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まさかのガン告白

iyamori(スナックでバイト編)

***


「ああ、yamoちゃんもちょうどいいからちょっと聞いて」と、なじみのお客様に混じって、バイトの日でもないのにその日yamoはお店のスツールに座ってママの告白を聞くことになった。


***


yamoはその日、お誕生日のお客様のためにちょっとした花束とプレゼントを用意して、バイトの日でもないのにお店に居た。

「いつもありがとうございま〜す」
「えええっ、いいの〜嬉しいな〜アリガトウ〜」
「いえいえ、お誕生日本当におめでとうございます〜〜ウフフ(なんちゃって)」
「やあやあ嬉しいyamoちゃん飲みなよ〜〜」
「わあ〜い嬉しい〜じゃあ一杯だけ〜乾杯🥂」

yamoはスナック文化のいわゆる「接客の善」とされるこのめっちゃ表面的なこの社交辞令を一通りこなして一気に疲れていた。来たばかりなのにもう疲れていた ww

はああ〜〜やれやれと内心思っていた。

すると、しかしそこへ🫵
yamoのお気に入りのお客様のK様が店に入ってきた。
息子(20歳)を伴って。
なんとyamoの隣に座った(息子はyamoの向こう隣に座った)。
そこしかもうスツールが空いていなかった。
妙に緊張した。
チっ 約束した(ただの口約束だが)のにyamoのバイト日には来ないでK様め」とも思っていた。


yamoはその日を迎える数日前からなんとなく胸騒ぎがしていた。
たまに有るのだ。そういうことが。
何か分かりやすい原因が有っての分かりやすい緊張感ではない、妙な切迫感を伴う胸騒ぎを感じる時がyamoにはたまに有るのだ。

yamoはK様が入店してきた瞬間、コレか!(胸騒ぎの原因)と思った ww

バースデープレゼントとかめんどいな〜
バックれちゃおっかな〜
なんて思いは数日前から何度もよぎったのに、なぜか胸騒ぎがして「行った方がいい」という判断で諸々準備してyamoは店に来ていた。


「なんかお久しぶりですね〜」

「ね。yamoちゃんだよね。今日はどうしたの?出の日じゃないの?」

穏やかな雰囲気でスツールに腰を下ろしながら、yamoの頭から足先までを視線を往復させて「座ってんじゃん」という視線と態度。

「出じゃないんです。。ちょっと誕生日のお客様が居て。、、てかK様こそ、、」

あっちのお客様に一杯ご馳走になっていますをアピールしながらyamoは左手でグラスを軽く上げてK様に見せて、顔を右手方向に向けて奥に居るバースデー客にニッコリ微笑んで見せた。

