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天草鬼草子—滝夜叉姫編

原作 近畿怪談俱楽部(ぺるそな 三浦たまの)
登場人物
天草四郎時貞 (18)
島原の乱で一揆軍の大将に担ぎ上げられた少年。
豊臣秀頼の息子、秀綱 一揆鎮圧後首を跳ねられたが
はじめは鬼として酒呑童子に蘇らせてもらったが、鬼の気が強すぎて
一時期 世を乱れさそうとする鬼と化した。
途中で師匠に出会い心を入れ替え、酒呑童子を倒すと誓い京都に向かう
ただ自分自身も鬼を斬る事で鬼として生き長らえる事ができるという
皮肉な運命を持つため、鬼を全滅させると自然と自分も滅される事となる。
ひたすら宿敵 酒呑童子と茨木童子を追い求め
妖術師 滝夜叉姫を倒すべく戦法鬼、護法鬼と共に旅をする…

戦法鬼(35)
元は天草四郎の師匠の師匠の式神
今は四郎に使役されている。
大刀を使い鬼を完全に滅する事が出来る。

護法鬼(30)
戦法鬼と同じく師匠の式神
冷静な判断で戦うタイプ で二股の槍を使う。

師匠(65)
若い頃から色々な東洋呪術を研究していた呪術師
主に呪法と式神を使って戦う。四郎の師匠。
鬼退治をする四郎のサポートを行うが…

酒呑童子 (50)
多大な妖力を持ち、鬼を紛争地域に派遣し裏で世界を操るファクサー
それと同時に日本の妖魔を支配し軍団を作り上げた鬼の王
人間の精気を吸い取るだけでなく血肉に宿る精気を吸い取る事で
その能力を高めて居る特に若い女性を好む。
妖怪の血を啜る事で相手を重い道理に操る傀儡法と死んだものを蘇らせる事が出来る
反魂術を身に付けている。ただしこの術で蘇った者は鬼に変化してしまう。

茨木童子(35)
元は腕の立つ武将であったが
酒呑童子に気に入られ、
鬼と成って酒呑童子の右腕に成った。
平安時代に渡辺綱との決闘で腕を斬られたが
数日後に取り返して見せた。
人間に紛れ都に住み情報を集めたり。部ゆつの立つものとし合ってみたりしていた。
老坂の首に封じられた酒呑童子の首に精気を与えを蘇らせた。
鬼としての戦闘力は高く、妖魔ごときは片手で粉砕する。
現在も酒呑童子の片腕として働く。

瀧夜叉姫(25)
平将門公の娘
父が倒された恨みで京都貴船の神に鬼に成るように願い出て
呪術を使い都を地獄に変えようと酒呑童子の傘下に入った。
鬼道を使い他の鬼と化した女を使役し、四郎達を襲う。男に裏切られた女房の怨念を利用してがしゃどくろを造り
四郎達を襲う。
金剛童子(?)
酒呑童子の鬼の王の座を狙う。 その為にどんなきたない手も使う。
ずる賢く、役に立ちそうな人間には愛想がよいが使いものにならないとわかると簡単に切り離す。 常は酒呑童子の配下に居て様子をうかがっている。
大獄丸
酒呑童子と敵対する鬼の一族の頭 
酒呑童子が持つ鬼神王の印 
二天の剣を狙う。  妖魔や自分につく鬼を使い人間世界を支配しようとする
金剛童子を裏切らせた張本人。
高丸
大獄丸の片腕  酒呑童子の王の座を奪おうと画策する。 
紅葉(くれは)
信濃を支配する女の鬼 子が出来ない両親が仏さまに願い出て生まれた子
酒呑童子に惚れたが人とは付き合えんと言われ、自ら鬼となった。
鈴鹿御前
鈴鹿峠を統括する 女鬼の棟梁 酒呑童子とは協力関係を結んでいる。
鈴鹿姫とも呼ばれ 第六天魔王の娘とも呼ばれる。 見た目は18歳前後に見える。
坂上田村麻呂や田村の将軍とも結ばれたとの伝説有り。

あらすじは プロット参照
天草おとぎ鬼草子 過去編
1  週末の駅裏 午後9時ごろ
〇 現代  夜 21時頃 街灯もあまり無い暗い駅裏の線路沿いの小道。
道の提示版に犯罪防止と痴漢注意のポスター 

プロローグ
一人のOLが飲み会の帰りだろうかふらふらと駅裏通りを歩いている。
駅を降りた時はたくさんの人でごった返していたが
駅の街灯の切れかかった裏通りから横へ入ると殆ど人は居なくなっている。
アパートへ向かう道は赤い月の光だけがゆるりゆるりと照らしている。
空には普段では有り得ない真っ赤な月が浮かんでいる…
月明かりだけの暗い裏通りが目の前に続く。

駅裏の線路沿いの街灯がぱちぱちと言いながら着き始める。
柔らかい光に染まる赤い空の隙間から見え隠れする雲の隙間に
蜻蛉のような月がぼんやりと見えかくれしている。
季節は丁度冬季の始めに差し掛かる時期、空気が冷たく
凛とした感覚を皮膚に伝える。
酔っぱらった合コン帰りのOL 紺色のパンツスーツ姿でよろよろと歩いている。
呑み足らなかったのか缶ビールと乾きものをコンビニの袋に入れてぶら下げている
OL
「せっかく気分よく飲んで帰って来たのに醒めちゃったよ・・
せっかくの合コンの途中でめんどくさいメールよこすなっての・・・。マジに腹立つわ。」
どうも元カレからの愚痴メールのようだ。
ぶつぶつと言いながら自宅への道をふらふらと歩いている。
OL
「しかし、舞子のやつも、なんか腹立つ・・
人から彼氏奪っておいて浮気まがいって信じられない!!」
どうもこのOLは同僚に自分の彼氏を奪われたようだった。
その彼氏が浮気されたとメールをよこしたようだ、
OL
「しかし今日の合コン、まともなのが一人のいなかったなぁ。。。
ほんと男運悪いわ、あたし。」
急に冬特有の冷たい風がOLを襲う。
「しかし寒い。。。
昼間はまだ暖かいのに夜になると急に冷えるのは反則だっ!ばかやろー」
ぶつぶつ言いながら歩いている。酔った上で怒っているから顔が真っ赤を通り越して赤黒くなっている。
OL
「よし!気分直しに帰ってがっつり飲みなおしだ!」
そう言ってから元気で歩くOL
そんなOLの後を追うように様子をうかがいながら少し赤く見える
影がいつの間にか着いてきていた。OLは全く気付かない。
しばらく着いてきて来ていた影がふと消えた。
異様な雰囲気に気づいたのか後を振りかえる
OL
「なんだ? 誰かいるの?? 辞めてよね・・・そんな気分じゃないのよ。」
しばらくその場でじっとしていたが返事もないし何も起こらない。
OL
普段なら走って逃げるところなのだがお酒が入って居たので
強気に成っていたOLは
気配のあった方へ顔を向けながら勢いで言い放った。
OL
「ナンパならよそへ行って。今はそんな気分じゃないのよ。」
少し残念そうに月の光が映し出す自分の影に向かってつぶやいて
一人で納得したのか。そのまままたゆらゆらと歩き始める。
すると先程の影が横からするりと現れ
OLの前に回り込んでゆらりと揺れて浮かんでいる。

