2016.07.03 トイレにお婿さんでもいるのかしら

父と一緒に祖母宅へ遊びに行ってきた。
朝七時半出発。

早ぇーよ!
小学生かよ!
遠足にしたってもうちょっと遅いぜ!

ランランとハンドルを切る父。
ちっ・・・これが遠藤憲一ならどんなにいいか・・・
でもこいつはエンケン様じゃない、お父様だ・・・

相変わらず森山良子を爆音でオンエアしながら、
ザワワを合唱させようと“ジョイナス!”みたいな目で見てくる。

やめろよ!
ハイホーじゃねんだよ!やめろ!
いやだ!そんなテンションじゃna・・・

「ざわわ、ざわわ、ざわわぁ~・・・・」

_| ̄|○

瞳の輝きに抗えずハモってハモって
ハミングバードな二人はやはり親子なのでしょう。

今日だけだかんな!帰りはやんねぇかんな!(父にはツンデレ)

40分後無事到着。

御年88歳の祖母に迎えられ居間へ。

「やんちゃん、おじいちゃんまだ寝てるから起こしてきてくれない?」

はーいと寝室に向かい祖父に声をかける。

「じーちゃんおはよー!朝だよーやんだよー!遊びに来たよー起きて起きてー!」

タオルケットをかぶったまま微動だにしない。

「じーじーじー!おーきーてーやーんーだーよー!」

ボリューミーにしてもまだダメだ。
揺さぶる。
起きない。
さらに揺さぶりをかける。
全然起きない。

・・・・・・ヤバイ。

「ばあちゃん!じいちゃんが起きない!じいちゃん返事しないどうしよう!」

ため息をつく祖母。
ついにお別れの時が来てしまったのか。
もう93歳だもんな・・・
じーじ、最後に一言お話ししたかったな・・・
何年たっても妹たち(双子)の区別がつかなくて、
いつも、「Aちゃーん(次女)!」と呼んでは服の色を確認し、
「Bちゃーん(三女)」と呼んでは靴下の模様を確認していたのを、
無理すんなよじーじ、と複雑な思いでストローを噛んでいた9歳の私(長女)。

方言が強すぎて8割何言ってっか分かんなかったけどいいじーじだった、
孫6人の通知表をノートにまとめるのが好きで、
それを一体何に使うんだろうと思いながらも小遣いほしさに黙って渡していた、
結局あれはどうしたんやじーじ、聞き取れなくて頷いてばっかりやったけど多分、
誉めてくれてたんだよね?じーじ。
ありがとう、ありがとう。

「ばあちゃん、じーじは・・・」

祖母しばらくの沈黙ののちポツリ。

「おじいちゃん、もう私の手には負えないので施設に入れなければいけません。ごめんなさい。」

その瞬間、

ガバアァァァァッ!

祖父、起床。

おおおおおおおいいいいいいいいい!!!

「ああ、やん来てたのか、おはよう・・・おう、もう朝か・・・起きる、起きるぞ」

_| ̄|○

可愛い孫の声より愛妻の鞭か・・・
夫婦だな・・・
走馬灯返せじじい!
孫は静かに泣いた。

父は庭仕事に出かけたので、
私は祖母とお茶をしながら祖父が朝食をかきこむ勇姿を見守る、
という不思議な構図をとっていた。

じんわりした。
暮らしているんだなあ、生きているんだなあと、
二人の日常を、当たり前の生活を垣間見ながら感じた。

お茶、と言われればサッと席を立ち茶を運んでくる祖母。
もういらない、とおかずを残されても微笑んでいる祖母。
薬を飲もうとしたら絶妙のタイミングで白湯を差し出す祖母。
私を見つめる祖母。

「やんちゃんご覧なさい・・・これが・・・老々介護の現実よ。」

重っ!!
テーマ重いよばあちゃん!!
愛だな~とか思ってほのぼのしてたのにやめてよっ!

「ともあれ今はこれでも何とか不自由せずにやってるし、おじいちゃんが動けるうちは何も問題ないから心配しないでね♪それよりやんちゃんのお婿さんは何処かしら?おばあちゃん孝行してくれる優しいやんちゃんは何処かしら~?」


シャラップ!(泣
それ以上はシャラップだぜばーちゃん!