手なんか振っちゃったりして ww

バースデー客は飲み友達と楽しそうだ。yamoにニッコリ手を振り返してくれた。

「は!!あああ、、ごめんごめん w やっと最近ヒマが出来てさあ〜〜 ww」

「へええ〜〜😑」

「爆笑)ハハハハ、や、マジで。やっとね。仕事がね。ひと段落してね、、ww」

「や、、いえ、大丈夫です。今日会えたので良しとします😑」

「ww わかった。来る。来るよ。次はyamoちゃんの出勤の日にね」

「ハイハイアリガトウゴザイマス😑」言いながら実に楽しいyamo。

「爆笑に注ぐ爆笑)ひゃっはっはっはっは」

と、そこへママ。

「ちょっとカッちゃん聞いて。yamoちゃんもちょうどいいから聞いてちょうだい」

ん??ちょうどいい?
改まって何事かな。
と、笑って大きく開いた口を閉じてyamoとK様は居住まいを正す。

「ハイ!!では発表します!」と、あっけらかんといつものママ。

イエーイ✌️なになに〜〜?と、yamo。


「ママは、肺がんでステージ4だそうです!!」



yamoはイエーイ✌️と上げた両腕を急いで下ろす。



「でも負けません!ガンなんてやっつけちゃおうって決めています!!」


yamoもK様も何のリアクションも取れていない中でママは力強く宣言していた。

K様は「おお」とか「マジで?」とかと、なにかもしかしたら言っていたかもしれない。

「一昨日ね、病院に行ったのよ。そしたらもう手術は出来ないって言われたの」

うんうんと頷くK様に対してyamoは頷くことすら忘れていたような気がする。
ステージ4って、、と、既に気分は絶望していた。


思い起こせば2ヶ月前くらい。
冬の寒さも和らいできた頃。
毎日暑いような寒いような、今日は何を着たらいいんだろう〜なんて日が続いていた頃。

ママはやけに咳が出ていた。
1回咳き込むとむせることが多くなっていた。

「夜中に寝てても咳が出ているらしいのよね〜」
「へ?出ているらしいってどういうことですか?」
「ママは全然覚えていないの。マスターがね、咳でうるさかったって😷」
「へ?そんなうるさいほどの咳が出ていて目が覚めないってことですか?」
「んんん〜〜ぐっすり眠っちゃってるとね〜〜」

そんなことってある??
や、わからん。有るのだろう。

「1回病院行ってちゃんと診てもらった方が良くないですか?」
「そうね〜。ついこの間も腰が痛くて痛くてレントゲン撮って、ついでに骨密度を見ましょうってその検査もして、もちろん血液検査もして、どっこも悪くないですって言われてるのよ。ママはね、こんなに体は細いし毎日お酒も飲むけど健康なのよ」


って、どこが健康か!!

って話しだ。


ママの肺がんはだいぶ進行していて、左肺の後ろ(背中側)に大きく影として写ったらしい。「はいこれは間違いなく肺がんです。ステージ4です」と、写真を見た瞬間に医者に断言されたらしい。そこそんなに自信満々じゃなくて良くないですか?って突っ込みたいくらい自信満々だったらしい。

「医者もそこ自信満々じゃなくて良くないですか?」と、「言い方とかさ」と、ママに突っ込みを入れたのはyamoで、ママは、「自信満々だった。迷ってなかった。断言していたわね」と、ガン告知を受けた瞬間のことを思い出しているふうで、気が遠くなりそうになるのを寸でのところで引き返してくるような、、そんな面持ちで「ちょっと座るわね」と言いながらタバコに火をつけた ww🚬   オイ!!ママ ww


大事な発表を終えて、ママ専用のスツールに腰掛けて、自分のタバコに火をつけて(誰も止めない)、ゆっくり吸って大きく煙を吐き出すいつもと変わらないママのその一連の動きを見ながら、、yamoは泣けてきた。

ここでのバイト割と楽しかったのにな〜と、勝手に絶望して苦しくなっていた。

そしてなんとも説明しにくいが、ひどくママが孤独に思えたのだ。
ガンなんかに負けません!というあの宣言が、空元気であることがやるせなくて仕方がなかった。
ここでソレを発表する必要が有るのか?という疑問から波勢するなんとも言えないママの孤独を感じていた。

病院には1人で行ったんですか?と、泣きながら聞いた。

ガンだよって言われた時は1人だったんですか?と、鼻水を啜りながら聞いた。

マスターが一緒だったと聞いて少し安心もした。
同時にマスターは、ママの居ない所でママのことをババア呼ばわりして罵ったことを後悔しろとも思っていた。




はああ〜〜〜やれやれ。。。

K様は、「ママは大丈夫だよ!頑張れ。応援してるよ!」と励ました。
そして1本20000円のウィスキーのボトルを新たに入れて、ママをピョンと踊らせた。

yamoは、数日前からの胸騒ぎはコレだったかと納得して鼻をかんだ。


人生は、いつ何が起こるのか分からない。

誰と出逢い、誰とどこで過ごし、何を成し遂げていくのか。
何を成し遂げる必要も無いのかもしれないが、せめて残りの人生、いつでも誰かの幸せを願いたい。自分はもちろん幸せでありたい。
幸せなのかどうかが分からないことがやるせない。
今有るモノに感謝して、ムリに幸せを当てはめるのも違う気がする。


yamoは今自分がステージ4のガン告知をされたら何を思うのだろう。

死にたくないから抗がん剤治療を受けるなどしてガンと戦うのだろうか。
ステージ4だぞ?しかも肺がんだ。

ママは「戦って勝つ!」と言っている。
なぜなら、「みんながそうしているから」だそうだ。

yamoはもうそれ以上は何も言えない。
誰も何も言えないと思う。
ママが戦うと言っても言わなくても「お大事にしてください」としか言葉が思い付かない。

本当にお大事になさってくださいと思う。
元気になって、またyamoを使ってくださいって心から思う。

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