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オレは不良品なんかじゃない、未完成なだけだ!

【気がかりなアイツのストーリー】Episode5

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【気がかりなアイツのストーリー】Episode5

オレは不良品なんかじゃない、未完成なだけだ!

公立高校の入学式の当日になると新調した制服に身を包んで
それぞれの親に付き添われて集まった大勢の新入生。

その中で、ひとり腕組みして立っているアイツを見つけた時は
ほんとに驚いた。

えぇッ!合格してたのかよッ!
っていう驚きと

また、アイツと一緒かよっていうなんだろう、嬉しさと
嫉妬心と羨望が入り混じったような、なんだか複雑な気分
だった気がする。

クラス編成でも同じ組になってアイツが
あっちこっちの中学から集まってきた同級生らと
どんな風に付き合うのか、興味もあったよね。

ただ、今となっては
アイツが高校時代に仕出かした多くのことや
くぐり抜けたピンチや残した多くのエピソードなんて
アイツにとってはどうでもいいことだったんだと理解できる。

アイツをずっと見てきて、そう思うよ。

アイツのお陰で何度となく他校生の荒くれ不良たちからも
守ってもらったし、いわれのない理不尽な暴力沙汰も
味わうこともなく高校時代を過ごせた恩義もあるんだよ。

アイツと一緒に行動していると
あたかも自分までがヒーローになったような気分で
周囲からの目をものすごく意識していたもんな。

ほんとに、助けられたことや教えられたことだらけの
アイツとの高校時代だった。

アイツは、ほかの不良たちにとっては
ちょっとやっかいな存在だったんだと思う。

なんていうの、ほら変に律儀で人情味と正義感にあふれた
まっとうな不良?

そう、それがぴったりかもしれないね。
「正義感にあふれた、人情不良!」


もちろん、アイツは自分が周りから相変わらず
不良のままの姿で見られているなんて
あまり自覚していなかったけどね。

アイツがキレた時の怖さは、みんな知ってたから
怒らせないように口に出さないだけで。

そう言えば、アイツが言ったことがある。
「不良少年と、非行少年を一緒にするな!」

アイツにとっては
不良少年の皮を被って世渡りすることが
自分なりの正義を貫くのに都合が良くって
必要な鎧だったのかもしれない。

背伸びして、早く大人になりたいアイツは
社会の常識の評価基準に腹を立ててこんなことも言っていた。
不良品は正規品とは言えんけど工夫すれば不良品なりの役立て方があると思うよ
不良品同士をくっつけ合えばあらたに正規品を作ることもできるじゃん
そもそも正規品って何だ?何を基準にしての正規品なんだっちゅうの?
おれらって、そもそも不良品じゃなくっていまだ未完成品なんだよ、製造途中なんだよ!

アイツの言ってたことを思い返すと
いまでも通用するくらい、大人の分別だったと思う。

アイツの言葉でも、感じてもらえると思うけど
アイツには社会の基準や常識で自分という人格を
勝手に決めつけられることがいやだったんじゃないのかな?

だから、どうでもいいようなことでもしつこく反発したり
思いがけないところで、優しさを見せたり。

理解しがたい行動もそう考えると
何となく理解できる気がする。

弱い者いじめが嫌いで強いものにばっかり
噛み付いていくところなんか自分の生い立ちや
貧しい境遇からきてたんだろうね。

あの時のシワシワハンカチ事件がずっと毒になって
アイツにこびりついていたんだと思う。

あのときのことを一度だけアイツと話したことがある。
ハンカチってアイロンかけなきゃ役に立たんのかい?
飾っとくもんじゃあるまいし使えばシワになるやろが?

「清潔さと見栄えの、アピールなのかな?」
洗濯してりゃ、それでいいんじゃねぇの?
「汚れてるか、見た目じゃ分からんからじゃないの?」
要するに、中味よりも外見の見栄えが大事だよってことかい?