私は説いた。
都会の婚期や結婚観は田舎とは全く異なること。
する気がないわけではなく、ご縁がないこと。
それは誰のせいでもなく、だから自然に任せるのがよいのだということ。
ばあちゃんたちの事は愛しているし、
孝行は別の形でするから許してほしいということ。
ニートだということ。
腐女だということ。

たぶん6割ぐらいは理解してくれたと思う。

「いいのよ、やんちゃんが元気でいてくれたらほんとは、それだけでいいのよばあちゃんは。イートでも男性が好きになれなくても、いいのよ。ばあちゃんはやんちゃんが幸せであってくれればいいのよ。」

うん、ありがとう。
でも、イートじゃなくてニートだよ。
eatは食べる、だよ。Not in Education, Employment or Trainingがニートなんだ。
あと、男性が好きになれないんじゃなくて、アニメの中の男性のほうが現実の男性より萌えるだけだよ。
2次元のチ○コは役に立たないから、ちゃんと3次元の男性も視野に入れて活動してるよ。
これでも性豪と呼ばれてたんだよ。え?自慢にならない?
ごめんね。
色々ごめんね。

てかさっきから言ってるマッションって、クッションのことだよね?
マッション背中に挟むと楽だからって気を使ってくれてありがとう。
でもクッションて言うんだ、それ。ごめんね。
色々気を遣わせて、ごめんね。
やんがこんなだからダメなんだね、
いつまでもニートで腐女でオ○ニーばっかしているから・・・

と、グズりそうになっていた私の前に、ドンッと湯呑みを置く祖父。

「やん、これいいだろ?」

でかでかと彫られた“蘇”の文字。

「え、え?あ、うん、なんか迫力すごいね。よみがえ・・・る?か、かっこいいね!」

「だろ?お土産だよいいだろ~あそこくさいけどな、すごいくさいけどいいとこだよな!」

ん?また何かいいはじめたぞこいつは・・・
くさいってなんだよ・・・どこのこと言ってんだよ・・・
蘇る上に臭い場所って・・・地獄?え?地獄なの?
ん、まあいいや・・・じーじの好きに言わせとこう・・・

「そういえばやんは行ったことあるか?くさかったか?」

だーかーらー!
どこのことだよ!なんのことだよ!
ばあちゃん舟出せよ!
助け舟だよ!
わかんねぇよ!

祖母は新聞の4コマに夢中だ。

「ん?蘇るぐらい臭いところ・・・?ええっと・・・地獄めぐりかな?大分だっけ?」


「ちゃうちや!こりゃあよびがえるじゃあああおあhぢsj:;h5j%%おあmん・・・・・!!!!」

_| ̄|○ ※聞き取り不能

急に早口にならないで!!!
私が悪かった!!!
私が悪かったからそう熱くならないでじいちゃん!!!
ツバの飛距離考えて!!!!

「やんちゃん、あれね、蘇るじゃなくて、阿蘇の“蘇“よ。裏側に“阿”って彫ってあるんだけど見えないわね(笑)ふふ。あれ阿蘇山に行ったお友達からもらったのよ」

グッジョブ通訳。
さすが高知の戸田奈津子。

そうならそうと言ってくれよじじい。
“阿”を見せてくれれば済んだ話じゃないか。
阿蘇山ね、ああ行ったよ行った、修学旅行で行ったさ、
オナラ臭くてたまらなかったよ、嫌がる同級生達を笑いながら、
内心ちょっとたまんねぇ臭いだなこりゃと思っていたさ当時、
自分の屈折した性癖に出会った、初めての夏だったよ。

湯呑み自慢が終わるとさっさと縁側へ行きクロスワードパズルに取り組むじーじ。

「やんちゃんが来てくれたから上機嫌なのよおじいちゃん。でもお婿さんも一緒だったらどんなにかよろko・・・」

「ちょっとトイレ行ってくる」

「あら?トイレにお婿さんでもいるのかしら・・・ふふふ」

ぐああああああああああ!!!!!

トイレ猛ダッシュ。

「黙ればばああああああぁぁっぁぁぁぁぁ!!!!!!(号泣」

便器に叫んだ。
王様の耳はロバの耳方式だ。

声を出したら少しスッキリした。

ばあちゃん、婿はあと5年以内には連れてくるから、
東京オリンピックぐらいにはきっと連れてくるから、
だから、長生きしてね。長生きしてね。

お中元に朝鮮人参でも贈ろう・・・

スマホで漢方サイトを漁りながら、
磯の香りに溶ける森山良子を聞いていた。

車内、父の横顔が少し、日に焼けて眩しかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?