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自分にとっての室内楽

初めに書く文章として、自分が何で出来ているのかを書くのが良いような気がした。日本にいる残り数ヶ月、自分を見つめ直す良い機会として。
そして同じように日本でクラシック音楽を学び留学を考えている人や、心の底から室内楽を愛している人の目に留まればと思う。


私は9歳でチェロを始めた。
学校にある弦楽合奏の部活に入って何とは無しにチェロを選んだ。ソロを学ぶのではなく、みんなで音楽するための道具がチェロだった。始めて数ヶ月で音楽の道に進む事を決めたが、これだけでも、私を構成するものが相手ありきの要素が多いことを表している。
私の原点は室内楽だった。

9歳、もう1つの分岐点がある。パノハ弦楽四重奏団のCDを聴いたことだ。
母の車で、助手席で、ドヴォルザークの"アメリカ"を聴いた。弦楽四重奏のCDは何度か耳にしていたし、"アメリカ"はすでにお気に入りの曲だった。
今でも鮮明に覚えている。始まるヴァイオリンの16分音符、流れる景色、雄弁なヴィオラのあの有名なメロディー...別格だった、少なくとも9歳の私にとっては。一音も聞き逃さないように息を止めた。私が弦楽四重奏にどっぷりハマるきっかけに違いなかった。

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室内楽に一方ならぬ思い入れがあったとしても、音楽の道に進むならやるべき事はソロの勉強である。受験のために練習する日々の中で、残念なことに、私には弦楽四重奏を体験するチャンスはなかった。本当に求めているものを手にするための試練の苦しさで、室内楽への想いはいつに間にか薄れていた。

それを思い出したのは、大学に入ってからだった。
初めてカルテットを弾く機会があり、今まで忘れていた引き出しをまた開けた。ありがたいことに室内楽、カルテットのチャンスは先輩たちがたくさん与えてくれた。大学四年生の頃には自信を持って『室内楽の経験があります』と言えるくらいにはなっていたと思う。本当にたくさんの機会に恵まれたし、たくさんのグループに所属させてもらった。全てに意味があったと、今は確信できる。

転機は、本格的に進路を考える時期に訪れた。
2年ほど組んでいるカルテットがあった。先輩方に声をかけてもらい、私だけが学生という立場になっても細々と活動を続けていた。私は四年生になり、留学先を考え始めていた。ヨーロッパも良いし、可能性に満ちたアメリカも良い...もちろんソロを学ぶ事が大前提で、室内楽の相手は彼の地で見つけようと思っていた。日本で一緒にやっていたグループたちに不満があった訳ではなく、日本にはそのチャンスがないと思っていたのだ。

夏、新しい挑戦を求めカルテットでセミナーに参加することにした。夏休みが明ければ私はアメリカに留学の下見をしに行く予定だった。5人の教授と4つの学校と話が付いていて、夏休みはある意味1つの区切りだった。そのつもりだった。

そのセミナーの指導者はあのパノハ弦楽四重奏団だった。今でもこのセミナーに参加することを了承してくれた仲間達にとても感謝している。セミナーの候補は他にもあったが、スケジュール、自分たちのニーズ、全てがこの選択に向いていた。
はっきり言って、このパノハ弦楽四重奏団との出会いは人生でもっとも素晴らしい経験だった。この宝物の経験はまた追々書きたいと思う。憧れはすぐそこに、もはや私の中にあった。

一夏で、私の中の室内楽への情熱はぶり返した。
それは情熱よりも切望に近かった。私を構成する不可欠な要素に、やっと気がついただけに過ぎなかった。

状況は二転三転し、私はアメリカ行きをやめた。
紆余曲折の末、今私たちのレールはチェコへと向かっている。あの"アメリカ"を生んだドヴォルザークの故郷、そしてパノハ弦楽四重奏団が待っているプラハへと。自分たちでそう決めたが、どこかそう導かれているような経験だった。ドラマチックに、風が吹き続けていた。

人生は本当に何があるか分からない、そう思う一年だった。
本当に求めているものがやっとわかった。
まず、はっきりと言えるのは可能性はどこにでも転がっているという事。9歳の私は夢見がちだったがまさか、毎日飽きもせず聴き続けた憧れの人たちに弟子入りする事になるとは思わなかっただろう。
そして第二に、全ては繋がっているという事。今まで出会った友人、恩師、、家族、お客様、一緒に音楽をした人たち全てが今に繋がっている。これからもたくさんの素晴らしい出会いがあるだろうが、その全てが私を形作る予感が確かにある。

このnoteには、これから経験するであろう奇想天外な音楽生活を綴っていきたいと思う。室内楽への愛情と、得た知識、留学の記録を。

自分にとっての室内楽、それはまさしく愛情である。

・・・

今でこそ手に入りにくいが、パノハの数ある”アメリカ”の録音の中で一番好きなものだ。他の録音でもパノハ独特の爽快感と愛溢れるサウンドが耳に心地良い。

String Quartets https://www.amazon.co.jp/dp/B00064AEZQ/ref=cm_sw_r_cp_api_i_ltIUEbWPMQSGC

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古着とアートと音楽。 チェロを弾いています。 Hector Quartetとしてプラハ芸術アカデミー・室内楽専攻。雑誌サラサーテで、留学体験記『ないしょの手紙』連載中。

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コメント (4)
画像利用とフォローありがとうございます!そしてnoteデビューおめでとうございます👏笑
プラハに行かれるのですね、羨ましいと言えば気楽に聞こえるかもしれませんが、素晴らしい街なので、羨ましい限りです。笑
こちらこそありがとうございます!プラハ、楽しみです😊森口さんの素敵なお写真でさらに楽しみになりました。良い経験をして来ようと思います😊!
あなたのコラムを愛読しています。一冊の本にするという射程をもって書き続けてください。
ウオールデンさん、ありがとうございます。書きつづけようと思います。ぜひ見守っていただければ嬉しいです。
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