OLは立ち止まり、ゆっくりと確認する様に顔を上げる
先程のゆらゆらしていた影がいつの間にか、若い男になっている。
顔つきは中性ぽいのか色白でぱっと見が女性に見える
瞳が宝石のように赤く濡れそぼっている。
女のOLが見てもすごく色っぽい。そのうち彼にひき込めれている自分が居た。
それを知っているかのように此方にゆっくりと向かって来る。
影男
「こんばんは お嬢さん・・・」
OLがなにか言おうとした時、男はにやりと笑みを浮かべ微笑みながら
か細い手をゆっくり肩に回してきて、OLの首筋にキスをする。
OL
「痛い・・・」その言葉を発した後、すぐに恍惚の表情を浮かべ男に寄り掛かった。
男はにやけながらOLの身体をぎゅと抱きしめる。
OLは生気を失う様に意識が薄れていく・・・
ふわっと深く酔いが回ったような感覚を感じるほどの
気持ちよさが全身を包み込んだ…
男はその身体を抱きしめながら彼女の耳に男は優しく囁いた。
影男
「おやすみなさい・・・いい夢を永遠に。」
しばらくして男はゆっくりと首筋から口元を離した。
男のその口には青く光る液体に染まった鋭い牙が生えていた。
翌朝 午前6時半 
駅裏の路地に犬の散歩をさせていた若い女性から
通報を受けた警察が実況見聞を行っていた。 
警官A
「第一発見者の女性によると散歩中に連れていた犬が急におびえて座り込んだので前を見てみると何かが異様なものが見えたので最初大きなごみと思って近づいたらミイラ化した人の遺体だったとのことです。」
警官B
「おいこれを見ろ・・・首筋に何かで穿ったような跡が残ってる。そういや隣の管轄で
多発している若い女性を襲う妖魔の事件があったな。まさかそれなのか?
写真を送って問い合わせをしてみてくれないか?」
警官A
「了解しました。しかしここまでミイラ化させるとは、まるで枯れ木のようだ。」
警官B
「それとこの数日に起こった関連の資料もあれば確認させてもらえるように
伝えておいてくれ。」
警官A
「その旨、伝えておきます。」
警官Aは顔をしかめながらその場で乾いた枯れ木のような女性の遺体写真を
数枚撮り、隣の担当部署へ送信した。
駅裏の事件からさかのぼり、時代はようやく徳川幕府が安定しつつある3代将軍家光の時代。
2  肥後 天草 原城 
その壱
ナレーター
〇 寛永十五年の冬 天草 原城跡
島原藩、天草の領主の過重な年貢と飢饉による多数の餓死者、キリスト教弾圧
などに農民達が一人の若者を大将に反乱を起こした。
スペイン、ポルトガルの軍勢が来ると信じ
約4ヵ月戦い抜いたが、飢えと疲弊で幕府軍に攻め込まれ全滅した。


後々島原の乱と呼ばれた一揆を起こし七万もの幕府軍と戦い無残に殺された農民達の死骸が
城の至る所に転がって居る
その周りは未だ戦で放たれた矢が散乱し所々で火が立ち上ぼる。その中でものを言わなくなった者たちを過去に 
城と呼ばれた残骸や瓦礫の柱などと共にぱちぱちとした音を立てながら煙を上げていた。
その一角にひときわ目立つ山が見える。最後まで歯向かった一揆軍の幹部たちがごみくずのように積まれている

天草四郎の視線に切り替わる
血生臭い風が顔を撫でる
そっと顔を上げると右も左も今まで人で有ったモノが
まるで敷物の如くあっちこっちに転がって居た。有るものは首から上が無いモノ、
腕が無いモノ、人の形をしていないモノ…
大きな岩に押しつぶされた子供達、腰から下が無い若い女達…
焼け焦げた旗にすがりつく人だったモノ。・・・
今もこの耳に恨めしい声で助けを求める声が聞こえてくる
天草の乱のシーンは 四郎はうなだれたまま動かずに・・・ 
四郎 (M)声だけを流す
「自分の中に後悔と言う言葉しか浮かんでこない。
自分を神の子と信じていた愚かなわたしの滑稽な事よ。」
四郎は苦笑する自分の目の前の惨状が夢であってくれと心から願った。
四郎(M)
「神を信じる仲間たちによい暮らしをさせてやりたくて戦ったのに、
俺は、なんてことをしてしまったのか!
神の子と呼ばれた俺を信じて着いてきてくれた仲間たちを
無駄にその命を散らせてしまうようなことをしてしまった。。。
地獄に落ちてなお果たせぬ罪深き所業を犯してしまった。」
四郎は自分を慕って戦ってくれた仲間が
次々と無残に倒されていくのを目にしていくにつれ、神への信仰心に
疑いを持ち始めてしまい、攻めてくる数万人もの
幕府軍に抵抗する気力も無くしてしまった。力なく放心状態のところを
幕府軍に捕まった俺は他の皆より一段高い場所に居る事に気づく。
そう幕府軍は俺を捕まえこの愚かな行為をあざ笑うため
仲間の屍骸の前に晒されて居るのだ。
美男子と言われた俺の顔にはひたいからほほに掛けてざっくりと
大きな刀傷が走り、首には半分斬りこまれた傷、
身体には数本の槍や刀が刺さったまま、
ぼろぼろの廃材で作られた十字架に手足に釘でうちこまれて磔にされていた。
ときより吹く風が俺の無残な姿をあざ笑うかのように揺らしていた。

