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連載百合小説《とうこねくと!》東子さまにしか言えない過去(3)

 みなさん、こんにちは。北郷恵理子です。
 前回のお話はこちらからどうぞ。


「私もね、似たような経験があるの」
 東子さまが、ゆっくりと口を開きます。
「『女の人が好き』って言った瞬間、周囲の空気が変わったわ。そして、態度もね。だから私はその人付き合いとは縁を切った。私にとって、それは必要のない人間関係だもの」
 そこまで話すと、東子さまはより一層私を強く抱きしめます。
「だけど、あなたは違った。まとってる空気が私と同じだと、会ってすぐ直感でわかったわ。こんな子、初めてよ」
「で、でも、もし私がそういう人間じゃなかったら……」
「それならそうとわかっていたはずよ。私ならね」
 東子さまは、ふふっと微笑みます。
 
 東子さま……あなたは一体、何者なんですか?
 初めて出会った人なのに、まるで遠い昔に出会っていたかのような温かさ。
 そして、私の心を縛り付けていたトラウマをゆっくり解いていくように、私を優しく包み込んでくれる優しさ。
 
 私の涙は、苦しさと悔しさの涙から、温かく優しい涙に変わっていました。私を抱きしめる東子さまの両手にそっと自分の両手を添え、その手を握ります。
 すべすべで華奢な、温かい手。私が求めていたぬくもりは、東子さまがすべて持っていたのでしょうか。
「ちゃんと話してくれて嬉しいわ。これからもずっと一緒に生きていく仲じゃない」
 背後から、自分の頬と私の頬をくっつける東子さま。ふわっと柔らかい頬。さっきよりも濃く香ってくるジャスミンの香り。
「私の前では、何も隠さなくていいの。何かに怯える必要もない。あなたが不安に打ちのめされそうになっても、私がそばにいるわ。決して見失わないで」
「東子さま……」
 
「ずっと、一緒にいましょ」
 
 東子さまは私の髪を優しく撫で、キスをくださりました。柔らかく、甘い、ジャスミンの香りのキスが口の中にじんわりと広がります。その香りに、私はまた一筋の涙を流すのでした。
 
「東子さま……」
「ん?」
「これからも……よろしくお願いします」
「……ええ、よろしくね」
 私たちはおでことおでこをくっつけ合い、くすぐったそうに微笑みました。
 
 傷ついた過去も、忌々しいトラウマも、東子さまの前に崩れ去ったように感じました。心の重りが取れて、胸が軽くなったような気がします。
 この温かさをくださった東子さまに、私はずっとついていきます。
 東子さまと共に、新しい人生を歩んでいこうと誓ったのです。

 ***

 次話に続く

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