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感情の消えた夜 境界線 Ⅲ

夏至が通過した金曜。

半袖でも街を歩ける様になった頃、私達はたまに店を閉めた後に三人で映画を観るようになっていた。

マスターの気分でそろそろ怪談話の様なものをみてもいいかもしれないなと、あまり有名ではなさそうなホラー映画とかを流しながらその日も全く関係のない会話を投げ合あう。

彼がふと「そういやルールとかマナーとか法律ってあるだろ。これを破るってのは確かに宜しくない事かもしれない。けどよ、それ自体は守る為に存在するんじゃなくてさ、それらはお前とか君を守る為にあるんだし俺らが生きやすい様に作って行くものだと思うんだよね。なのになんか窮屈に感じる事多くないか。」と呟いた。
私は別に決まりは決まりだし位にしか思ってなかったから「窮屈かなあ、考えた事ないからよくわからないや。」としか言えなかった。
彼は「なんて言えばいいかな、別に不満とかってわけじゃなくて、本来の目的が必要以上に見えにくくなってるなあって思うんだよね。例えば日本法規とかさ日本語なのにめちゃくちゃ読みにくいじゃん。」と返してきた。
よくわからないし「ふーん。」と少し首を傾けたら、マスターは「そりゃな、お前がアウトローな生き方してっからそう思うだけで別に一般的な生き方してりゃさほど気になりゃしないと思うぜ。」と放ち続けて「もしくはお前の知能指数が残念なだけなんじゃね。俺は割と六法全書とか暇な時眺めんの好きだぜ。」と右の口角を少し上げて笑った。少し小馬鹿にする時マスターは右の口角を上げる癖がある。
彼は「どうせ俺はお前と違って大学も行ってないし阿呆ですよ。お前より歌上手いしギター弾けるけどな。」と後ろ髪をかき上げながら笑い返す。

続けて「いや単純にね、人間はそのうち自分達で作った道具に支配されちゃうんじゃねえかって思っただけさ。」と彼が言うとマスターは「それはあってもおかしくないかもな。大概、誰でも何かに依存してるしその殆どが人工物だからな。」と返し「電車なくなるし俺はこのまま店で寝るから二人ともそろそろ帰んなよ。」と言った。マスターはと時折飲食店に泊まるのだ。
他愛のない話を交わしてるうちに結構いい時間になってしまったのである。

「おっけ、んじゃまたね。」と彼は扉を開け、私も会計と挨拶を済まし店を出た。

「そういや一緒に店出んの初めてだね。明日休みだよね、まだ電車あるかもだけど俺の家歩いてすぐだからちと遊び来なよ。たまにはいいんじゃない。」と彼が言う。少しどきっとしたけれど、明日何があるわけでもないし私はうなづき流される。

静まり返った街、生ぬるい風に呑まれる夜。

感情の消えた夜 - 境界線 Ⅲ - アルバム下書スケッチ 

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