本当は武士として斬首刑にされるところを幕府は武士と認めず、
美少年と言われた天草四郎が醜く朽ち果てるまで晒しておくという
武士に取って侮辱的な刑を俺に与えた。
生臭い風に乗って仲間たちの悲鳴が戦場に響くような気がした。
そこへ大声で話しながら幕府の足軽数人が歩いてやってくる。奴らは上司に報告するためと
仲間の首を積み重ねた首塚に異常がないか定期的に確認するために見に来るのだ。
幕府軍 足軽1
「これがあの天草四郎時貞か・・・まだ若造じゃねぇか、首実験はすんだのか?」
足軽2
「お偉いさんは顔がわからんからと、実の母親に首実験をさせたらしいぞ。
母親は涙を流しながら名前を読んでいたらしいから本人とされたらしいぞ。」
足軽3
「親不孝な息子だな・・・いくら神様の言うことだからって親を泣かしちゃいけねぇな。」
足軽2
「ほうよ、素直に親孝行してりゃよかったのに 一揆なんか起こして無力な百姓を先導して全滅させちまったんだよな。」
足軽1
「なんでも穴を掘って死骸をほうりこんでその上におおきな石を落としたらしいからな、なんかのまじないかなにかかは知らんけどな。」
足軽1
「そりゃついていった者はたまらんな。骨も砕けて成仏もできやしねぇ・・
親分は首級の山の大将になっちまってるがな・・」
足軽2
「しかし今回の一揆騒動はえらく幕府が必死につぶしにかかっていたなぁ・・・
なんか俺たちの知らない裏があるんじゃねぇか?」
足軽3
「なんでも豊臣がどうのとかうちの大将がぐちぐち言ってたなぁ・・・豊臣の生きのこりがいるから殺さねばならぬって」
足軽1
「そりゃ相当やばい話かもしれんな・・・俺たちはかかわり持たん方がいいな。」
足軽全員
「確かに なんでも噂によるとその死骸に触るとえらい祟りを食らうって噂だぜ。
ほんと、くわばら、くわばら・・・」
足軽たちは青い顔をしながらその場を去っていく。
誰もいなくなった首塚の前 百姓と幕府の足軽たちの死骸で埋め尽くされた
本丸あたり  足軽の話を聞いていた四郎がつぶやく
四郎(M)
「確かに奴らの言う通りかもしれん。しかしあの時みな城を建てるためとかけられた重税にあえいで食べ物もろくに食べられず、死んでいった。
俺はそんな姿をみていられなかったんだ・・」
四郎は目から涙を流す
四郎(M)
「しかし豊臣の末裔とは誰のことだ・・・仲間にはいなかったと思うが。まさか俺のことなのか・・・確かに出どころのわからぬ護身刀を持ってはいるが」
それより不思議なのは首級になっても意識があるのはなぜだ・・・もう死んでいるはずなのに。」
これも神の力か悪魔のいたずらか、どちらにしろ俺にとってこれほどつらいものはない。」
四郎(M)
「今更だが、あの時何故神はお助けに成らなんだ。何故神の軍隊は来られなかった?
何故に我らに勝利をもたらさなんだ? この戦いが間違いであったというのか・・・
それとも神は我らを見離したのか…否神はもうおらぬのかもしれぬ。」
四郎は神を恨めしく思った。
四郎は天に向かって問いかけたが、冷たい雨が降ってきただけだった。
その目に映る光景を自分の目なのに瞑る事さえ許されず、自分の口なのに叫びたくとも叫ぶ事すら出来ぬ、
自分の無力さに打ちのめされ、ただそこにあるだけだった。
四郎はただそこにたたずむだけしか出来なかった。
その時 頭に直接響くような声が聞こえてくる。
謎の声
「四郎よ、天草四郎時貞よ…われの声が聞こえるか?聞こえたら返事をせよ。」
その時、血生臭い風に乗って俺を呼ぶ声がした。
謎の声
「四郎、果たしてお前の戦いは正しかったのか?否、お前は神の教えを信じたばかりに大罪を犯した。その罪はこの先何千年経とうが背負わなければならない。少しでもその重圧から解放されたいのならば、我らの先兵に成れ。」
四郎(M)
「笑わせる・・・ こんなぼろぼろのゴミ同然の躯に成った俺に何が出来ようか?
手一つ伸ばせず仲間達が朽ちて行く様を見続ける事しか出来ぬ俺に・・・」

謎の声
「なぜおまえは首のままでも意識があるのか考えてみよ。
答えは簡単だ、我が妖力のおかげだからだ。」
四郎(M)
「なぜにこのような仕打ちを? 素直に死なせてくれればもっと楽になれたものを」
悔しさから見開いた目に細く赤い血が苦笑した顔に流れ出る。
酒呑童子
「悔しいであろう…口惜しいであろう…
四郎…天草四郎よ。わが名をを呼べ!  酒呑童子と。
さすれば貴様を鬼としてもう一度この世に呼び戻してやろうぞ…」
その声は優しくも血なまぐささを漂わせるが今の四郎には魅力的に聞こえる。
四郎(M)
「それはお主の下部と成れという事か・・神とも悪魔とも知れぬお前に?」
酒呑童子は嫌らしい笑みを浮かべ四郎を一瞥する。
酒呑童子
「お主のようにこの世に恨みが有るであろう?恨みを晴らしたいであろう?
それをかなえさせてやる為に蘇らせてやろうと言うて居るのじゃ。」
酒呑童子はニヤリとした顔を四郎に向ける。

酒呑童子
「そしてわしと共にこの世を鬼の世界にしようではないか。人間共に復讐しようではないか。」
四郎(M)
「何故俺を誘う。ただ恨みを晴らすことだけではなかろう。これでも一度は神に仕えた者、その魂胆が見えぬうちは乗れぬ。」
酒呑童子
「実はわしも昔一族をあらぬ疑いで滅ぼされたことがあってのぉ・・・都で親に捨てられた小さき子らもたくさん居った。本当にわしによくなついてくれていた。
そんな子らも奴らはわしと一緒という理由だけで容赦なく鬼子と呼んで
斬り捨てよった。あの時の流した涙は今でも忘れん。」
酒呑童子はゆったりと目の前に広がる無数の骸を見て悲しいい顔付きで
四郎を見て言う。
酒呑童子
「お前もそうであろう? 大事な仲間をゴミ屑のように斬り捨てられ、自分もまたそのような姿で人目に晒されておる。」
酒呑童子はその大きな目を見開きながら四郎を見る。
その迫力ある顔つきに少し悲しげな表情が見え隠れする。
酒呑童子
「わしも最後は首級をはねられ、都でさらし者になるところだった、そこを最後の妖力で、ある峠に自分の首を縛り付けたのだ。」
四郎は静かに聞いている。
酒呑童子
「その峠に縛りついて待ち続けた・・・それを何百年もかかって茨木が蘇らせてくれたのだよ。 奴は自ら傷つきながらも全国の武者や術者に挑み倒し妖力を奪っていった。それを俺に少しづつ注ぎ込んでくれてな・・今じゃ元も姿に戻った。
その中の術者に反魂術を持つものが居ってな。
それを同じ境遇のやつを探してつこうてみようと思ってな。
それが四郎、おまえじゃ、お前に試してみようと思って京からここまで来た。」
そういうと酒呑童子は懐から何かを取り出した。
酒呑童子
「これは鬼心反魂酒と言ってな…
普通の反魂酒とは違い、鬼が不死身に成れる酒だ。
これにわしの気を練り込んである。今からこの酒を飲ませてやる…
ただし人間が使えば死ぬほどの苦しみと全身の痛みがおまえを襲う事になる。
しかしそれを耐え抜けばわしと同等の鬼の力を身に付けて蘇る事が出来る。
だがもしその苦しみと痛みに耐えられなければ溶けて水となろうぞ。」
四郎
「一度朽ち果てたこの身、もう恐れるものは何もない」
苦笑いしながら四郎は答えた。
酒呑童子
「どうだ四郎 試してみるか?鬼となって復讐するかそれともそのまま朽ち果てるか。おまえが決めよ。」
四郎(M)
「奴らを倒せるなら地獄の苦しみさえ耐えてみせる。たとえ鬼になろうともな。
そしてこの世の妖魔、鬼を殲滅してやろうぞ。」
酒呑童子
「ふん 良い覚悟だ、さすがはあれだけの軍勢を指揮しただけある。
酒呑童子は大きくうなづきながら、四郎に血鬼反魂酒をゆっくりと飲ませた。
途端に苦しみだす 四郎  

