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《shiki》田中英一『月夜に骨踊る』

白白庵オンライン+アポイントメント限定企画
《shiki》 田中英一展『月夜に骨踊る』
白白庵では初個展となります。
その開催に先駆けてインタビュー記事を公開します。
アトリエでの制作風景と合わせてお楽しみください。

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職住一体となったアトリエ”母屋”
(埼玉県所沢市)

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母屋に隣接するワークスペース兼ショウルーム”むすひ”

◯木を料理して”うつわ”を作る

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田中英一氏 
”むすひ”内カウンターキッチンにて


ーここに並ぶ家具類も全て手掛けられているんですね。


もちろんです。
こうして建物から家具、食器といった道具まで全て自分で作りますので、
”何を”作っている人間なのか分かりにくいのかもしれません。
肩書きについてよく質問を受けます。
そんな時にはいつも「うつわ」を作っています、とお答えしています。
人が暮らすうつわ、身体を受け止めるうつわ、食材を盛り付けるうつわ、手掛けるものは全て木を素材にした「うつわ」です。

名刺には「木を料理する人」と書いています。
かつてとある方に仰って頂いたのですが、正鵠を射ていましたのでよく使わせていただいています。

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”料理”するからには当然、木材も全てコード管理して、どれがどの産地で何年物か分かる様にしています。手掛けた作品もどの素材を使用したのか全てトレースできます。

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◯木工の道へ

ー木工の世界に足を踏み入れるまで、どんな経緯があったのでしょうか?

父が起業家で、僕が生まれた頃に福岡へ移り、そこで育ちました。

僕自身も興味があったから良いんですけれど、父親が食にうるさかったんです。子どもの頃はよく朝三時に起こされて市場に連れて行かれました。
父が買い物をしている間、一人で待たされながら周りの人に美味しいものを貰ったりしているうちにどんどん舌が肥えて育ちました。
食への思いはまずそこがルーツになっています。

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家業を継ぐつもりでしたので、大学では経営学部に進み、卒業後はゼネコンに就職して財務経理の仕事に携わっていました。
ところが、家の仕事を継ぐ必要がなくなった。
このまま経理の道で資格を取ってガシガシ進んでいくか、それとも何か手を動かす仕事をするかで悩みました。
昔から絵は好きで描き続けて、学生の頃は個展も開催していましたし、何より自分の手でものを作ることに強く心惹かれたんです。

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そしてゼネコンを退職、職業訓練校に通いながら木工の勉強を始めました。
最初の半年間は朝から晩まで刃物研ぎを延々とやらされたのですが、今思えば身体を固めるための大事な期間でした。
訓練校での実習が始まる頃に、自主的に実地訓練として近くの木工現場に通い詰めて技術的な事も一気に学ばせて貰いました。


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その後、とある家具屋さんの仕事を半年間お手伝いしつつ、家具の販売について学んで独立、注文家具工房laboratoryを設立しました。

最初の工房は入間です。ここ(埼玉県所沢市)の近くですね。
この辺りは東京という市場が近くてかつ土地も広く大きな音も出せるので、昔から木工が盛んなんです。

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最初の十年は注文家具を中心に制作していました。
もちろん今でも継続しています。


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その時々に求めらて様々な形を作ってきましたが、その中で毛色の違うものが少しづつ生まれ、よりパーソナルなものになってきたんです。
作っている人間からすれば等しく自分の手から生まれているものですが、客観的にお伝えする上で分かりやすくするためにshikiとkuuというブランドを立ち上げました。
子ども向けの家具、カトラリーなど幅広い方に寄り添う作品群が《kuu》。
一点ものとして、美意識を凝縮したパーソナルなうつわが《shiki》です。

◯《shiki》について

ー《shiki》と家具制作は大きく異なるスタンスなんですね。

注文家具の場合、相手からどれだけの情報を引き出すかが大事で、自分のエッセンスはひとしずくだけです。
逆に《shiki》では要望からではなく、自分自身のイメージと感覚主導で制作します。
《shiki》では”艶っぽさ””色っぽさ”をどう具現化するか、常に試行錯誤しています。
際どいところを攻めて、作る自分自身の感覚を研ぎ澄ませながら、使い手の五感も鋭敏にするようなものづくりをしたいと考えています。


