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私とあめこさん #2 ~三人組の、「要らない部分」~

私の友人・蛙田あめこさん著「女だから、とパーティを追放されたので伝説の魔女と最強タッグを組みました」2巻発売にさきがけ、あめこさんの著作のテーマにならって「百合」っぽいエッセイを書いている。

あめこさんのツイッターはこちら


百合を書いた著者が自称友人の百合に巻き込まれた。なんという大迷惑企画。そんな「巻き込まれ百合エッセイ」だが、あめこさんは喜んでくれていてひとまず安心だ。

全3回を予定し、第四回には最後に書評を入れたい。

いわゆるPR文章だ。謝礼とかは特に貰っていない。「本がめちゃくちゃ面白かったからという理由で衝動的に書いている。

ただ、重版したら肉のお寿司をめちゃくちゃいっぱい奢って欲しいし、重版しなかったら何かの間違いなので、私は肉のお寿司をいっぱい奢ってもらえるのはほぼ確実だ。

発売は明日・25日だそうだが、Amazonさんがうっかり間違えたのか木曜に届いてしまって、一足早く「女だから~」二巻を読んだ私はいたく感動している。



読んだのは一昨日だが、昨日一日そのことばかりを考えて何も手に付かなかった。最高だった。震えまくった。

痺れて息が震えて火山噴火のような莫大なエネルギーが血を流れた。

なので、読んでほしい。本が苦手な人ほど読んでほしい。最高だから。

私はめちゃくちゃ百合好きという訳ではない(普通には好き)だし、フェミニストとかでもない。それでも、最高に痺れた。この物語には、「すべての女の子、生きづらさを抱えている人」に、恐ろしい程に刺さる。

所感だが、2巻を読んで「第一部」が完結する。なので、1巻と2巻はセットで読んでほしい。大丈夫、体調がよければ2冊を4時間ぐらいで読み切れる。


さて、前置きがめちゃくちゃ長くなったが、前回はこちら。

【あらすじ】
私はブスの呪いを解いてくれた蛙田あめこさんと筏田かつらさんを慕い始める。特に蛙田あめこさんには「こんなうつくしい人になりたい」と過剰なほどの憧れと同時に「こんな凄い人にはなれない」と諦めの念を抱いていた。

私には何もない。私にはなにもないので、彼女たちの力になろうと戦いに身を投じようとしていた。その身が荷物と傷だらけになっていることも気づけずに――。

さて、そろそろ私のめちゃくちゃ恥ずかしかった時期について語る時が来たようだ。

矢御あやせがこだわっていたnoteの毎日更新をやめ、noteに「おもしろい女」がちらほらと台頭しはじめたころ。私は屍になっていた。

※明るい話じゃないので気分が落ち込んでる方は非推奨です。

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一人になると、子供のように泣く。

声をあげて、わーわーと。

おおよそ普通の泣き方ではない。私たちは大人になるにつれてそういう風に泣くことを忘れてしまうんだとばかり思っていた。

だが、その頃、私はそうやって泣いてばかりいた。

あめこさんと出会った冬。私はそんな症状にひどく悩まされていた。

症状は少しずつ酷くなっていった。

少しずつ子供になっていき、少しずつ語彙が奪われ、少しずつジョークが言えなくなっていき、少しずつ体の自由が効かなくなっていき、少しずつお風呂がおっくうになっていき、少しずつ――自分が「間違っているのだ」だと思いこむようになっていった。

体が動かせなかった。「あぁ、今日もさぼるんだ」と思いながら座椅子に寝転んでいた。

可動時間は、おそらく5時間も満たなかった。

そのうち3時間を執筆に当て、その全てをnoteにつぎ込んだ。

noteは私の人生のほぼすべてになっていた。

その「すべて」は残念ながら報われなかった。


折角買ったミシンは埃をかぶり、逃げるようにゲームをした。逃げることならばどうにかできた。

体を動かすことができたのは、「人のため」に何かをする時だけだった。

「自分のため」にできることはほとんどの選択肢がなくなっていた。


4月、私は爆発した。

抑え込んでいた「私は死ぬべき」という思想に支配され、ツイッターで何度も「死にたい」と叫んだ。

本当は死にたくなかったけど、「死なないといけない」と思った。「死なないと、死なないと沢山の人に迷惑をかけてしまう」。そう思ってはばからず、私は「生きていてもいいよ」という言葉を求めて何度もTwitterに助けを求めた。

求めながら、叫んでいた。声が枯れるほど、夜中にも関わらず何度も何度も叫んで泣いた。死ね、死ね、死ね。人に迷惑をかけるな。そんなやつは死ね。

という言葉を「死にたい」に置き換えて。

リプライで「そんなこと言うな」と言われた。言いたくて言ってんじゃねぇ!! うるせぇ、死なないと、死なないと沢山の人に迷惑がかかるんだよ!!!