酒呑童子
「四郎よ、楽しみに待って居るぞ。そして再びわしの目の前に現れてみよ。 その時
我は鬼の王となってお前の前に姿を現すであろう。その時はおまえが我を倒すのだ。よいか、天草四郎時貞よ。」
酒呑童子は霧のように消えて行った。
四郎
「必ずや蘇ってみせる…たとえ鬼になろうとも、そして酒呑童子、お前の前に立ちはだかってみせる。」

しとしとと降る雨の中、四郎は天に誓う。それにこたえるように
四郎の身体に青白い一筋の雷が落ちた
3  海上の船
穏やかな波に揺られ
酒呑童子と茨木童子が都へ向かう船に乗り込んでいる。
茨城童子
「天草四郎は蘇る事が出来るでしょうか? 見た目はまだまだ小姓のように見えましたが・・・」
酒呑童子は海を見ながら酒を飲んでいる、
茨城童子
「酒呑童子様 あんなに焚き付ければ本当に奴はわれらの命を狙うやもしれませんな・・・それはそれで面白い事になるでしょうが。」
酒呑童子
「そうしてまでも蘇らせんといかんのだ。これからのわしには奴の力が不可欠なのだよ。 誰の手助けもされずに鬼と成った天草四郎がな。」
暗転

4  幕末の京都 三条大橋のたもと
情景設定
 紺色のライトに月が浮かぶ
それから幾百年…
幕末の京都  討幕の嵐が吹く都に一人の洋装の侍が現れる
幕府側、勤労志士に関係なく鬼の気を背負ったものを容赦なく斬り捨てていた。
京の人々は噂した、「京の都に鬼を斬るモノ有り、名を天草四郎と言う。
傍らに式神 鬼を滅する刀を持つ鬼と二股の二天の槍を持つ鬼を連れて
今日も人を食い殺す鬼どもを狩りに来る・・・と」
時代は幕末期 幕府を守ろうとする人鬼とそれを倒そうとする人鬼。疑われれば仲間
で有ろうが斬り殺される時代、酒呑童子にとってこれほど好ましい時代は無い。それ
ほど日常に殺戮と策略が飛び交って居た。 

ナレーター
時たま首が疼く時が有るがそんな時に限ってその夜は、血生臭い夢をみる…
俺はどこかの大将で負け戦をしたらしく部下が全滅している。しかも正式な兵では無いのか武器もまともに揃って居ない。相手は数も此方より数十倍多い上に連戦の強者ばかりだった…俺は捕まり首を跳ねられ、異常に迫力のある鬼に何かを飲まされ苦しみでもがいているところで目が覚める。
何時見ても気分の良い物では無い。
戦法鬼
「四郎、汗びっしりじゃねえか。また昔の夢を見たのか、戦の夢ほど嫌なものはないな。」
戦法鬼とは俺の師匠の元式神で
今は俺に仕えてくれている。
大刀を使い鬼を完全に滅する事が出来る。
体術も得意で昔はどこかの名のはせた武将だったらしい。
護法鬼
「とにかく汗を拭かないと風邪を引くぞ…鬼が出てきても戦えんぞ。」
護法鬼が布地の切れ端をくれた。俺はそれを受け取り冷や汗をふいた。
毎回ながら冷たい汗と脂の中に血の匂いが混ざり合ったような汗だ。
護法鬼とは
戦法鬼と同じく師匠の元式神
冷静な判断で戦うタイプ で二股の槍を使う。
彼も元どこかの武将だったらしい。
戦法鬼と護法鬼は元々俺の師匠が使役していた式神で、鬼と戦うならと俺が術式と共に継いだのだ。
師匠
「四郎、その夢はお前の消えかけた記憶がよみがえりつつあるのかも知れんなぁ。」
師匠は若い頃は相当な術師だったらしく俺に呪術と体術の修行をつける為に一緒に旅をしているが色々と口うるさい。 年も数えるのが嫌になるくらい取っている。
幕末京都 今日も暗い街かどで暗殺や謀殺が行われているであろう。
午前3時 三条大橋の袂、月がねっとりとした黄色に見える。
戦法鬼
「しかしこれだけ毎日そこら中で殺し合いしていると、どれが鬼の仕業が
わかりゃしねえな。俺は幕府だが志士だが鬼なら斬るだけだがな。」
護法鬼
「確かに…これじゃ平安以上に物騒な街になっちまってる。町の人たちも安心してくらせんだろうな。さっさとけりをつけてもらわんとこっちがやりにくくてたまらん。」
四郎
「この荒れた時代も戦を起こしたい奴らをうまく使って鬼が仕掛けたのかもしれん、そういうところは茨木が長けている。」
それに答えるように少し血なまぐさい生暖かい嫌な風が吹いて来た。
戦法鬼
「そういや噂でこの先の山に
毎夜、妖(あやかし)が出て人を襲って喰い殺すと鬼が出るって町のやつらが話していたのを聞いたぞ 四郎。」

師匠
「奴らは自分の糧に無差別に人を食うために襲うからな・・。一度襲われた人は使役鬼にされ使い捨て去れよる。」
戦法鬼
「町の者が言うにはなんでも女の妖(あやかし)と言っていた。大きな妖魔を使うそうだ。」
四郎
「もしかしたら鬼どもの館になってるかも知れない。行ってみる価値あるな。」
握る拳に力が入る。
護法鬼
「此処からだとそう遠くも無い…しかしあそこは由緒有る神社が有るはずだが。」
師匠
「何故妖(あやかし)が湧いて居るのか、もしや結界が緩んで来て居るのか、そいつらを捕まえて色々聞いてみるのも良いかも知れん。」
四郎
「しかしあの神社は昔から節分などで鬼祓いの儀式を行われている筈だが…
もしかして、この戦乱で出来ずにいて結界が破られているのかも知れない。そういう土地は結界がないと奴らの力をためる絶好のばしょだからな。」
遠くにその山が見えているが、ぼんやり赤黒い光がチラチラと
光っておるが 神域には到底見えない。 ときより怪しい雲がゆらゆらと揺れている。
師匠
「どちらにしても、一度行かねば成らんよのぅ、鬼の巣窟には間違いなさそうじゃ。」
と腕を組みながら呟いた。
護法鬼
立ち上がりながらつぶやく 
「行きますか…吉田神社へ」
戦法鬼
「そうだな…このままだと日本中が鬼に支配される。それに神域を汚す鬼どもを倒しにいかんと。」
四郎
「奴らに繋がろうが繋がらんだろうが鬼は倒すべき相手…行こう。」

