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『おばけの役割』/田村一

田村一の器は、轆轤の回転から生み出される揺らぎとその息遣いが感じられるシルエットの美しさによって、日常の食卓を無二の楽しみへと一変させます。
美食家や料理人、酒蔵などのいわゆる玄人からの評価も高く、国内外の有名レストランで採用され、また地元秋田の酒蔵とのコラボレーションも盛んに行っています。
この言葉の羅列だけでは、ある意味で「当たり前」で「普通の良い器」のように響いてしまいます。
しかしシンプルな作りの器でさえ、そこに強烈な個性がはっきりと溢れ出しています。轆轤の回転力をそのまま閉じ込めたような弧の緊張感はまるで生き物のような躍動を感じさせます。あるいは生きた呼吸を感じさせる「動きの気配」と言い換えるべきでしょうか。この「気配」こそが彼の器に強烈なオリジナリティをもたらしています。
そしてこの器に漂う「気配」が使い手に料理の盛り付け方を指し示し、手や唇の触れ方さえも暗示してくれているようです。

多岐に渡る田村一の作品シリーズを、本人の言葉を交えながら紐解いていきましょう。



①天草陶石による「白」

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田村一『Distortion』


「天草陶石」はいわゆる有田焼などに使われる磁器原料です。
田村はこの素材が持つ張りや弾力といった特性と轆轤による回転をまるで音楽を演奏するかのように自在に操り、自身の身体感覚と一致させて形を生み出します。

“天草陶石が一番手馴染みが良く、素材のポテンシャルを感じます。可塑性や粘りの可能性を拡張したくて、やりきったら違う素材にしようと思っていたらもう20年使い続けています。”
”使いやすさや作りやすさよりも、その素材を使って出来ることを掘り下げたいんです。”


即興演奏のごとくその瞬間の空気を掴みながら轆轤で成型するため、同じ作りの物は二つとして生まれません。同じサイズの作品を挽くにも、「揃える」よりはそれぞれのあるべき姿へと「整える」という感覚の方が近いのでしょう。
この轆轤の回転から生まれる弧の緊張感が田村作品の礎となります。


②からみ

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田村一「からみ マグ」


田村が「からみ」と名付けたこのシリーズでは秋田の阿仁銅山で産出された「鉱滓」とよばれる精錬時に発生する残り土です。
ここには鉄やマンガンといった鉱物が不純物として多分に含まれています。
この「ノイズ」を作品に散りばめて焼成する事で鉱物の色が複雑に絡み合った色彩を生み出します。

”「その土地でモノを作る」に「その土地のモノを使う」必要はない”
”でもこういった素材を取り入れることで風土を感じられるのは悪くないと”

③透光陶土

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田村一「単」


近年信楽で化学的に開発されたこの陶土は焼成するとその名の通り光が透ける性質を持っています。
田村はこれをそのまま焼いたり、また①の天草陶石とブレンドして質感や色彩をコントロールします。
秋田は陶磁器の産地ではなく、陶芸に向いた土はあまり産出されません。
先の「からみ」も含め産地から遠く離れた、田村が言うところの「辺境地」秋田で素材同士を出会わせる事。

”それこそ「ロートレアモン伯爵の『ミシンと蝙蝠傘との解剖台の上での偶然の出会い』という言葉ををシュルレアリスムと解釈したブルトン」のような。そういった価値は新しい表現になるのではと思うんです。”


④夜化

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田村一「碗 夜化」


透光陶土が煤を吸着しやすい、という特性をメーカーから注意されていた田村は、それを逆に利用して籾殻と共に焼成する事でこの穏やかな黒を生み出します。

”夜化はでは新政酒造の鵜養産酒米の籾殻を使っています。これは自分が種まきをして田植えの手伝いもして、種籾取りもしたのです。”

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田村一「コップ」

通常、焼物の黒色は釉薬に含まれる金属分によって生じるためメタリックな色になりますが、「夜化」は煤の吸着による黒のため、柔らかなグラデーションで作品のシルエットを浮かび上がらせます。
地元・秋田の新政酒造との協力で得た地産の素材による風土がここにも焼き付けられています。


⑤単

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田村一「単」


轆轤で成形した形をカットして貼り合わせるこのシリーズは「蛍手」と呼ばれる技法にインスパイアされ、磁器らしい素材感を生かしつつ、重ね合わせた隙間から光が溢れるイメージを当初は目指していたそうです。直線的にカットするパターンからスタートし、今では素材の限界を突破しようとするかのごとく、複雑なパターンで貼り合わされています。


”これを作るときはタイミングが重要で。天気とタイミングで土の柔らかさが全然違って、否が応でも土の変化に敏感になってしまう。自分と土と環境の関係がうまくいかないとできないんです”


今や蕾から花開いたようなフォルムまで多彩なバリエーションが存在します。
そして貼り合わせる際にも、轆轤の回転によって外に広がろうとする力やその緊張感を残すことを意識しているそうです。

⑥唇器

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田村一「唇器」

一旦轆轤で成型した形を限界まで極端に歪ませた、田村一の特異性とテクニックが最も端的に詰め込まれたこのシリーズ。その名の通り唇をイメージした流麗なフォルムは、花生けやお酒の片口としても愛される作品です。

”最初は片口の形に変化をつけるところからスタートしたんですけど、土が「まだいける!」って言うからどんどん激しくなってしまい。”

”「使う」という事は目指して作ってるわけではないんですけど、お客さんによって全然違う使い方を発見してくれて。そういう見立てによって可能性が拡がっていく感じが気持ち良いんです。”

⑦ゴースト

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田村一「ghost」


天草陶石は可塑性が強く焼成すると元の形に戻ろうとします。
いくら形を歪ませても窯の中で違う形に戻ってしまうことが大変なストレスだったそうです。

”出来る事なら窯の中で手を使って押さえておきたいと思ったから手をつけてみたら。どんどんイメージが拡がっていって。”


自分の手で形作ったものが見えない力で開かれようとしたり閉じたりする事に、見えざる何者かの気配を捉え様々な作品に添えられる「手」。

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田村一「おばけの役割」

”盃につければ乾杯しているような感じになるし、作品に人格が出てくる。うつわとオブジェの中間みたいな感じもするし、関節をくっきりさせれば印象も変わるし。もっと進化していくはず。”


添えられた手の姿によって器そのものが持つ躍動感や息遣いもより強く印象づけられます。
見えざる何者かの気配を具現化したような手の存在は田村作品がまとう気配そのものの可能性でもあります。


田村一は自身が生まれ育ちアトリエを構える秋田を、産地から見た「辺境地」であると言います。
彼の作品の自由さ、その根本にあるのは間違いなく自身のノマドな気質による物でしょう。そこに辺境地故のモノ作りに対する視線があり、そして秋田の土地に漂う気配、空気、雪景色をその作品に映し出します。それは田村一という作家を通じて見た秋田の土地そのものが持つ「風土」であると同時に産地を中心としたモノ作りでは生まれ得なかった新たな価値への希望でもあります。
ここでは紹介しきれない作品シリーズも、そして今後生み出される新作シリーズも、そこに纏われる「風土」が作品を手にする私たちに不思議な気配を感じさせ、楽しませてくれることでしょう。


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田村 一
TAMURA Hajime

陶芸家 / 秋田県在住

1973 秋田県生まれ
2000 早稲田大学大学院修了後、東京で作家活動を開始
2002 栃木県芳賀郡益子町に移り制作
2011 秋田県に戻り、現在に至る

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