それは、スカ、スカ、と空を切るように虚しい行為だった。

だが、そうじゃないと自傷行為に走ってしまいそうでならなかったのだ。

もちろん、「死ぬべき」なんてことは誰も思っていない。

今そんなやつがいたらそっくりそのまま言葉を返してバトル突入だ。うるせぇ! と本気で抵抗してやる。場合によっては「あの時は本当に申し訳ありませんでした」と謝ることも範疇だ。

どうにか夜を越え、医者に見せた。

担当医が変わってすぐの頃。頼りないと思っていた若医者は「しいて言うなら適応障害ですね」と伝えた。しいてってなんだよ。舌打ちした。新しい薬の効果はてきめんだった。


「あめこさんはどうした」と読者諸君は思っている頃だろう。

私は焦っていた。壊れた日の二週後、あめこさん・かつらさんとのインタビューの予定が迫っていたのだ。

新しい薬を飲んで、ゲームで自分の機嫌を取った。大丈夫じゃん。私、元気じゃん。なーんだ、適応障害って楽ショーじゃん。やっぱ私、さぼってたんだね、あーあ、私ってわがままだなぁ、ほんとダメじゃん。

そう思って、未だ重たい身体にむちを打ち、東京に出た。

うまく笑えているか、その場をうまく和ませられるか、いい空気を作れるか、そればかりに集中していた。インタビューというより、私はマッチポンプになろうと躍起になっていた。

必死で何も見えなかった。渋谷のオシャレなお店で、私だけが空回りしていた。

笑っていよう。楽しそうにしよう。バカでいよう。みんなのいいところを見つけて伝えよう。ほら、みんな私の発言で笑ってるよ。私の発言で機嫌がよくなってくれればいいな。

私はそんなポジションなんだから、私は、私は、私は――――


私って、2人にとって必要なのかな。


心に陰りが差した。売れてる訳でもない、輝かしい未来があるわけでもない、作家の癖に全然頭がよくない。特別才能に溢れているわけでもない。

あれ、あれ……。

途端に自分が恥ずかしくなった。縮こまりたくなった。小さくなれたらいいのにと思ったけど、よくわからない物理法則でなれなかった。

あめこさんやかつらさんみたいに、私は社会人としてやっていけない。

二人みたいに頭のいい小説を書けない。

二人みたいにウィットにとんだ話題がない。

二人みたいに……。


きっかけは何だったかよくわからないけど、あめこさんに何かを言われて、私はオセロをひっくり返したように「あ、もしかして……バカにされてるかも」と思うようになった。

今は全然幻覚で妄想だとわかるんだが、憧れは、「あの人になれない」という現実は、私を暗い暗い影に落とした。光の中に落とされた影は、存外色が濃い。


その頃、私は乱暴な言葉ばかりを使うようになっていた。適応障害によって語彙が奪われ、自分が丸裸だったからこそ、余計に。

彼女たちを困らせている人がいた。彼女たちを泣かせる人がいた。そんな人に「え、死ねですね」と平気で言っていた。自分にとって許せない存在も「死ね」で片づけた。

いや、平気じゃなかった。片付けたつもりじゃなかった。他の言葉が見つからない。「敵だから、殺さないと」と思っていた。当然、「殺せない」けど。本当の本当に、それ以外の言葉が見つからないほど、私の頭の中の言葉のピースは枯渇し、森は枯れて殺風景で孤独で、敵に溢れていた。血だらけだった。その血は、誰かを殺した血ではない。

体のいたるところから溢れた私の血だった――

私は、全然良くなんてなっていなかった。

それでも必死に戦っていたつもりでいた。

「頑張ったね」って褒めてもらいたかった。どこにも存在価値のない私を、どうにかして「3人」の一人として迎えてほしかった。

私がいるから上機嫌になってほしかった。

私の言葉で元気になってほしかった。

存在価値のない私を、どうにかしてそういう形で「いてもいいよ」と言って欲しかった。


「死ねはやめて」

二人にそう言われ、私は自分が愚かだったことに気づいた。

どうしようもなくて泣いた。

好きだったけど、もうダメだと思った。私に居場所はないと悟った。

私は、二人との接触をやめた。これ以上私がいたら、傷つけると思ったからだ。

ナイフしかもっていない。そのナイフを振り回すことしかできない。

あの頃の私は、手に持ったナイフを自分に突き付けて「死にたい」というか、敵にナイフを向けて「死ね」というか、どちらかだけしかできなかった。


二人が好きだった。

二人に元気でいてほしかった。

二人を守りたかった。


二人を守る方法が、「自分が退くことだ」と悟った時、涙が止まらなかった。子供のように泣いていた私が、ただ声を殺して、喉をぎゅっと潰すようにして、声を殺して起き上がれぬベッドで泣いた。唇を噛んだ。

死にたい、というより「罰を受けねば」と思った。私は罰を受けるべきだと、私は私に新たな呪いをかけた。

「早く元気にならないと」

割れてしまった綺麗な写真立てをそのままに、私は3か月もの間、執筆活動を休み治療に専念することとなった。

そして――

何がきっかけだったか忘れたが、私とあめこさんは再び交流を持つようになった。

もちろん、執筆で忙しくなったかつらさんとも、現在は交流を再開している。

その再会が大きな前進をもたらすとは、ようやく心に包帯を巻き終わったばかりの私は知る由もない。

だがきっと。今日もあの多摩川は変わらず東京と神奈川の灯りを受けて揺れているのだろう。


最終話へ続く


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それよりも「女だから、とパーティを追放されたので、伝説の魔女と最強タッグを組みました」を買って読んでほしいです。めっちゃ面白いです。ほんと買って!




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