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僕自身は自分の作品を”アート”とは思っていないんです。
”アートか否か”はあくまでも客観的判断ですし、まずは使って頂くことを前提に作っています。


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うつわを作る時には常に主役を考えています。
家の主役は暮らす人。
椅子の主役は座る人。
食器の主役は盛り付けられる食材です。
うつわが主役になってはいけないんですけれども、主役の感性を刺激してくれるうつわでないと意味がありません。


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全てのうつわに「この食材を盛り付ける」という明確なイメージを持って制作します。更にはそこに連なる使い手の所作と素材との関係も観ています。

その明確な答えをそのままお伝えすることも時にはありますが、必ずしもお話をするわけではありません。
使い手のイメージを狭めたくはないですし、拡がる可能性も残したい。
Instagramなどではその切り口を示すようにしています。
言葉ではちょっと野暮になりがちですのであまり言いませんが、お花を盛り付けても何をしても良い、というヒントになれば良いと思っています。

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ー意図はあるけれども、使い手の自由に任せるという事ですね。

いつも「みんなもっと楽しんだら良いのに」と思います。
その言葉は僕自身もよく言われるのであまり簡単に口にしたくはないのですけれども(笑)。

うまくいかない、これをどうしようとかそういった生みの苦しみは確かにあるんですけれども、それは創作そのものの本質ですから。大きな意味で言えば、創作活動は苦しさも含め楽しい行為です。

ー『使う』という事も一種の創作行為であり、そこに向き合って悩みつつ、楽しんで使って頂きたい、という思いを感じます。

まさに、そうした苦しみを腑に落としながら暮らすことは大切なことなので「簡単に楽しめばいいじゃないか」と器選びに対しても言えないでいます。
使う人にとっても悩みとか苦しみがあって、それを通過した先にある深い楽しみに辿りついて欲しい、という思いもあります。


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○暇つぶしの時間

今は一人で制作をしています。
kuuブランドの制作で自分が手を動かす割合は少ないですし、注文家具でも同じです。外注で形にできる割合が大きいんです。

でもshikiは外に出しようがないんです。本当にパーソナルなものづくりです。

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漆器はアジア近辺では一番生活に馴染み深い道具だったのに、近年の日本では生活から遠く離れてしまいました。
使ってみたらその良さは本当に分かるんです。
いろいろ使ってみないと何が良くて何が悪いかだなんて分からないですよね。手間と時間をかけて理解を深めることが大切です。

”人生は暇つぶし”とよく言われますが、その暇つぶしが大事なんです。
もちろん食べていくことも大変で、それに追われることも現実的にあります。それでもちゃんと暇つぶしの部分を作って、しっかり向き合って糧にしていかないといけない。時に苦しみながら楽しんで暇つぶしをしないと、仕事もうまくいかなくなるんじゃないか、人生を切り売りするだけであっという間に過ぎてしまうのでは、と思います。
暇つぶしの時間を作って、そこにしっかりと向き合うことで見えてくる違う世界もあるはずです。


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白白庵 オンライン+アポイントメント限定企画
shiki 田 中 英 一 展
『月 夜 に 骨 踊 る』


【オンライン】
 日時:2020年11月28日(土)午前11時~12月7日(月)午後7時
 会場:白白庵オンラインショップ 《 PAKUPAKUAN.SHOP 》 内特設ページ

【アポイントメント】
 日程:2020年11月28日(土)〜12月7日(月)のうち、金・土・日・月曜日 限定
 時間:午前11時~午後7時 の間で 一時間枠
 *一時間を上限とする来訪枠を設定し、各枠内で最大2名までの受付といたします。
 *3名様以上でのグループのご来訪はお断りします。
 *アポイントは訪問前日の営業時間内迄の予約受付を必須とさせて頂きます。(メール,電話,各種SNSからのメッセージにて)
 *マスク着用、入口でのアルコール消毒・検温必須。
  感染症予防対策を万全に講じ、事前予約のある方のみ来場可能とさせていただきます。
 会場:白白庵(1階エントランスギャラリー)

【 企画・ディレクション 】 
石橋 圭吾 (白白庵 PAKUPAKUAN)

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