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<壺中日月長>津田友子インタビュー

白白庵企画「壺中日月長」
出展作家インタビュー第四弾は津田友子。
今回の出展作品は津田の本随である『楽』。

曰く「全てが違う」作品たち。

そこに込められた新たな挑戦を、作家の言葉と共にお楽しみください。

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私がいつも、コロナに関係なく大事にしている事があります。
それが「待つのも芸術」という考え方です。
ものづくりのため大切に感じている、しばらくじっとこもっている時間のことを尊重する考え方です。

もっとリズミカルに作りたい、ここを触りたい、思う事をすぐ形にしたい、急いでるから直したい、そんな気持ちは絶対どこかにありますが、それでもいつも心を落ち着けて「待つのが大切なんだ」「まてまて」「ここはぐっと我慢して置いておこう」、と自分に言い聞かせて待ちます。
手を加える一番良いタイミングというのが、美しさを生む最高の技術であり、つまり待つのは芸術だ、と。
いつもそれを心に思い聞かせながら作ります。
この状況下なら尚更ですね。

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「赤楽茶盌『万歳緑毛亀』」

ですのでコロナのせいで何かが変わったということは一切ありません。
自分の感情を自分の思うようにどう形にするかというのが私の仕事なので、世の中が大変だから自分も動揺して仕事が変わるということはないです。


でも、コロナとは違った軸で、この数ヶ月は自分自身の様々な感情が大きく揺れ動くいた期間だったので、それらが強く反映されたのが今回の窯だったと言えます。

例えばいつも、(どれがどちらと)明言はしていなかったんですが、お茶盌を作る時に必ず「性」を持たせます。
作る時に一盌一盌、男手の茶盌、女手の茶盌と性を与え思いを込めながら捻っています。
茶盌も盃もそうですが、今回は「男手」ばかりです。
そういう自分の強い感情が出現したと言えると思います。
土の配合もちょっと男らしさを表現できる素材を入れたり、今まで試したことのない実験的な要素も多く入れたので、従来の作品と雰囲気が違って見えると思います。

その結果、今回の窯で成功した作品は全体のほんの二割程度です。
もっとたくさん見せたかったのですが、様々な新しい試みを多く取り入れた結果ですので、仕方ないとも感じています。
そして何より今回の窯の「実験」としての成果はとても大きなものでした。

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楽茶盌「富士」


ー実験的な要素とは具体的にどういったことでしょう?

まず、土が違います。装飾に用いる原料が違う事。釉薬が違う事。そして楽には絶対欠かせない炭が違う事。
これだけの大きな四つの要素を、それぞれに同じ組み合わせの無い形で試しました。茶盌も盃も、全部異なる組み合わせです。

いろんな実験を並行して多数行った、という状態ですね。

ー津田さんは楽の土を、砂の状態からご自身で調合していると以前に伺いましたが、今回はどのような素材になったんでしょう?

まったく新しい土を使おうとする際、年月が経過した上での熟成がされていない分、可塑性のある良い状態の粘土になっていないので、削りの表情が思うように出なかったりします。
そのため、常に基本となる楽の土を何通りか作って貯蓄しています。
生地自身が色を発して、炭と混じりあったときに良い反応をして「景色」を作り出してくれるものを基礎として、今回はそこにあらたな物質を実験的に加えました。

ーつまり今までの素材にスパイスが加わっているようなイメージでしょうか?

そうです。そのパターンが全部違います。
土が変わると何が違うかと言えば、まずは炭との反応です。
そして私が一番大切にしたいのは削りの時に剥けてくる表情。それが断然に違ってきます。

長石などが入ると比重も変わって「重たく」なるんですけど、そこは重要視してなくて。
例えば実際の「重さ」は迫力に繋がりますが、私は「重いものをいかに軽く見せるか」ということを考えているので。
口に重さがあるのか、または底に重さがあるのか、あるいは腰に重さがあるのか。それによっても印象は変わりますので「重さ」による変化を狙っているわけではありません。
そういった量感の部分ではなく、土を剥いた時の土の起こり方、炭に反応する色の出方を重視して配合を考えました。

それらの違いは茶盌を全部裏向けにして並べてもらったら、きっと一目でわかります。
「もすもす」ってなってるのと、「むくーっ」て起きてるのと(笑)。
今は京都府の和束町のPR大使もさせて頂いている関係もあり、せっかくなら和束町の土も使ってみようと思い、今回はそれらも実験に加えました。
もちろん、その土によっても全て表情が異なります。

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「白楽茶盌『吟風一様松』」


ー炭の違いとは?