3人はそのまま鴨川沿いを上り、今は魔が住み着くと言われる
京都で唯一の断層で出来た山、吉田山へ向かった。
鴨川から一条通りを東側へ向かうと街並みの中にまるで闇に巻かれたような
妖が蠢いて居るように見える。時々唸り声のような声が響いて居た…
5  吉田神社 境内  夜 
参道に続く道 気配を消しながら歩き進める4人
あちこちから瘴気と獣の臭いが立ち込めている。
たまに人間らしきものの残骸が落ちているのを野犬が食い散らかしている。
ナレーター
昔神域とされ都の人々からも敬われた土地がどろどろの
鬼どもの気配に満ち溢れている。
戦法鬼
「奴らの臭いがする。妖(あやかし)と鬼の臭いが…まったくいつ嗅いでも嫌なにおいだ。」と牙を剥いて呟いた。
護法鬼
「神聖なる土地とは思えん…これが日本の都とはな・・・まるで地獄のようだ。」
護法鬼はいらつきを隠しながら呟く。
師匠
「神社があったとは思えん程の瘴気に満ち溢れてる・・・なんとも言えん気持ち悪さだ。」
四郎
「俺にも解る位、ドロドロした感覚が伝わって来る…血なまぐさい臭いと人の脂の臭い。それに重なって人の悲しさと怒りが混じり合っている。」
そんな悪意に満ちた空気感の満ち溢れた参道を進み石造りの
大きな鳥居を潜り抜けた。
そこから先は普通の人なら気が狂い鬼に成りたくなる程の瘴気と獣の臭いが
参道の周りから染み出てくるように思えた。
歩みを 一歩進む度にそれをひしひしと感じ取れる…
鳥居をくぐり山の上にある拝殿に進むと脇から人の型をした黒い靄が這い出て
こちらへ向かってくる。
山などで人を襲った鬼が正にこの靄のような鬼なのである。
師匠
「食われた人達が鬼の使役にされた姿じゃ…このままじゃ成仏も出来ずに
使い捨てられて朽ちていくだけじゃ。」
彼等は喰われながら妖気を浴びて傀儡として操られ最後は霧となって朽ち果てる。
護法鬼
「やつらどれだけの人を食ったんだ?
どんどん這い出てきやがる…これは相当骨が折れるぞ。」
戦法鬼
「参拝にきて鬼に食われたなんて洒落に成らんな。・・・これは斬って浄化させてやるしか道は無い。」
戦法鬼は大きなギラギラした刀を抜くと靄の中に突っ込んで行く。
護法鬼
「仏のご加護を・・与えたまえ!」と護法鬼も二天の槍を振りかざし後に続く。
戦法鬼と護法鬼は気の鎧を身にまとい靄を防ぎながら斬り進んでいく。
斬られた靄は明るく光り天に登って行くのである。
師匠
「これで浄化出来て、また生き物に生まれ変わることができるじゃろうて。」
師匠は小さくつぶやいた。
四郎 
天草家に代々伝わる宝剣を取り出す。
四郎は代々家に伝わる刀をゆっっくりと引き抜いた。
通常の刀より幅の太い刃が斬ると骨まで食い込むといわれた刀
骨食藤四郎(ほねはみとうしろう)である。
先祖の形見と聞いていた。刃渡りが太く飾り彫りがしてあった…
ナレーター
通常刀は真打ちと影打ちと二本打つのだが
1868年に再興された京都豊国神社に真打ちは納められている。
四郎の持つ藤四郎は影打ちだが、沢山の武将や戦を潜り抜けて来た名刀で有る。
元が長刀として粟田口で打たれたので普通の大刀より刃幅が太く
その重さ故扱いにくく、猛者でないと自分を斬りつけてしまう。

だが四郎は見た目は女性らしく見えるがやはり武将の子である。
靄と化した人々にゆっくりと歩み寄り、舞うかの様に
一人、一人を斬り伏せて行く、斬られた靄も蒼い光に成り天に帰る。
四郎
「これだけ斬っても目の前の瘴気はまだ晴れぬのは、鬼の居る証…」
瘴気に塗れた参道に沸く靄を斬り伏せながら進む
ようやく靄が切れると今度は醜い鬼達が両脇の参道からわらわら湧いて来た。
こいつ等はひとを酷たらしく食い荒らす、
それが例え生きていようが死んでいようが…
特に生きたままを好む習性が有るので食われた人々は次々と靄と成り
人々をおびき寄せる為に鬼たちに使役される。
四郎
「このままだと都に入り込んでいくだろうそうなる前にこの地獄絵図を止めて見せる。」
四郎は華麗に踊るかの如く鬼たちをも斬り裂いていく。
戦法鬼
「この刀が有ればこいつ等など敵では無い。見事切り伏せ天に返して見せおうぞ。」
護法鬼
「この鬼共は欲を満たす事は無い。このままだと都に入り込んで、
人々を喰らい尽くすだろう。それを止めるは我々也」
この二人も四郎と共に鬼と長年戦ってきた。
人を食らった鬼はその罪の深さで斬られると靄のように天には帰れず、
黒々しい土に成りはて二度と蘇る事は無い。
斬り伏せながら進む一行の目の前に大きな変わった拝殿が見えてきた。
その前では数人の女房の姿が見えた。
6   拝殿前
ご神木が見える拝殿前の広場

目の前に沸く鬼どもをひたすら斬り伏せて狂い踊りしている女房へ少しづつ
近づいていく。
女房達が生前着ていた綺麗な着物をはだけながら鬼を食らいながら
踊って居る。その中心で高笑いする一回り大きく見える女房が居る。
戦法鬼
「周りの女房とは違う、どこぞの女房どのか。美人では有るが嫌な感じがする。」
護法鬼
「いくら見た目は美しくとも、その身からの魔の臭い湧き上がっているわ。」
四郎
「平将門が娘、滝夜叉姫…鬼となりしもの。」
師匠
「滝夜叉姫 
父親の仇を打たんと貴船の神に願い出て数日で
妖術遣いの鬼神と成り居った女。手ごわいぞ。」

