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朝一バイトの悲劇

高校時代、モスグリーンがトレードマークの某ホームセンターでバイトしていた。

レジ打ちだけのすごく簡単なバイト。シフトはかなり自由で、出勤したい日と時間をシートに記載して提出。追加で入って欲しい日があればマネージャーから直接依頼がくる。高校生には大変ありがたいシステムだった。

平日は学校終わりの3時間、土日は開店時間の9時から18時までの8時間のシフトで勤務していた。

社員さんやパートの方、学生バイト、皆さん本当に良い人ばかりで職場環境はとても良好。ただ客は変な人が多かった。

場所は名古屋の工業地帯。トラックが頻繁に走るので道路はボコボコ、排気ガスの香りがうすら漂う地域。そんな土地柄からか、工場や現場系の怖いお兄さんをはじめ、人相の悪い親父、無愛想なマダム、店内で平気で鬼ごっこする小学生などの面々。フードコートで酒盛りしだす、治安の悪い老人会集団もいた。

学校が休みの土曜日。朝の情報番組を観ながら軽く朝食を食べ、バイトに出掛けた。自転車を5分ほど漕ぎ、ホームセンターの裏側にある従業員入り口に到着。制服に着替え、レジに立った。オープン時間の9時から18時までの通しシフトだったので「今日は稼ぐぞ〜」となんとなく気合いが入り、朝ということもあり爽やかな笑顔で開店時間から来るお客さんを出迎えた。

ホームセンターはオープン時間から出勤すると10分くらいは暇だ。多種多様な商品があり、結構色んなコーナーを見て回るから、早々にレジへ向かう人は少ない。なのでボケーっとしながら「土曜日だから家族連れがやっぱり多いな〜」、「今日休憩12時でちょっと早いな〜後半5時間地味にしんどいんだよな〜」とか考えていたら、気づけばお客さんが続々と自分が担当しているレジまでやってきた。朝イチの爽やか笑顔で接客し、淡々とレジ打ちをして捌いていく。

4人目くらいに、一人客のおじいさんが洗剤をひとつだけ持ってきた。ピッとレジを通して、「お会計は◯◯円になります」と得意の爽やか笑顔で支払額を案内した。何故か、おじいさんはずっとニヤニヤしていた。自分の顔を見て、ニヤニヤきてきた。「やっぱり変な客ばかりだなこの店」と心の中で呟いた。

すると、おじいさんがニヤニヤしながら「お兄ちゃん…昨日餃子食った?」と質問してきた。

悪いが餃子は食べていない。突然の質問に戸惑い、爽やか笑顔はとっくに死んでいる。接客業らしからぬ真顔で「え…食べてないです…」と返事した。

おじいさんはニヤニヤしながら商品を受け取り、「そうか」と返事し、ニヤニヤしながら店を出て行った。

さらに怖いことがある。実は餃子もなにも、ニンニクが入っている物をここ数日食べていない。

これってシンプルに自分の口が臭いってことでは?

歯磨きもしっかりしたし、まだ朝なのに。ニヤニヤおじさんが帰った後、爽やかな笑顔はすこし燻み、口臭を気にしてその日はモゴモゴした喋り方で接客した。

10年以上経った今でも、元バイト先を見るとこの事件を思い出す。あれから舌磨きを徹底するようになったし、マウスウォッシュもするようになった。ニヤニヤおじさんのおかげで自分の歯は健康になったに違いない。

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