いずれにしろアイツの筋を通す正義感ぶりは
アイツの個性として際立っていたと思う。

アイツが約束してくれたなら
必ず守ってくれるという安心感があった気がする。

だから揉め事や頼みごとがあればみんなが
仲裁や解決を頼みに行ったし頼まれごとを解決しても
見返りの要求もなかったからあれだけ頼られたんだろうね。

正直言って同じ男としてヤキモチ焼いたなぁ。

そう言えば約束事ってわけでもなかったけど
アイツが自分で宣言したことがあった。

アイツが高1のときに出会った一目惚れの相手が
1つ上の先輩でおまけに高校のマドンナとして
みんなが騒いでいた人だったんだけどね。

アイツも勇気を出してちょっかいを出したけど
見事にフラれたことがあるんだよ。

あとで、同じ中学出身の先輩女子から聞いた話だけど
「喧嘩自慢をするような恐い人とは付き合えない」
って理由で、あっさりフラれたらしい。

まぁ、そう言われても仕方のない話で
周りには乱暴な男だって受け取られていたからね。

ケンカ術だと言って空手の真似事やら
ボクシングの真似事をしていたな。
それで終わらずに不良仲間と工夫したことを
実戦で試すようなところがあったよね。

誰かがケンカを売ってくるのを待っている・・・
そんなオーラを全身から出していたから
恐がられて断られても仕方がないと思うよ。

アイツがふられたその先輩にクリスマスカードを
差出人名無しで贈ったのも知っているし
思い切って正月明けにラブレターを出したのも
一緒にいたからよく知っているんだけどさ。

まぁものの見事に、またもやふられてしまった。

そのときも口先では同情してたけど
「そりゃそうだよね!」って
そんなにうまくいくわけが無いよって
心の中じゃ嘲笑っていたんだよね。

でもさ、アイツがその時に宣言した一言には
正直言って、呆れたよ。

「絶対に付き合う、そして絶対に結婚する!」

アイツの宣言と確信に満ちたあの顔を
今でも思い出すことができるけど
まだ高校生だぜ、おいおいという感じだったね。

あれこれあって
確かに彼女とは付き合っているのかな?
という仲にはなったけど・・・。

毎日、学校から帰ってくると
自転車で彼女の町まで往復1時間かけて
通い詰めていたからね。

何度付き合わされたか知れやしない。

アイツが表立って喧嘩しなくなったのも
まちがいなく彼女の影響だっただろう。

何度かアイツに連れられて途中下車して
帰宅途中に彼女の家を訪ねたこともある。

アイツは、彼女が片想いしているという
先輩のことを周りの連中から仕入れてきては
彼女に教えて本命の先輩とうまくいくための
アドバイスを耳打ちしていた。

その時の顔も、嫉妬心はなくすごく満足そうだった。

だから、あれはどうみても恋愛付き合いじゃなく
友達関係で付き合っていた、というのが正しいね。

それでも、アイツには彼女といるだけで
じゅうぶん嬉しかったんだろうと思う。

ほんとに幸せそうな顔で彼女の笑顔を見ては
穏やかな顔でいつも笑っていたからね。

そんな時のアイツの顔は
心底嬉しいって、こんな表情を言うんだろうな
っていうくらいの、満面の笑みだった。

ふつうだったら嫉妬心が出て
ライバルになる人の噂や情報なんて
悪く言いそうなもんだけどね?

自分の気持がどうかってことよりも
彼女の気持ちのほうを大事にしているからこそ
できる芸当だなって、アイツの器に負けた気がした。

それでも、アイツの宣言したとおりに
付き合うことになったわけだから中味はともかく
宣言通りになったのは間違っちゃいないよね。

アイツに教えられたことの一つに
わき目もふらず目先の打算を捨てて相手のために尽くせば
必ず思いは通じるのだな、ということがあった。

そんなことを振り返って思うことは
アイツは決して、不良品なんかじゃなかったんだ。
アイツはまだ、未完成だっただけなんだ。


そう、完成品になることを求めて
アイツの旅は始まったばかりだった。

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