情報リテラシー論 其ノ伍

002

 そもそもSNS自体に疎い私だがそれぐらいは容易に思い出すことができた。

 Facebookである。

 「そう、そのFacebookで最近知ったんですけどね、北海道の個人経営の書店で一万円選書なるものをやっているらしいんです」

ーーーなんでも世間ではやっているキュレーションの類なのだという。

 困りごとや悩みごとを相談する感覚に近いのだろう。自分にあった本を一万円の予算で選んでくれるサービス。絶対に自分にあった本だというのだーーー絶対という言葉がついているところが、あまりにも逆に嘘っぽい。

 ただしどれだけ嘘っぽかろうと私はその話に惹かれざるを得なかっただろう。

「もちろん『絶対』とは言っても、事前にアンケートをとるだけらしいので完璧に相手のことを理解できるわけではないんですけどねーーー書店は大人気で予約が一年以上埋まっているらしいですよ」

 林檎くんはそんな風に説明した。

 口調としてはいつも通りの気楽な感じというか、そう、どうでもいい与太話をしている感じだーーーいや実際、そんなものは、気楽な与太話以外の何物でもない。

「要するにキュレーションですね。よくあるおすすめとか、知り合いかも、なんてのと同じでーーーただ、僕なんかは自由に本を選びたいので」

そんなサービスは利用しませんがね。

と、林檎くんはあっけらかんと言った。

「・・・・・・」

 できればもっと詳しい話を林檎くんから聞き出したいところだったけれど、しかし、なんとなく彼を相手に『がっついている感じ』を出したくなかったので、「ふうん」と私は聞き流すふりをしたのだった。

 それが先輩としての見栄だとすれば我ながらあまりにも器が小さいけれど、しかしどうにも、林檎くんにはそういう、突っ込んで聞きづらい雰囲気がある。

 質問するのが野暮に思える。

そんな感じで登校した私は、林檎くんとはまた違った人物にキュレーションについて質問することにした。

003

「自由ってのは、人間が抱える根本的な不自由だ」

 と。

 それでも、そいつにどう声を掛けたものか、切り出し方を迷っていると、向こうのほうから喋り出した。

 気づけば彼はこちらを見ていた。

 茶髪の詐欺師はこちらを見ていた。