小さい頃にのぼったきりだもん」
 そう答えると、そうなんだーとつまんなそうなリアクションが返ってくる。
 だから「俺もここに来ると空が広くて心がスーッとするよ。毎回そう。だから、ないものねだりなんじゃないかな?」と付け足した。
 喜んでくれそうな言葉を選びはしたけど、間違いなく本心。
 そっかー、そういうもんだよね! その反応を期待してたのに、返ってきたのはまったく別の反応だった。
「えー。でもさー! ヒルナンデスでやってるのだって東京のお店ばっかりなんだよ? こないだアメトーークでやってたお店も7軒中6軒が東京だったんだから!」
 その反応に思わず言葉に詰まる。
 納得が波となって、俺をどこかへ流そうとしてくる。
 あー。そうだよねー。なんとか絞り出して、この程度の言葉しか出なかった。

 いとこたちは、新潟内で新しくどこに何ができるかも全部把握していて「今度あのお店が新潟初出店なんだよ!」と教えてくれる。
 ミーハー気質じゃないぼくは、正直ちょっと引いてしまっていたふしがある。
 だけどそれは、単に「気質」という単語で片付けられることじゃないのかもしれない。新幹線が通るような地方都市に住むいとこでさえ、東京のことが気になってしかたなくなる仕組み。
 ぼくはミーハーにならずにいられただけ。親切心のつもりで、ないものねだりじゃない? と言えてしまうこと。
 ある人には意識されず、ない人には強烈に意識されるもの。

 今現在、アメリカではblack lives matterというデモが起こっている。
 無抵抗の黒人男性が白人警官に首を押さえつけられて殺されたからだ。
 ビリー・アイリッシュのインスタグラム投稿によると、black lives matter(黒人の命が大事)という活動が起こると必ず、all lives matter(全員の命が大事だよね)という意見が出てくるらしい。ビリー・アイリッシュは、そのことにものすごく怒っていた。
 友達が腕をケガしたときに、all arms matter(全ての腕が大事だよね)と言って友達全員にバンドエイドが行き渡るのを待つの? と。火事が起こってるときに、all houses matter(全部の家が大事だよね)と言って、その一帯の全部の家に消防隊を呼ぶの? と。
 どの人の命も大事なんて知ってる。でも今、黒人が傷を負ってるときに、どうしてそういうことを言うんだとビリー・アイリッシュは書いていた。
 黒人は命の危険を感じて暮らしているのに、白人はそういう「常識的」に思えることを「気軽に」言えてしまう、特権。

 この重要な発言を、引用して、使っておいてなんだけど、自分のエッセイのためにこねくり回したくない。
 だから具体的に共通点がどうだとかには触れたくないけど、この特権 privilege という言葉は妙に頭に残った。 
 ある人には意識されず、ない人には強烈に意識されるもの。

 ーー忘れてしまう想像の外側にも、ちゃんと生活はあるんだなということを思い知った。

 まず、その想像自体正確なんだろうか。
 意識されないものを、正確に想像することなど可能なんだろうか。


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 宮崎空港に行くまでの残り時間、最後に有名とも知らずに寄ったのが青島神社だった。
 その神社は青島という陸続きの砂島の中心にあって、特徴的なのがアーチ状にかけられた絵馬の道だった。

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 平面にかけられている絵馬は、他人の頭の中を覗き見しているようでつい目を逸らしてしまう。けれどこうしてアーチ状に飾られていると、水族館の水槽や美術館の絵のようでもあって、どうしてか鑑賞物として、じっくり見てしまった。

 人の頭に触れる。人の考えに触れる。
 たくさんの絵馬がある。たくさんの人がいる。
 いろんな願いがあるんだと思った。
 でもある意味でだいたい同じ。
 みんな今よりちょっとしあわせになりたいだけ。


 自分の基準で見れば、ちっぽけに思える願いも、手の届かなそうな願いもある。
 でも基準は各々で違う。
 それを忘れないでいるのは難しそうだけど、挑戦しなくちゃいけない。
 来年は10億稼げますようにと書いた絵馬を誰も憎めないし、将来、本当の友達に会えますようにと書いた絵馬を、誰も、誰も笑えない。



〈参考資料〉
・グーグルマップ
(あなたのスマホとパソコンの中にも!)
・ツイートの位置情報を世界地図に落とし込んだ地図
(エッセイ中の画像は今回2020年に表示したものをスクリーンショットで記録したものですが、データが2014年のままかどうかはわかりません)
https://api.tiles.mapbox.com/v4/enf.c3a2de35/page.html?access_token=pk.eyJ1IjoiZW5mIiwiYSI6IkNJek92bnMifQ.xn2_Uj9RkYTGRuCGg4DXZQ#6/37.988/-222.803
https://twitter.com/zinofrancescatt/status/540454580518010880
・ビリー・アイリッシュさんのインスタグラム投稿
https://www.instagram.com/p/CAzwncfFm7G/
(日本語訳は三谷武司さんのこちらの記事を参考にしました)
https://sociotakemita.blogspot.com/2020/06/blacklivesmatter.html
・black lives matterについては、宮武さんのこちらの記事が大変参考になりました
https://note.com/offtopic/n/n77a5f9de2587
・小沢健二さんによると、レイシズム racism とは「人種差別」ではなく「人種主義」のことだそうです。それは差別じゃないから良いということではなく、「人種なんてないのにも関わらず人種があるような社会のシステム」のことを、人種という発想自体を現在のデモでは問われてるのだそうです。
https://twitter.com/iamOzawaKenji/status/1268096190928703490



以前書いたこのエッセイも、今回の内容とも共通するエッセイでした。
無職のときに銀行口座を作りに行ってしまいそわそわする話です。

ツイッターとインスタグラム(フォローよろしくおねがいします)https://twitter.com/yasuharakenta
https://www.instagram.com/yasuharakenta/


全情報と新情報とその日限りで消える日記


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