今までは一般的に良いと言われている備長炭とか、マレーシアの炭とかいろいろ使っていたんですが、もっと一瞬で熱を発して柔らかい景色をつけられるような炭はないだろうか、と探していたんです。
そして登り窯など多量のカロリーを必要とする場合にはどうしているんだろう?と思い至り、調べた結果今回の炭に辿り着きました。
軽くてキメも細かくて、一瞬で燃えるし、炎が鉄分に反応しやすい。
今回の景色の強さはこの炭の反応から生まれたものですね。


○赤楽茶盌

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『赤楽茶盌』

この「銘」をつけていない赤のものは、私が楽の先生(吉村楽入)のところでお世話になっていた頃、制作における実質的な事を心血注いで教えてくださった方から受け継いだ原料を、たくさん使っています。

それらの原料は、今はもう入手できないような貴重な原料ばかりで・・・。
枯渇したり生産中止になって販売されなくなった原料は、実はたくさんあります。科学的な調合でそれに近づけたものも流通していますが、色が全然違うんです。
代々の楽家の茶盌で「どうしてこんな色が出るんだろう?」と感じるものは、そのように(今では入手困難な)原料の違いだったりします。

そういった、もう手に入らないようなものを何種類も引き継がせて頂いて、今回の窯で全部試しています。
だから赤の色がまず違うんです。今までと全然違います。それを直にわかってもらいたいので、あえて銘をつけていません。

今回持ってきたものは全部、色が違います。
今までの原料とは一切異なるものを使用しています


○白楽茶盌「吟風一様松」

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「白楽茶盌『吟風一様松』」

今回は「松」のシリーズを多く作ろうとしたのですが、最終的に残ったのはこの一盌だけでした。
この作品には「吟風一様松」という銘をつけましたが、それは先にお話した「待つ」にかけての言葉であり、寒山の句の一部から取りました。

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寒山が山奥で生活していて、いつもそこにある景色を見ている。
その句の奥からは「じっと時を見据えて、静かに時を過ごすからこそ聴こえてくることもある」という意味を受け取ることができます。
この作品にはもっとそのイメージを持たせたいと思い、釉薬もぽってりとさせ、山奥で松に雪が降りかかっているような雰囲気を表現しています。

ータイトルは焼く前につけていらっしゃるんですね。

出来上がりをイメージして、焼く前にはついています。
焼成後に雰囲気がかなり変化してしまっていたら、銘を変えることもありますけど(笑)。



○楽茶盌「山驟雨」

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「楽茶盌『山驟雨』」


山も生きています。地盤が動いて土が隆起したり、噴火したり、吹雪にさらされることがあったり。四季のうつろいによって、柔らかかったり険しかったり、様々な表情を見せる。そういう風情を表現したくて、今回はいろいろな「山」シリーズも作りました。
そして「松」と同じく、生き残ったのはこの一盌だけです(苦笑)。

この茶盌では、噴火した後で局地的に強く激しい雨が集中して降っている様子をイメージし、釉薬はモコっとさせて「景色」が出るような工夫をしました。

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この作品には、釉薬としてはあまり使われない鉱物を、もしかしたら楽焼なら上手く色が出るかも、と考え試しました。
キラキラした黄色はその鉱物の発色です。
真っ白く降り積もった灰の上に雨が降っている。その色を表現してみたいと思い、釉薬の中に雨が流れ込んでいるような景色をつけたかったんです。

○楽茶盌「富士」

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楽茶盌「富士


「富士」は先の「山」シリーズとは別に、より象徴的な存在として作ったので、「山」とは別の流れのものと言えます。

昨年の白白庵個展で発表された「Gurdian」シリーズと近い印象を受けました。

「Gurdian」の存在感、それを作る思いというのは私の頭の中から離れません。強い武器でもあり、聖域を守ものとしての象徴。
そこに通じるものが「富士」にはあるのかもしれない。
そう指摘されるまで意識はしていませんでしたが、言われて自分の中でしっくりきますね。


○赤楽茶盌「万歳緑毛亀」

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「赤楽茶盌『万歳緑毛亀』」


長生きした亀の背中に苔が生え、それが蓑のように見える様子を表している言葉です。
長寿を祝う言葉であり、おめでたい気持ちを込めて銘をつけました。
亀の甲羅のようで、魂のようにも見える形のものが、所々に飛んでいる。
私たちの住む世界で年齢のように「重ねていくもの」、そして「精神的なもの」が浮遊し、輪廻しているということを表現しています。


ー最後に「今後の茶の湯に期待する事」はありますか?



作り手として「お茶*」に捉われてはいません。
(*この場合「茶道」として)

「道具」となるかどうかを判断するのは使い手の方々の決めることですし、あまり作り手の側から踏み込みすぎるのは差し出がましいのでは、と思います。

とにかく自分が作り手として納得のできる、良いものを作りたいと思ってます。そしてそれを皆さんに見て頂く、手に取って頂く。
そのことが大事なんです。


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