師匠は青ざめたような表情で滝夜叉姫を見て言った。
瀧夜叉姫と呼ばれた女の周りには恨みつらみで鬼と化した
女房が一層激しく狂ったように踊り出す。
師匠
「さては妖術にて蘇らせた平安の鬼女達じゃな。 どれもこれも旦那衆に深い恨みを持ってあの世に行ったものばかり。」
四郎
「橋姫、鉄輪の女房、そして六条の君…」
護法鬼
「滝夜叉は女房達の恨みの念を利用して都を魔に染めようと企んで居るようだな。何としても止めないとこの国が滅びる。」
四郎
「踊りが激しく成るにつれて毒々しい力が大きく増して来るのが分かる。」
護法鬼
「このまま手をこまねいていたら、俺達でも止められん様に成るぞ。」
そう話している間にも三人を包む瘴気が膨らんで赤黒く光り出す。
一つの塊になると大きな目がぎょろりと動きながら鬼を見つけると
塊の中から何本もの手を伸ばし、周りの鬼を掴みがつがつと喰らいだした。
師匠
「凄まじい瘴気を放っておる! 
もしかしてきゃつらは何かに変化しようとしているのかもしれん!」
瀧夜叉姫はその様子を見てニヤニヤとしている…美人だが
今はその顔が憎らしく思える。
まるで仲間をも食い物にするあの鬼の王と呼ばれた酒呑童子を彷彿とさせる
笑いを満面に浮かべている。その笑みを見るや四郎の目が鋭く変わる。 
全身を震わせながら、うなりを上げるその口から牙が生え爪が鋭く伸びていき
瞳が黄金に変わり鬼の姿に変化していく。
四郎は変化しながら呪文のような言葉をつぶやきながら滝夜叉をにらむ。
四郎
「鬼は我が敵、鬼は我が糧、鬼は我が身なり…故に滅すべし。」
四郎はゆっくり中段に構えを取って鬼の女房へと歩を進めていく。 
戦法鬼が横目で鬼と変化していく四郎を見つめながら。
護法鬼
「まずい・・・四郎が鬼の瞳をしている。このままじゃ本物の鬼になる。」
護法鬼が慌てるように四郎の後を追う。
師匠
「瘴気で悪鬼だった昔の記憶が蘇ってきておるのじゃ。
下手したら四郎自体が敵になるやもしれん。」
師匠は昔の四郎が鬼と成って暴れていた時を知っている。
戦法鬼
「ちっ なんとか成らないのか?…奴が鬼に成って暴れ出したら手が付けられん。」
焦りが3人を襲う。
護法鬼
「神仏も酷な事をする…こんな時に心に宿る鬼を出して来るとは…。」
師匠
「これも定めなのかもしれん。四郎次第で神にも鬼にも成る。鬼としての宿命よ。」
師匠は苦々しい表情で言う。

戦法鬼
「それでも止めなければならん。」
護法鬼
「同じく 奴は仲間だ 何とかするのが俺たちの役目」

そうしているうちにも四郎は黄金の鬼の瞳をぎらつかせ
踊り狂う女房達に向かっていく。
その女房達を守ろうと自らが食われながらも鬼達はわらわらと
飛び付きその鋭い牙で四郎に噛みついてくる。
四郎は獣のように唸りながら変化した鋭い爪の生えた手で鬼を裂きながらはがしていく。 足元には鬼の屍骸である黒ぐろしい土の塊がそこら中に出来ていく。
戦法鬼
「花のような秀頼殿を鬼の真田が連れて退きも退たり鹿児島へ」
昔を思い出したかのように口ずさみながら刀を構え掛かってくる鬼どもを斬っていく。
護法鬼
「左右衛門左殿の童歌か…懐かしい。」
にやりと口元に浮かべ槍で鬼どもをなぎ倒していく。
戦法鬼
「なぁに 昔に良く口ずさんだ歌でな。わしの唯一の思い出よ。 」
二人は女房達に迫る四郎の後方を守る為鬼の塊に向かって行った。

6 死闘編
唸るような咆哮を上げて四郎は周りに絡みつく鬼を斬り伏せていく。
見る見るうちに四郎が真っ赤に染まっていく。
周りの鬼を掴んで喰らいながら女房達は四郎の太刀を長い尖った爪で
掴み取る。
その間も女房達は鬼を喰らう度にその身をうねらせよじりながら恍惚の表情を浮かべる。
師匠
「瀧夜叉姫め、あの女房達でがしゃを造るつもりじゃな、面白きことを。」
師匠はまるで他人事のようにつぶやく。
その女房達に戦法鬼が上から太刀を喰らわすが
跳ね返された。四郎が掴まれた刀を身を捻りながら横から力込めて振り抜いた。
すると一人の女房の首が飛んだ。護法鬼がそのすきをついて
低い位置から槍で薙いだ。
戦法鬼も刀で女房をなでる様に斬り裂く。
袈裟斬りと言うには少し違うが確実に一人の女房を二つにした。
瀧夜叉姫はその姿を見ると、残った女房を招き抱き寄せると印を結び
呪文を唱える……
滝夜叉姫
「たった三人でここまでやるとは見事じゃ…じゃがこの先我が隷に主達はどう戦う?」
そう言うと抱かれた女房は先ほど斬られた女房達に腕を伸ばして掴み取ると
喰らい始める…瀧夜叉姫はその残った女房に再び呪文を唱え始める。
女房は己を守るべくが如く、瘴気を再び撒き始める。
残った女房はバキバキと音を立てながらその身体を膨らせて行く。
着物が裂け肌が露わに成るが膨らみ続けると肌が裂け落ちていく。
中から骨が見え始めると瀧夜叉姫は
胸から一つの鈴を出し振り鳴らしながら一段と大きく呪文を唱えた。
滝夜叉姫
「ふるべ、ふるべゆらり・・ゆらりとふるべ・・・ひと、ふた、み、よ、いつ、む、なな、や、ここの、たり、」
滝夜叉姫はひたすら呪(しゅ)を唱えながら鈴を振り続ける。
師匠
「ぬ・・・古神道の御霊振りの法か。
滝夜叉姫
「我は命ずる。がしゃどくろよ、いでよ わが前にいでたまえ…」
女房達の身体が原型をとどめなくなるほど膨らんでいき巨大で真っ赤などくろ姿に成った。
元々は朽ち果てた人々の怨念が凝り固まって骸骨姿に成って人を襲う妖怪だが、
瀧夜叉姫は巨大な怨念を持つ女房達を依代にして大きなどくろの化け物を造りだしたのだ。
滝夜叉姫
「我が隷、がしゃどくろじゃ…倒せるものならばやってみよ。」
そのがしゃどくろは優に山一つ分位有る程の瘴気がうねうねと巻きつけ まるで蛇を纏って居るように見えた。
戦法鬼
「なんと・・・でかい化け物をだして来たな・・・滝夜叉姫。」
がしゃどくろは交互にその腕を伸ばし、戦法鬼と護法鬼を鋭い指先で
刺し貫こうとする。その度に爆音と共に地面に大きな穴が開く。
その穴から、がらがらと音を立てて魑魅魍魎が這い出して来る。
それをがしゃどくろはむしゃむしゃと大きな顎を動かし
食いだし飲み込む。その度に赤黒く鈍く光る。
護法鬼
「這い出て来た魑魅魍魎を食って自分の力を高めていやがる。」
がしゃどくろはゆっくりとその身を起こしぎしぎしと関節を鳴らしながら近づいてくる。
戦法鬼
「奴の弱点は右目の中にある霊(たま)、何かの本で読んだことが有る・・・」
見るとがしゃどくろの奴の弱点と言われる右目がぎょろりとこちらをにらみつけて来る。肋骨の間から胸の辺りに動く肉塊が微かに見える・・・奴の心臓らしい。

