コロナ騒動下の株価分析②【2020年3月~7月】

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図1 2019/12/31~2020/7/31までのNYダウと日経平均株価、ナスダック指数の値動き
2019年末を1として指数化

期間中の株価を概観してみると次のような特徴がある。
①3/11のWHOのパンデミック宣言を合図に
世界の株価は急落した。ニューヨーク市場では一日で平均株価が2,000ドル以上も下げる日があったし、東京でも歴史に残る大幅下落があった。その後、日本市場は3/19(木)、(翌金曜日は春分の日で休日)米国市場は3/23(月)をボトムにして、戻りに転じ、7月下旬までに下げ幅の3/4強を取り戻した。(図-1)
②米国市場で特に顕著だが、戻り相場をリードしているのはGAFAM*注1 と呼ばれる新興トップ企業、およびその周辺企業である。これらの株価は史上最高値を更新している。ナスダック指数も6月には史上最高値となっている。つまり株価の上昇は全面的ではなく、市場や銘柄毎に二極化している。
③個別の株価を見ると、業績を反映していると言える。孫正義さんが1兆4,000億円も投資で損をしたと発表した時、ソフトバンクグループの株価は急落し、郵政3社が減収を、そして2020年度の中間配当がないかもしれないとうかがわせる発表をして以来、3社の株価は下げ続け、公開価格の半値に近づいた。その後、4.5兆円の資産売却と2兆円(発表時点の時価総額6兆円の1/3)の自社株買いの発表を行ったソフトンバンクグループの株価は急騰したが、金融株、航空株や鉄道各社、百貨店等の株価は低迷したままである。
他方で、通信系、コンピュータ関連、一部の製薬会社などの株価は堅調だ。つまり、コロナ禍で逆に儲かりそうなところに投資家は注目している。『週刊ダイヤモンド』はコロナ禍の中も「上昇期待のある会社」、「あまり下がらないだろう銘柄」のリストを掲げている(2020年6月6日号)。

 日本経済新聞社が大川智宏さんの分析を紹介している。「主要1,300社について1年先の一株利益の市場予測平均を見ると上位2割と下位2割の成長率を比較すると前年比60%の差になる。これが株価に反映して、両者の株価格差はますます開きチャートの形状がKの字になる」(2020/8/6 日経新聞18面)
*注1 GAFAM…グーグル、アップル、フェィスブック、アマゾン、マイクロソフトの総称。時価総額トップのアップルは1兆84百万$で邦貨換算193兆円。日本市場トップのトヨタ自動車は20兆円(2020/7/31現在)

 次に株価全体の動きについてVIX指数を用いて見てみよう。VIX指数は、ボラティリティ・インデックスの略で、ボラティリティとは「変動」を意味する。米シカゴ取引所が算出する指標で、米国S&P500指数の30日予想変動幅を指数化したものだ。別名「恐怖指数」とも呼ばれるが、金融派生商品取引(指数のコールオプションやプットオプション)の取引参加者が売買する価格には将来の変動予想が反映されており、これを用いて算出している。VIX指数はFRBの米銀に対するストレステスト(経済や市場環境を観察しながら、銀行の配当や自社株買いを承認)にも採用されているが、今後30日間のS&P 500指数の予想変動範囲を表現しており、予想変動範囲(%) = VIX / √12と表される。
VIXが30ならば30日間の予想変動範囲は8.66%、50ならば14.43%、80ならば23.09%となる。
 このVIX指数が3/18に85.47を付けた。これは、リーマンショックの2008/11/20に付けた80.86を超える水準である。その後6/5には23.5と落ち着いたが6/15には44.4、7/31現在は24.46であり、2019年の年間変動11.54~24.45の上方に留まっている。つまり市場参加者が今後もそれなりの株価変動を予見している緊張状態が続いているということだ。(図-2)
図-2を見ると2020年の3~4月の大変動前後で明らかな段差が形成されている事に気がつく。

さて、VIX指数の変動と同時進行で二つの目に見える現象が現れた。一つ目はV字変動である。
つまり短期間のうちに急落し急上昇(逆もある、つまり逆V字)。今回のV字には形成期間が短い
という特徴がある。リーマンショックの時もV字が形成されたがその期間が比較的長い為V字が開いている。これに対して今回形成されたV字は期間が短いだけに形状が鋭くなっている。
 もう一つの現象は一日の価格変動が大きくなった事である。既に述べたように一日の値幅が2,000$超えの上下を繰り返すという現象はかつて経験がない。
VIX指数が85.47を付けた3/18前後のNYダウの値動きは表-2のとおり。
前日比の騰落幅の大きさもさることながら一日の値幅(当日高値と安値の差)に驚かされる。
一日の取引期間中に5%~10%近いジエットコースターのような値動きが繰り返されていたのである。前述のとおり今後30日の値動き予想が26.09%ならばVIXは80。VIX指数が85.47となるのは当然である。

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図2 VIX指数 2019/1/2~2020/7/31

 一日の値幅が1,904$と最も大きかった3/13は始値21,973$(前日比+733$)直後に前日終値付近の21,285$まで急落(始値比較▼688$)その後切り返し23,189$(安値比較+1,904$)に上昇し、23,185$で一日の取引を終えている。
 この激しい値動きに果たして人間が耐えられるのだろうか?
恐らく、各種ニュースのヘッドラインを認識し自動的に売買を執行するシステムや、値動きに応じて瞬時に機械的な売買を行うシステムが繰り返し作動したのであろう。
 鋭く深いV字の他の例は株式マーケットにだけではなく、各種経済指標にも表れている。経済指標に表れているV字の他の例は本稿P〇-〇に後掲している。
 問題はこの現象の背後にあるものだが、それは後で述べる事にして以下では観察期間を拡張してその間の株価変動を説明する要因を検討して行こう。

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表2 NYダウの値動きとVIX

お読みいただき誠にありがとうございます。