ショートショート1『後悔』
21世紀の幕開けの日。
新年の誓いをあの九十九里浜で朝日に誓おうと考え、車を走らせた。
高速を走らせている途中には、警察がたくさんいて間違って捕まえられたりしないだろうか?と不安になった。
九十九里浜の白子町中里海岸に着くと朝日を待ち構える人々が町によって振る舞われていた甘酒や樽酒を飲んで騒いだり、特産の青のりを使った焼き餅を美味しそうに食べていた。
自分もせっかくなのでご相伴にあずかろうと、集団に紛れ込んだわけだが、そこで中高年のおっちゃんと若い姉ちゃん、そして兄ちゃんと勢いで話が始まり親しくなってしまった。
おっちゃんは何か迷惑な素人写真家っぽく、それでいて鼻から鼻水垂らして汚く、しかし強引な言葉を駆使して、姉ちゃんの写真をパシャパシャと撮っていた。
姉ちゃんも随分飲んでいるのかハイテンションで「イエーイ」とノリよく陽気に応じていた。
朝日が昇ってきた7時頃、朝日をバックに姉ちゃんの写真を撮ろうとしていたおっちゃんは姉ちゃんの
「ごめんなさい、友達が帰るらしいから帰りますね!」
と友達の都合のせいかのごとくバックレられてしまい、写真を撮れないことで落ち込んでいるようだった。
そこに居合わせた自分と目が合い、声をかけられ、代わりに写真を撮りたいと告げられて、この流れで断るすべを知らない自分はなんとなく写真に応じてしまった。
「あぁ、21世紀の幕がおっちゃんによって開かれた」と感じた。
周りのみんなも一様に拍手して21世紀最初の朝日を祝うイベントは一瞬で終わった。
ずいぶんと飲んでいた自分はすぐに帰らず、ぼーっとしているとおっちゃんが
「私が作った凧があるので、あげませんか?」
と2つある自作の凧の1つを渡してきた。
しかもいつの間にお願いしたのか知らないが白子町長に直筆サインしてもらったという代物だった。
この凧を自分が揚げて久々に童心に返りながら凧揚げを楽しんだ。
海で浜風が強くあまりにも勢いよく揚がるので紐をもっと長くしたらどうだろうか?と1つの凧のタコ糸をもう一つの凧のタコ糸に結び、揚げるとさらに勢いよく揚がった。連凧だ!
正月にこれは、なかなか気分がいいぞ!と思った。
気持ちよく凧をあげて、十分に楽しんだ後、そろそろ凧をしまおうと糸をくるくると巻いていく。
くるくる・・・くるくる・・・つるっ
「あっ!!」
なんと手が滑ってタコ糸を巻きつけていた糸巻きを落としてしまった!
強風を受けている凧に引っ張られ糸巻きはどんどん海の向こうへ・・・
走って追いかけたが、風速数mで逃げる糸巻きでは全くもって間に合わない・・・。
哀れ凧は持ち主の元を離れ遠く海の向こうまで飛んでいってしまった。
小さくなっていく凧を自分は必死に見つめていた。
しばらくして振り返っておっちゃんに謝った。
自分「手が滑ってしまって・・・本当にごめんなさい」
おっちゃん「モノは必ず壊れるもんだから・・・いいよ(´・ω・`)」
おっちゃん「アメリカまで飛んでいくかも知れないな(笑)」
自分「ははは・・・ごめんなさい・・・」
心にズキズキとしたものを抱え、あぁ、連凧とか調子に乗るんじゃなかったな・・、そろそろ帰ろう、そう思った時におっちゃんが
「暖かいもんでも食べようか?ごちそうするよ!」
自分は「自分の大切なものを無くした、こんな奴に、モーニングをごちそうしてくれるなんてなんていい人なんだ」と心の中で思った。
そんな人がごちそうしてくれると聞いて断ることは自分の選択肢にはない。
デニーズとかガストでもいいよ。美味しいものが食べられるなら、もう何も言うことはない。。。
そしてごちそうの場所として連れていかれたのは・・・
おっちゃんの車の中・・・。
え・・・
『本日のメニュー』
・温かいもの>フリーズドライのたまごスープ
・特製おにぎり>おそらくおっちゃんが作った冷えて岩のようなおにぎり
「・・・・・いただきます(゜_゜)」
冷たくて硬い岩おにぎり2個は、なんとか我慢して食べた。
温かいたまごスープはおっちゃんが脱いだ靴下の臭いを浴びせられ、セシウムより汚染されているのでは?と疑いながら飲み干した。
みかんやバナナも勧められたが、それらも怪しく思えてしまって体よく断らざるを得なかった。
必ずしもごちそうが自分の想像通りになるとは限らないと後悔とともに教訓になったと思った。
その後、そそくさと礼を言い、自分は帰っていった。
後日、おっちゃんから手紙が来た。
変なおっちゃんだったから関わるのはよそうとその時は思って返事は出さなかった。
今になって思う。ちゃんと返事をしても良かったんじゃないか?と。
これも後悔なら前の後悔は果たして本当に後悔なのだろうか?
後悔先に立たず。
適切に判断するって難しい。
サポートいただけると喜んで活動するタイプです。どうかよろしくお願いいたします。(^o^)