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養う女、養われる男日記(6)

養う女

2022/11/20
養われているのはどちらか。


 ポッドキャストをとるためにマイクをsurfaceかiPadにつなごうとしたのだけど、アダプターが無いのでTと買いにでた。アダプターはコンビニやドラッグストアにはどこも置いていなくて、結局その日は録音するのを諦めた。
 道中、Tは店に求人のポスターが貼ってあるのを見るたびに、「ここでバイトしようかな」と言っていた。半ば冗談にしても、Tは実際バイトをよくしている。現状で2つ掛け持ちしているし、もう1つ応募してもいる。困っている人を助けるなんでも屋さんみたいなこともしている。最初に会った時に「働くのが好き」と言っていたのは本当なんだな、と思う。働いて誰かの役に立てたら嬉しいという感覚がちゃんとある。
 SNSで「養う」「養われたい」なんてキーワードを入れて検索してみると、「働きたくない」と「養われたい」はほぼ一緒につぶやかれている。お金が欲しいけど、働きたくない。だから養われたい。それが普通だと思う。
 Tのような養われ手は多分珍しい。Tの珍しさをほかにもあげるとしたら、並外れた言語化能力と戦略家としての抜群の素質があると思う。
 今年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で、源義経が、次から次へと軍略が湧いてきて皆の度肝を抜き、とんでもない作戦も抜群の能力でやってのけてしまう、という新しい描かれ方をしていたけれど、Tはまさにあんな感じ。
 ルール無用で正しいことを言う。それは時に常識人の反感を買うけれど、常に本質をついている。
一例をあげよう。

うんこにネックレスかけるな

 Tが私の小説について言った言葉である。
 話そのものが面白くもないのに、内容そのものよりも文章を飾ることにとらわれていた私への言葉だ。
 こんなわかりやすい例えがあるだろうか。


 他にもある。私は養う身でありながら養われるTに転職の相談をしているのだけれど、志望動機の語り方についてTが言った言葉。

みんな面接で、それっぽい薄い言葉を並べるけれど、きちんと内容あることを簡潔に伝えるべき、という内容である。

ここまで的確なたとえがガツガツ出てくるのも珍しいと思う。

これも初めて会った時にTが、
「近所の野良猫にもわかる絵を描きたい」
と言っていたのだけれど、
徹底して誰にでも伝わる表現を用いようとするのだと思う。

 私はいわゆる大学東西の雄を学部・院と卒業した人間で、そんな私にとってTの表現は衝撃的だった。小難しく色んな知識を頭に入れてきたつもりでいたけれど、本質を述べるのに、わざわざ難しい言葉を並べる必要なんてないのだ。
「学力があるだけのバカ」になり下がっていた私に、「実学が少ないんだね」と適切なコメントをくれたTは、「出会ってよかったね俺に笑 実学オンリーだから」と言った。
 その通りだと思う。
 私は学生時代にただ知識として学ぶだけだった内容を、ようやく有機的に繋げて生活に役立てていく方法を今学んでいるのだと思う。
 この人を養っていると、もはや、どちらが養われているのだかわからない。


養われる男

2022/11/17


今朝、彼女の転職の相談に乗った。
彼女の職場の話を深く聞いてみると、どうやら彼女の職場の経営は上手くは行ってないらしい。
そして、全く就活経験のない僕が一丁前にアドバイスをしていた。
こんなことばかりだ。
彼女は時々僕のことを「師匠」と呼び、小説家志望でもない僕に執筆活動の助言を求めてくる。
笑ってしまうようなことだが、毎回彼女は納得した様子で治っている。
「もしお金が払われなくなったとしても今しているような事は続くんだよ。」と説明しても「じゃ、分かりました。」と言って辞めようとする気配もない。
僕は僕で養い手に新しく始める警備のアルバイトに必要なワイシャツや真っ黒のスニーカーを買って貰ったりしている。
それも十分おかしな話だが、こんな感じで毎日当たり前のようにユニークな事が起きていく。
僕のアドバイスが社会的に本当に役に立つようなことなのかは定かではないが、彼女の生活、養うリスクよりも役に立てば良いなと思う。
(そんなことはあるのか。)
恐らく、日記の文章だけではどうしたって彼女が洗脳されている不思議な女性にしか見えないので、ぜひ、僕たち二人で録音したPodcastを聞いてみて欲しい。
二人とも不思議ではあるだろうが、不審者ではないことだけでも確認していただけると幸いです。



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