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ヒロインになれないエキストラでも

「人から羨ましがられる人間になりたいです」進路相談でそう言った主人公の綾(あや)のことを痛い女だと思ったけれど、この『東京女子図鑑』はこれから上京しようとしている私にとって人生のネタバレなのかもしれない。

秋田で生まれ育った綾は「こんな場所は私の居場所じゃない、井の中の蛙でいたくない」と上京して、キャリアを積みながらいろんな人に出会うことで、服装などの容姿だけでなく価値観も変わっていく。三茶、恵比寿、表参道、代々木上原としっくりくる街も変わり、付き合う男も変わる。それでも「羨ましがられる人間になりたい」というところはずっと、変わっていないように見えた。そんな綾が残念で可哀想だと思ったけれど、綾が私に言った。「私のこと、痛い女だと思いました?その私を見下す優越感、よく覚えておいてくださいね。これは10年後のあなたの話なんですから。」本当にそうだと思った。私だって、きっと、羨ましいと思われたいんだ、恥ずかしいけどそんな気持ちが確かに自分の中にもあると自覚した。確かに綾は私だった。

上京しようと決めていたのに、考え直すべきなのかもしれないと思う自分の甘さや影響の受けやすさが嫌になった。でもそれだけ、考えさせられるものだった。幸せのかたちは人によって違う。キャリアを積んで自分にしかできない仕事を生み出す快感や、好きな人と一緒になんでもない幸せを噛み締められることや、子供を産んで母となり幸せな家庭を築くこと。人それぞれ違って、隣の芝生はいつでも青くとても美しい。結局、自分の芝生の綺麗さを味わえないと、いつまでたっても幸せになることはできない。


私はなぜ東京に行きたいのか。東京に行ったところで変われるとは微塵も思っていない。だけど、東京に行かない理由を並べるのは本当に簡単で、そういう自分が嫌だということは確かだ。綾は「意識の高ささえ捨ててしまえばいつでも幸せになんてなれる」と言いながら、捨てるという選択肢なんて絶対になくて、常に変わり続ける欲しいものを求めて生きている。それをバカだという人もいるだろうけど、私にはわかる。妥協した幸せを幸せだと思い込むことだけは絶対にしたくない。自分はヒロインじゃなくてどこにでもいるエキストラなんだと気づいても尚、ただのエキストラで終わってたまるかという気持ちは消えない。私はエキストラでも幸せだと割り切ることはできなくても、ヒロインを目指して本当に辛い思いをたくさんしてやっと、エキストラでいることが幸せなんだと心底思えるまで頑張らないと、納得できない。私も綾と一緒だ。地元にとどまって、狭いコミュニティで生きて、結婚して、子供産んで。それは私にとっては幸せじゃない。それが幸せだと思うときが来るかもしれないけれど、今の私にとっての幸せは違う。きっと私は、私自身が「今の自分、結構イケてんじゃん」と思えることが幸せだから、妥協して幸せになれることはない。青天井でキリがなくても、自分のベストを尽くし続けること以上に満足できることはきっとない。もっとうまく生きればいいのにとか、不幸な性格だとか思われるかもしれないけれど、私にとってはこれが最も幸せな生き方だ。

綾と自分を照らし合わせると、綾も本当は「人に羨ましがられる人間になりたい」のではなくて「人を羨むことがない、自分が一番だと思えるようになりたい」が奥底の欲求なのではないかとも思える。いいなあ、いいなあ、と他人の良いところばかり羨んでいるからずっと満ち足りなくて。人と比べることを辞めて自分の成長に目を向けられたら、きっと綾は幸せになれるんじゃないかな、そう思って、ハッとした。


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