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「気がきかない」は呪いである

「気がきかない」
「空気が読めない」
「センスがない」

こんな言葉に悩まされた人はいないだろうか。
「お前は気がきかないな」と言われ、苦しんでいる人はいないだろうか。

少なくとも私はずっと悩まされてきた。
部活動、アルバイト、趣味のコミュニティ、もちろん社会人になってからも。

想像してみて欲しい。

みんなが忙しく動き回っている。あれだこれだと作業をしている。
だというのに、自分は何をしていいかわからない。
指示は曖昧だし、状況は目まぐるしく変わるしで立ち尽くすしか出来ない。そんな状況だ。

「さっさとやれよ」と怒鳴り声が響く。
思わず体をすくめてしまう。どうすればいいのか慌てて考える。
でも、何を「さっさとやれ」ばいいか、やっぱりわからないままだ。
仕方なく適当に手を動かすが、もちろん的外れで邪魔になるだけ。
結局、「ほんと気がきかないな」と呆れたように言われてしまう。

そんな経験を、何度もしてきた。

辛かったし、悩んだし、「どうすればいいんだろう」と悶々としたものだ。
ひどい自己嫌悪に陥ったのも一度や二度ではない。

だが、ある時ふと気付いたのだ。

「気がきかない」という言葉は、呪いなのではないかと。

例えばの話だ。
ちょっと怖い先輩がオフィスの整理をしているとしよう。
先輩はどんどん整理を進めてゆく。いらないものをゴミにまとめ、棚を整理し、机や椅子の配置を変えてゆく。とにかくスピーディーだ。

一方のあなたはいつも通り、何をどうしていいかわからずもたついてしまう。
とりあえずゴミが目に付いたので、片付けようと持ち上げたその時

「なんでそんなことしてるんだ。気がきかないな」

きつい口調でそう言われたとしよう。

あなたはその瞬間、萎縮してしまうだろう。
すいませんすいませんとなってしまうだろう。
自己嫌悪に襲われ、フリーズしてしまうかもしれない。

しかし考えてみて欲しい。
先輩の言葉には、正当性がない。
「なんでそんなことしてるんだ」というからには、作業のイメージがあるはず。
だとしたら先輩のすべきは、「気がきかない」という曖昧な言葉を投げつけるのではなく、段取りの説明と明確な指示のはずだ。

言い換えれば。
「気がきかない」というのは「お前は自分の想定した通りに動かない存在だ」という意味なのだ。
そしてこれは、呪いに他ならない。

ーー呪いとは、言葉によって相手を縛ることだ。
「不幸がふりかかる」「よくないことが起きる」「お前は幸せになれない」。
そんな、ネガティブな断言で相手の思考と行動をコントロールすることだ。

「気がきかない」という主観的かつあいまいな表現で誰かを批判し、萎縮させるのは、呪い以外の何物でもない。

では、「気がきかない」=呪いだとしたら、どうすればいいのか?

簡単だ。
「気がきかない」をまともに受け取らなければいい。

具体的には、「お前はこちらの想定通りに行動しないからイライラする」という主張でしかないと理解するのだ。

そう、理解するだけでいい。
共感する必要も、受け入れる必要もない。

人間は理解不可能なものを恐怖する。
逆に言えば、理解さえすれば恐怖は消えるのだ。
種の割れたお化け屋敷は、まったく怖くないように。

つまり、あなたがすべきことは単純だ。
凹まなくていい。萎縮しなくていい。
ただ、「ああ、この人は苛立っているんだな」と理解しよう。

もちろん、怒鳴り声に萎縮してしまうことはあるだろう。吐き捨てるような言葉に傷つくこともあるだろう。
だが、それは生理的な反応にすぎない。
「大声がこわいんだな」「強いこと言われて悲しいんだな」と自覚してやり過ごせばいい。

そこから先は状況次第だ。
きちんとした指示を求めてもいい。
今、何が行われているかを見定めてもいい。
とにかく、萎縮し恐怖しないことだ。

「気がきかない」という呪いを恐れるのをやめよう。
自分自身を責めるのもやめよう。

それだけで、あなたは少し生きやすくなると、そう思う。

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