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ぞなもし創作ノートその3 〜ログラインで分析する面白いストーリーに共通する考え方について〜

ログラインという考え方がある。

話によると、ハリウッドの映画業界で脚本家とプロデューサーのピッチセッション用の考え方だそうです。
脚本家「面白い企画がおまんねん」
P「ほな、いっちょ聞きまひょか」
脚本家「えー、ことの起こりは、紀元前の~」
P「ちょい待ち。それ、紀元前の話ですか? 『ベン・ハー』みたいな」
脚本家「ちゃいます。現代ですわ」
P「そら君、そこから説明されたら、よう聞かんわ。わてかて暇ちゃいまんねん」
脚本家「ほうでっか。ほなどうしまひょ。めっちゃおもろいはずなんですが」
P「ほな、そのおもろいところだけ聞かせてくれまへんか。3行くらいにまとめて」
という具合に、時間のないプロデューサーに自分の企画を口頭で説明する為に、生まれた。とか言われてます。本当かは知りません。

ではログラインとはなんぞや。
基本的には、ストーリーを各1行くらいで、3つの状態にまとめます。その状態というのは。
・初期状態
・問題or葛藤
・クライマックス

です。

よく引き合いに出される映画『ロッキー』のログラインを試しに書いてみると。

・しがない3流ボクサーのロッキーにひょんなことから世界タイトルの試合が舞い込む。(初期状態)
・試合中、ロッキーは偉大なチャンピオンにはとても勝てないと気づいてしまう。(問題or葛藤)
・ロッキーはせめて最後までKOされないことを誓い、それを達成することでささやかな勝利者となった。(クライマックス)


これを聞いたプロデューサーはどう思うでしょうか。
まず1行目。
P「3流ボクサーに世界タイトルでっか。そら、おもろいでんな」
脚本家「でっしゃろ」
次に2行目。
P「勝たれへんのですか? それどないしまんねん!?」
脚本家「まあ、待ちよし」
最後の3行目。
P「は~、なるほど。そりゃええ、人間ドラマですわ。そうでんな。その時に、別れた嫁はんとかが駆け寄ってきたら、ええ感じのラストにはりますな」
脚本家「でっしゃろ。腫れあがった顔で、嫁の名前呼ぶんですわ。せつこ~、せつこ~って」
P「よろしいでんな。ほな、ちょっと本格的に考えてみましょか」

となるのだろう。

で、ここでプロデューサーが面白いと思った部分が理解できないということが、よくあるのである。
丁稚「その3行の何がおもろいんですか? わて、ようわからんわ」

ログラインという技術は、ストーリーの面白さの本質を理解していないと、まったく意味がないのである。
それをつくる脚本家も、それを聞くプロデューサーも面白いストーリーというものを理解しているのである。
だから成立する3行のコミュニケーションなのである。

では、
丁稚「ストーリーの面白さの本質ってなんですの?」
という最もな疑問に回答しなければいけない。
なので答えます。

『魔法少女まどかマギカ』のログラインにしてみましょう。

・願いを叶えるために魔女を倒す魔法少女になった少女は(初期状態)
・魔法少女がやがて魔女になるという負の連鎖を知り、(問題or葛藤)
・それを終わらせることを自分の願いとして願う。(クライマックス)


ではこれをプロデューサーに聞かせてみましょう。

まず1行目。
P「はあ、まあよくある話でんな。」
次に2行目
P「はあ? 願い叶えるために魔女倒してるのに、ゆくゆくは本人が魔女になってしまうんでっか? そりゃ無茶な話やで。どないなってまうんでっか?」

とまあ、ちょっと思い出してもらうとわかるように、ロッキーと同じ反応なのです。
つまり。『ロッキー』と『まどマギ』はまったくジャンルの異なる作品だが、ログラインは同じ状態になっているのです。

『ロッキー』
・しがない3流ボクサーのロッキーにひょんなことから世界タイトルの試合が舞い込む。
・試合中、ロッキーは偉大なチャンピオンにはとても勝てないと気づいてしまう。

『まどマギ』
・願いを叶えるために魔女を倒す魔法少女になった少女は
・魔法少女がやがて魔女になるという負の連鎖を知る。

タイトル戦に挑むが、勝てないと悟ってしまう。
魔女を倒す魔法少女になったが、自分はいずれ魔女になってしまう。


実は1行目と2行目の間に、容易には解消不可能な矛盾が生まれているんです。
だから、プロデューサーは「どうないなるんでっか!?」と思わず声を上げてしまったんです。

P「そんなん無理でっしゃろ。どないなってまうんでっか!?」
と思わず声を上げるほど、設定に矛盾が孕んでいる状態で、面白いストーリーには共通しているのです。
なぜこうした矛盾した状態が、人は面白いと思うのかは、長い話になるので割愛しますが、
それらの矛盾は、少なくとも「どないなってまうんでっか!?」という単純な興味を引く要素である。
それはプロだろうが素人だろうが関係ない、たぶん人間的に素朴な感情なのだと思います。
ちなみに、勘の良い方は気づいたかもしれないが、とても良い物語は、初期状態で、すでに矛盾をはらんでいます。
3流ボクサーにタイトル戦が舞い込む『ロッキー』、例えば、鬼になった妹を救うため、鬼を狩る者になった『鬼滅の刃』。
要するにどの部分でもいいので、解消不能な矛盾を抱えていなければいけないのです。それがキャラクター単体であってもいいわけです。

このような矛盾した状態を生み出すことは、ストーリーを作るためだけではなく、様々な商品開発やコンテンツ開発に役立つ、基本的な技術だと思います。
映画を観たり、漫画を読んだりしたときに、この作品のログラインってどうなっているんだろう、どんな矛盾が孕んでいるんだろう。
などと考えてみてもよいのではないかと思います。
ぞなもし。

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