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田村一個展「おばけの神器」が始まる前に②

白白庵では2020年9月11日より田村一個展「おばけの神器」を開催します。
今回はオンライン+アポイントメント限定企画。
オンラインショップ内特設ページでの公開と連動し、完全予約制にて白白庵1階のエントランスギャラリーにて作品をご覧頂けます。(会期中の金・土・日・月に限定。予約等開催に関する詳細はこちらからご覧ください)
新型コロナ禍を鑑みての店舗営業休止後、初のオンライン個展と店舗営業の部分的再開となります。
開催に先立ち、その制作風景や本人の意図を予告編として複数回に分けて掲載いたします。
第二回は白白庵での発表は初となる、田村一が取り組む新シリーズ「on u」について。
どうぞその制作過程からじっくりお楽しみください。


○「on u」とは?

当初は制作時に発生する削り屑などの土をリサイクルして使う事、そして型モノであれば自分でなくても制作可能であることから、「田村一」とは別名義で発表することも想定していたそうです。

「on u」という名はイギリスのミュージシャンAdrian Sherwoodの主宰するレーベルと彼のサウンドシステムに由来します。
土の再生による新たな作品化を音楽におけるリミックス/ダブワイズのイメージに重ね、また逆から読むと「uno」(=「一」)、轆轤成型を主とする"田村一"のパラレルなアプローチとしてこのプロジェクトは始まりました。

しかし制作を重ねるにつれ、そしてこの新型コロナ禍の中で、粉う事なき"田村一"の作品として進化の一途を辿ります。

石膏型を泥漿(でいしょう)と呼ばれる泥状の粘土に押し当てることで形が作られるこの「on u」
その型作りから制作過程をご覧ください。

○型作り

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"on u oval"
CADとか使えたら展開図なんて一発なんだろーなー。
方形は直線なんで楽だけど、曲線はなーwwwちょっとづつハサミでカーブを切って 現場合わせ。
まぁまぁいんじゃないかな?
なんだか楕円じゃなくなったのもあるけれど、まぁサンマやらニシンやら長めの乗せてみてください。鯛とかカレイはダメだなーw(田村)

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ep to "on u「柊」"
盃、片口、お皿の原型の原型。匙も作ろうw
まさかのナイチンゲールのファンネルコンテナからの派生とはww
なんちゅーかほんちゅーか。
まぁ安定はどうにでもなる。
0.3ミリで作ったけど、やはり0.5じゃないと心許ない。

これらの原型を元に、石膏型を作ります。

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この石膏型を泥漿に押し付けて型取りします。
泥漿は"パンケーキの生地くらいの感じ"だそうです。

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○スリップ

そしてこの泥漿の水面に違う色で模様を描くことで、作品の表面に様々な図柄を表出させます。

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さてさてさて、「on u Q text」について。
この春以降、言葉にまつわる作品を作ってる友人の作品を見る機会が何度かあった。2人とも言葉選びや、技法は別だけど、なんとなく自分の気分のなかに付箋が貼り付けられたような気持ちになり、彼らへの返歌のような気分で作ったのが、このシリーズ。
言葉選びは字面や響きが好きなものを選ぶ、漢字、アルファベット、平仮名片仮名はどうとでも。また描いた文字は引っ掻く。もともとも字は下手だし、絵もまともに描けないような不器用な人間だけれど、いい線はどんなかは解るようになってきたので、いい線をひくよう心がける。(これがなかなか大変なのだけれど)これは引っ掻くのも含めて。
QはウルトラQから。あのオープニングのイメージ。またはシュワンクマイエルのクレイアニメ。
泥漿(でいしょう)の水面に描いたスリップは凹凸のある石膏型に押し付けられると、さらにここから立体的に変化した形になる。それのアクシデンタルな感じも、初期アメリカ現代美術的なのかとも思ったり、「スリップウェア」という技法自体、とてもクラシカルなんだけれど。
基本、on uはもっとスムーズな作品作りをしようと思っていたのに、どんどん作品化されている。「自分でなくとも作れる」がテーマなのにその目論見は見事に外れた。まぁそれも悪くない。
もちろん作品の複雑化に伴い、型も増殖していってる。
コロナ下でかなり発酵させてもらったのがon uだと思う。(田村)