護法鬼
「あそこまで一気に上がるか、奴を屈ませて潜り込むか…」
護法鬼が低い体制から構えを取るが鬼どもが邪魔をしてくる。
戦法鬼
「ふん」
大きく振り被ると目の前の鬼どもを切り倒して行きながら、がしゃどくろの弱点へ攻める道を模索する。
その間も周りの魑魅魍魎を食らい続けるがしゃどくろが、メリメリと音を立てて
もがきながら上半身が3つに分かれていきそれぞれ腕が生えた姿で
こちらを攻撃してくる。
護法鬼
「弱点が分かれた・・・どれが本物なんだ?」
戦法鬼
「ちっ、めんどくせぇ・・・完全体の阿修羅型に変わりやがった。」
がしゃどくろの攻撃を避けながら弱点を探す。
護法鬼はその動きから左側の右目がわずかに明滅しているのに気づく。
護法鬼
「もしかして・・・」
師匠
「こりゃまたえらいモノに変えよったな…わしも見たことは無い。」
無意識で斬りかかろうとする四郎にがしゃどくろが払いのける様に腕を振った。
飛ばされた四郎は拝殿前にあるご神木に激突した。
ゆるりと四郎はがしゃどくろから目を離さず立ちあがる。
戦法鬼と護法鬼は近づこうとするが四郎は片手で制止し、ご神木を支えに立ち上がる。
身体をぶつけた衝撃でどこかをやられたのか
息苦しそうにしている。
四郎
「奴はもうすでにがしゃどくろですら無い…怨念の塊だ…完全に滅する他に手はない。」
師匠
「あの姿にされた女房殿が不憫過ぎるよのぉ。」
四郎
「戦法鬼と護法鬼は左右の脚を薙ぎ払え、俺がそのまま飛びついて潜り込む。」
四郎が再び金色の瞳を輝かせると刀が蒼い光を帯び出す。
戦法鬼、護法鬼も同じく
戦法鬼
「鬼を滅するが為、天草四郎が式神、戦法鬼参る!」
護法鬼
「同じく護法鬼、この世の悪しき鬼払い申す!」
戦法鬼と護法鬼は左右に分かれ
がしゃどくろの左右6本の腕から繰り出す攻撃を身を翻し交わしながら上手く間合いを計り足元に近づいていく。
戦法鬼が大きく下方から跳ね上げる様に刀を斬りつけると
左足首をはらい斬った。
護法鬼が強く踏み込んで右側を上から斜めに斬りながら差し貫いた。
がしゃどくろはゆっくりと前かがみになる。
四郎はその隙間から本体に足を掛け一気に頭めがけて走り出す。頭蓋まで登りきると渾身の力を込めて刀を叩きつけた。ばきっと言う音と共に
がしゃどくろが苦しそうに叫び声をあげる。
そのまま一気に明滅している左目目掛けて斬り裂く。
がしゃどくろは画像がぶれたように三人の女房の姿に分裂しながら崩れ倒れた。
がしゃどくろ(三人の女房)
「くやしや、かなしや、くやしや、かなしや…くるしや・・・うらめしや・・・」
そう言いながらどんどんと崩れ落ちる様にしてその姿が消えて行った。
滝夜叉姫
「我が隷が、がしゃどくろを倒すとは、面白き武者じゃの。」
四郎
「それがわが使命なり。」
滝夜叉姫
「そうかお主、今世は鬼を倒す鬼だったな。天草四郎時貞」
四郎
「この世の全ての鬼族を滅する事が、同じ鬼としての能力を身に付けたモノとして
蘇った俺の役目」
滝夜叉姫
「その能力も鬼族を倒し続ける事でその命をつなぎとめる事が出来る・・・」
四郎
「しかたなし、あの原城で犯した俺の大罪の贖罪と成るのもまた運命よ。」
戦法鬼
「我らは瀧夜叉姫、鬼を操るぬしを滅する為に今此処に居る。」
滝夜叉姫
「久しいのぉ…そのような事を言うてくれる輩は。」
瀧夜叉姫は笑いながらゆっくりと此方へ歩いて来る。
四郎は戦法鬼と護法鬼を手で合図し後ろに引かせて1人で前に出る。
戦法鬼、護法鬼
「四郎 滝夜叉姫の呪術に気を付けろ。」
四郎
「瀧夜叉姫よ、お前の中の鬼を滅するが為立ち向かう者の名は天草四郎時貞。いざまいる
。」
滝夜叉姫
「天草四郎 伴天連の命(めい)で己を信じた者共の魂を迷わせた愚か者
それに加えて自ら鬼と成り運命を狂わされたものよ、見事我を討ってみよ。」
四郎
四郎はふと口元に笑みを浮かべ
「残念ながら神を信じた天草四郎は死んだ。今の俺は鬼を食い殺すだけの鬼。神の加護など受ける事は無い。」
そう言うと刀をゆっくり下段に構え低い姿勢で瀧夜叉姫に向かって行く
戦法鬼と護法鬼は四郎の背中を守っている。
四郎
「改めて言う、 瀧夜叉姫わが刀で滅するが良い。」
滝夜叉姫
「ほほう・・・ゆうたな。主のその覚悟我に見せておくれ。貴様の鬼としての覚悟をな。」
瀧夜叉姫も父の形見の太刀を振りかざしながら、四郎へ向かって走り出す。 砂埃の中、二人の影が交わると火花が数回飛び散る。
瀧夜叉はゆるりと四郎の太刀を交わしながら、身に隠した鬼の牙を暗器のように飛ばすと四郎の身体に突き刺さる。毒でも仕込んであるのか四郎の身体から力が抜けていく。
滝夜叉姫
「ぬかったな・・・その牙はおぬしの精気を吸い取り、やがて枯れさせる、さすがの鬼でも耐えられまい、残念だったの天草四郎。」
四郎はけして滝夜叉から目を離さず、その牙を抜き取っていく。
四郎
にやりと笑いながら
「滝夜叉よ。それくらいで絶えるようなら酒呑童子は俺を選ばんよ。」
と一歩強く踏み込んだ瞬間に低い姿勢から瀧夜叉姫へ胴払いを入れる。
刃が食い込むのを手に感じ黒々しい血潮が吹き出す。
滝夜叉姫
「四郎 貴様も鬼、我も鬼まだ倒れるわけにはいかぬ。」
瀧夜叉姫の美しい顔が少し歪む。
四郎はそのまま返した刀で肩口に斬り入れる。
瀧夜叉姫は片手で刀を受け止めながら近づいた四郎を抱き寄せ再び暗器を撃ち込んだ。
四郎 小さく呻く。
口から血が流れ出るが、まだ意識は落とさずに滝夜叉を見つめる。
ふいに二人を襲う一陣の刀。
それを滝夜叉が身を入れ替えるように受ける。
四郎がその太刀を放った者を見ると先ほどまで一緒に鬼を退治していた師匠がにやりと嫌な笑みを浮かべていた。戦法鬼と護法鬼は
師匠の手で術式を解かれ紙人形と化していた。
師匠
「すまんのぉ…四郎。大獄丸様の命にておぬしとそのおなごにはここで土に還ってもらうぞ。」
滝夜叉姫
「大獄丸様・・・我はあなた様の為にこのような姿に成り果ててでも果たそうとしたのになぜ?」
師匠
「瀧夜叉姫、おぬしは良くやった。
大獄丸様の代わりに誉めてやろう。こうして鬼の天敵、天草四郎を仕留める事が出来るのじゃからなぁ。これで大獄丸様の宿敵たる酒呑童子を追い込むことも出来るわ。」
四郎はこの師匠の顔をした鬼を見つめた。
金剛童子
「儂は大獄丸の使いの金剛童子。鬼の純粋な一族よ。」
四郎は滝夜叉をかばいながら金剛童子に尋ねる。
四郎
「師匠はどうした? 生きているのか?」
金剛童子
「あのじいさんか…色々と面白い術を使って居ったが、所詮儂の敵では無かったのう。 今頃は犬のえさにでも成って居るじゃろうてわははははは。」
四郎
「貴様・・・貴様だけは許さぬ。」
四郎は吐くようにつぶやく
金剛童子
「女をかばいながらどうやってわしと戦うつもりじゃ。笑わせてくれるわ。」
金剛童子は余裕をかました笑みで二人をあざ笑う。
四郎
「滝夜叉姫 しばしここで待っていてくれぬか。」
滝夜叉姫は苦痛で顔を歪めながらこっくりととうなずいた。
四郎
滝夜叉をゆっくりと近くの木にもたれかけさると短く呪を唱えた。
金剛童子
「結界で囲ったか・・・まぁ良いわ。そのおんなは後からじっくり楽しませてもらう。」
四郎
ゆっくりと金色の瞳で金剛童子の方へ向き直る。
四郎
「よくも師匠や仲間を・・」
金剛童子
「四郎よ、良く見よおぬしの姿、今まで食らってきた鬼そのものじゃて。」
四郎
「構わぬ。 たとえこの身が鬼と成ろうとも貴様のような卑怯者を滅せるならば我は本望。」
金剛童子
「笑わせるわ。もともと人間であったまがい物風情が抜かしよるわ。」
そういうと金剛童子も本来の鬼の姿に戻る。
その大きな手に握った大きな刀が握られている。
金剛童子
大きく息を吸い込むと大きな体を
四郎の左手に回り込み切り込んできた。
四郎は素早く右へさばきながら突きを入れる。
金剛童子は大きな体躯を身軽に飛び跳ね避けたが四郎の返し刃が肩口からざっくりと切り裂かれた。
金剛童子
「ぐごぉ・・・傷口が塞がらん、なぜ塞がらんのだ。 
まさか、その刀粟田口の呪入りかっ!」
通常の刀ならば傷口が直ぐに塞がるのだが、四郎の刀は刀匠が鬼の力を封じる呪を込めて
打った逸品、流石の鬼でも傷は治らない。
四郎はそのまま刀の背を金剛童子の右足に叩きつけた。その痛みと恐怖でその場から逃げようとする金剛童子に渾身の蹴りを入れよろけた所を一気に斬り裂いた。

