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日本酒は白ワインの代わりになる、という言説について。

「白ワインみたいな日本酒」

こんな表現をよく見かける。
ぼくも使う。

果実や花やシトラスなどを感じさせる華やかな香りと酸味のキレ感。お米の旨み・甘みだけではない、どこか凛とした清涼感を感じさせる白ワインのような味わい。

綺麗な飲み口を表現した日本酒が増えている。

最近飲んだ銘柄の中ですぐに思い浮かぶだけでも、『仙禽 無垢』『作 Z』『醸し人九平次 EAU DU DESIR』。白ワインのような日本酒。テイスティングの記録を辿ればもっとあるだろう。

とても美味しいと思う。

日本酒という素晴らしい日本文化が、日本で、そして世界中でもっと身近な選択肢になって欲しいと願うぼくとしては、日本酒の選択肢が増えるのはとてもいいことだと思っている。

お米と水と微生物。
自然へのリスペクト。
造り手の真摯で誠実な想い。

この結び目にある日本酒には、他では代替できない貴重さと、とんでもなく深く大きな可能性を感じる。


日本酒の味覚。ワインの味覚。

ヨーロッパに仕事で延べ5年ほど駐在していた頃、日常的にワインを飲んでいた。こだわりの酒屋に行かなくても、近くのスーパーに行けば日本円にして千円前後で美味しいワインがズラリと並んでいたし、2千円も出せば高級感のあるものが飲めた。

その頃からビールやウイスキーを含め、酒類全般が好きだったし、酒造りをされている方への敬意も感じていた。ただ、今ほど日本酒にハマってはいなかった。ヨーロッパの現地で見かける日本酒といえば、日本ではパックで売っているようなものばかりで、しかも日本の倍以上する値段でしか買えなかったのもその理由だ。

それほどワインは身近な存在だった。

ところが驚いたことに、最近ワインを、特に白ワインを飲んでも素直に美味しいと思えなくなってしまった。
入口で華やかな香りのするものでも、口に含むとすぐに酸味と渋味感の強さを感じてしまう。どうしてもドライに感じてしまい、テイスティングの行き先を失ってしまうような感覚がある。

日本酒って、やっぱり「甘さ」なんだと思う。

日本酒の特性の一つはやっぱりお米の甘さにある。日本酒ばかり飲んでいたら、完全にお米の味覚になってしまった。

驚いた。

その驚きが、この記事を書くきっかけになった。


「ワインか日本酒か」、ではない。

当たり前のことだけど、ワインと日本酒は原料から発酵形態まで全然違う、全く別の飲み物だ。類似点は「基本的に食中酒」であり、「醸造酒のわりに熟成が似合う」ということくらいかな。

だから、

「日本酒が白ワインにとって代わる」とか、

「そんな言い方をしたら白ワイン優位の前提を暗に印象付ける」とか、

「これからはワインではなく日本酒だ」とか、

そういうことではない気がする。

ワインはこれからもワインだし、
日本酒はこれからも日本酒であり続ける。

最近ではワイン酵母を使った日本酒や、ワイン樽を用いた日本酒醸造などの例もある。

これぞまさしく大きな意味での「異文化交流」と呼べる動きだと思うし、日本酒のさらなる進化を考えると、とっても喜ばしい動きだと思う。

これらの動きもワインと日本酒はあくまで別物で、互いへのリスペクトの結果生まれたものだと思っている。

日本酒は美味しい。

そして、ワインが美味しいと思えた頃の味覚を取り戻せた時、日本酒もワインも等しく美味しいと思える味覚を獲得した時、もっと日本酒の味わいの奥深さを感じ取れるのではないかなと、今から一人でワクワクしている。


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