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○「わかりやすさ」と「わかりにくさ」

「わかりやすさ」というものに本来的な懐疑を持ってるんだろーなー自分は。昔っから「言いたいことがわかりにくい」と言われてた。

益子時代に参加したとあるグループ展で「君の作ったものは本人が説明してくれないとお客さんに伝わらない。他の人のはわかりやすいんだけど、タムラくんのはなぁ、わかりにくくて、、でもそれがいいんだけど、俺じゃそこがいまいち伝えられなくてなぁ」と言われてたことがあった。
まぁそりゃあそもそも「益子」で「天草」の土の「磁器」を「秋田」の人間が作ってるんだから、はじめっから話はややこしい。
当時益子の土だけを使った陶芸家はどれだけいたろう?別に揶揄する気はまったくないけれど、「土もの」というだけで、その出自はまるっとわかりやすくなるらしい。でもこちらからするとそれは一見の「わかりやすさ」で、実際のところ自分の目につく「わかりにくさ」とあまり変わらない。自分の作品が「わかりにくい」というならそれを読み解く術が必要で、その役割は本人が担うのは当たり前。
書かれたものを字面通り読むということは、一見当たり前だけれど、そこに何が書かれているのかを理解するのはまた別のこと。大学〜大学院を経ていちばん訓練されたのはそこかもしれない。同じ文章を何度も読むことで、理解が変わることは何度も経験した。
一見「わかりやすい」ものに対して、そのわかりやすさは何を表してるのか。それを理解するのは割と訓練が必要。「わかりやすさ」と「論旨」は決して一致しない。
論旨を糊塗すために修辞だけわかりやすくしてるものがある。作品でも文章でも音楽でも。そういうのは割と好きではない。なのでわかりにくくてもいいんだけれどな。(田村)


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まぁそんなわけでもっと「わかりやすい」ものを作ろう思ったはずのon uですが、やはりというかなんというか、どんどん「わかりにくく」なってしまいました。
昨日の「なんと読む」は「再水化」です。『三体』という中国の素晴らしいSFに登場するこの言葉。続きが楽しみすぎます。(田村)

"音楽的な作品が作れたら正解"と田村は言います。
"自分でなくても作れる分かりやすいもの"を目指していたものの、石膏型を再生土に押し当てる度に可能性が拡張されていく様は、まさにダブワイズでリフレインされた音が新たな響きを獲得する過程そのものです。
同じ型から生まれるそれぞれに違った作品たち。
「おばけの神器」での発表をどうぞお楽しみに。

*写真及びコメントは田村一のFacebookより転載。

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〜見えざるものに捧げる器〜
Vessels to give to the concealed thing
白白庵 オンライン+アポイントメント限定企画
田村 一 個展
「 お 化 け の 神 器 」
PAKUPAKUAN presents
Ceramic artist TAMURA Hajime solo exhibition
“Sacred treasures of the ghost”

【オンライン】
日時:2020年9月11日(金)午前11時~22日(火)午後7時
 *会期中の木曜日は定休日のため受注のみ。
会場:白白庵オンラインショップ《PAKUPAKUAN.SHOP》内特設ページ

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【アポイントメント】
日程:2020年9月11日(金)~22日(火)のうち、金・土・日・月曜日 限定
 *火・水曜日はオンライン業務専従日、木曜日は定休日。
時間:午前11時~午後7時 の間で 一時間枠
 *一時間を上限とする来訪枠を設定し、各枠内で最大2名までの受付といたします。
 *3名様以上でのグループのご来訪はお断りします。
 *アポイントは訪問前日の営業時間内までの予約受付を必須とさせていただきます。(原則として電話受付)
 *マスク着用、入口でのアルコール消毒・検温必須。
感染症予防対策を万全に講じ、事前予約のある方のみ来場可能とさせていただきます。
会場:白白庵(1階エントランスギャラリー)
   〒106-0072 東京都港区南青山二丁目17-14
   TEL&FAX 03-3402-3021
   www.pakupakuan.jp | info@pakupakuan.jp

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【出展作家】 Artist
田村 一
陶芸家 / 秋田県在住
【略歴】
1973 秋田県生まれ
2000 早稲田大学大学院修了後、東京で作家活動を開始
2002 栃木県芳賀郡益子町に移り制作
2011 秋田県に戻り、現在に至る

【企画・ディレクション】
石橋 圭吾 (白白庵)
ISHIBASHI Keigo (PAKUPAKUAN)


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