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メディアの話その84 コロナウイルスと科学者とサイエンスコミュニケーション

 新型コロナウイルスは、メディアにおける科学報道に大きな変化をもたらした。

 最前線の科学者たちが、マスメディアを介さず、直接情報発信を始めたのだ。

 たとえば、2020年4月5日、このnoteを活用した「新型コロナウイルス感染症に関する専門家有志の会」。政府の新型コロナウイルス感染症対策本部の専門家会議の副座長でもあり、多くのマスメディアにも登場している独立行政法人地域医療機能推進機構の尾身茂氏をはじめとする専門家会議の面々が、noteにコンテンツを掲載し、ツイッターなどのSNSを介して、直接人々にコミュニケーションをとっている。

   その専門家会議のメンバーでもある、北海道大学の西浦教授らが、やはり4月からツイッタ上でスタートしたのが「新型コロナクラスター対策専門家」アカウント。https://twitter.com/ClusterJapan

ユニークなのは、テレビなどで紹介されたり、出演したり、記者会見があった内容の補足を、こちらのツイッターアカウントで専門家たちが自ら行っていること。


以上2つのサイトにかかわる西浦教授はツイッター上でこう宣言されている。


ノーベル賞学者である山中伸弥氏は、自身のホームページ「山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信」を立ち上げた。

「新型コロナウイルスとの闘いは短距離走ではありません。1年は続く可能性のある長いマラソンです。日本は2月末の安倍首相の号令により多くの国に先駆けてスタートダッシュを切りました。しかし最近、急速にペースダウンしています。ウイルスに打ち克つためには、もう一度、ペースを上げる必要があります。国民の賢い判断と行動が求められています。人が一致団結して行動すれば、ウイルスは勢いを弱めます。この情報発信が、皆様の判断や行動基準として少しでも役立つことを願っています」(同ホームページより)
https://www.covid19-yamanaka.com/index.html?fbclid=IwAR2oiDC-mRA9wLgUF7U-yB0dKw1ffp49cnFYQR4VE__vuFVQm0kUbkPUpK0

このホームページとリンクして、フェイスブックページも立ち上げている。https://www.facebook.com/covid19yamanaka/?__tn__=%2Cd%2CP-R&eid=ARBeI158JiIm_CZyzojQiWOvV3RUt9K83ECmvF4HLE9l6bltlh-VUAe4Eh6_yvtHL4L6E4KzBF370IBq

東京医師会の会長、尾崎治夫医師は、Facebook上で投稿を行い、こう訴えた。
        
「もしも6週間みんなで頑張れたら」

 恐れていたことが、ますます現実に近づいているような気がします。
昨日4日には、初めて118名と三桁台に感染者が増えました。今日は、143名で更に増えています。皆さんの自粛行動が緩んだ3連休の数字が見事に出ているような気もします。

(中略)

東京都医師会からのお願いです。皆さん想像してみて下さい。
『新型コロナウィルス感染症に、もしも今この瞬間から、東京で誰一人も新しく感染しなかったら、2週間後には、ほとんど新しい患者さんは増えなくなり、その2週間後には、ほとんどの患者さんが治っていて、その2週間後には、街にウィルスを持った患者さんがいなくなります。』
 だから今から6週間、皆さんが誰からもうつされないように頑張れば、東京は大きく変わります。


2019年12月に中国武漢でその存在が明らかになった新型コロナウイルスは、4ヶ月近くたったいまも、ワクチンも治療薬もできておらず、その特性については不明な点も多い。世界中の科学者たちが必死で研究を進める一方、あやふやな情報や流言飛語、さらにいうと、マスメディアの知識不足やある種のバイアスにより、間違った報道がされるケースも数多く見受けられた。

そんななか、これまでマスメディアを介するか、記者会見を通じてしかその発言内容を細かく知ることができなかった、新型コロナウイルスの専門家やあるいは著名な科学者が、マスメディアを介さずに、情報発信を行い、啓発活動を始めた。

武器となったのは、noteであり、twitterであり、facebookであり、youtubeである。これら「だれでもメディア」時代のプラットフォームサービスの存在によって、科学者たちは自ら「メディア」となった。「科学ジャーナリスト」に、「サイエンスコミュニケーター」に、なった。

新型コロナウイルスは一種の自然災害である。こうした自然災害に対する理解と対策と撲滅と共存を図るには、その分野の専門的な知見が欠かせない。つまり「科学ジャーナリズム」が不可欠だ。そして、こうした科学ジャーナリズムの担い手は、実はもともと、専門分野の科学者自身であった。

マスメディアの発展とともに、科学ジャーナリズムはマスメディアが担い、科学者たちはそのなかでの「解説者」となった。けれども、21世紀、「だれでもメディア」プラットフォームが生まれると、こうした専門領域に関する情報発信と啓発は、再び科学者の手に直接握られようとしている。

ところで、ここに紹介した学者、医師は、政策の中枢、東京の医師会のトップ、そして日本でいちばん有名な科学者である。

彼らがなぜ機を一にして情報発信を始めたか。この裏には2つの流れがあると見ていい。

1つは、政府の専門家会議にいながら、自分たちの知見が政策に生かされていないというあせり。

そしてもう1つは、既存のマスメディアを介した報道に対する根本的な不満と諦念だ。


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