四郎は事切れた金剛童子を認めると鬼の姿のまま瀧夜叉姫に近付くき
優しくゆっくりと抱き寄せた。
四郎
「滝夜叉姫・・・」
滝夜叉姫はそっと目を開けた。
滝夜叉姫
「愚かよのぉ、父の仇が討てると言われ大嶽丸を信じた己が愚かしい。本当に情けない。」
四郎
「しばらくは痛みが残るだろうが、鬼はこの位の傷なぞ直ぐに治るはずだ。」
滝夜叉姫
「四郎、我は鬼では無い…実は、なまなりでな。だからおぬしの様な鬼の様に治ることはないのじゃ。」
四郎
焦りながら必死に何とかしようとする。 
滝夜叉姫
「多分今世はもうこの身体は持たぬ。
だがある方法で救うてくれるなら魂は助かる。そうすれば来世でもう一度生まれ変わる事が出来る。」
四郎
「解った、その方法を教えてくれ。
どうせ俺もこの身はもう持たぬ…俺自体は鬼を倒すまで何度も蘇って呪われた運命を持つだがそれもおぬしと出会えるならば少しは楽になる気がする。」
滝夜叉姫
「・・・」
滝夜叉姫は不安そうに見るが四郎の決意は変わらない。
四郎
「心配するな、必ずうまくいかせる・」
滝夜叉姫
「解った、わが法と主の身についた反魂術を使ってお互いの魂を結びつける。そうすれば来世で人として蘇る。但し瀧夜叉としての意識は無くなる。そうすればまた敵としての縁がつながるやもしれんが。」
四郎
「そうなればまた戦うまでの事。俺の倒すべき鬼はいつの世も居る。」
四郎は不器用な笑いを浮かべた。
滝夜叉姫
「おぬしも我もお互い重い物を背負って居るからな…」
滝夜叉姫も弱弱しく笑う。 続けて滝夜叉姫が言う
滝夜叉姫
「四郎。必ず来世では血縁の者を護る式と成ろうと誓うぞ。」
四郎、
「滝夜叉姫、もし俺が来世で悪鬼と成った時は必ずお前が俺を倒してくれ。」
四郎は瀧夜叉姫と共に呪を唱えて行く…
その言葉が大きく成るにつれて
2人はキラキラと光りながらまるで桜の花びらのような光の粒と成って舞っていく。
ナレーター
「俺は鬼を食らう鬼…いつの世になっても必ずまた蘇って鬼を食らい続ける。」
しかしその様子をうかがう一人の鬼が居る事を二人は知る由もない。

現代 天草楓の家

「ふ~~~~ん 四郎にもロマンチックなコイバナ有ったんだ。」
四郎
「楓、お前、俺の事どんなイメージ持ってんだ?」

「え?ただのナンパ好きの派手な兄ちゃん。」
四郎
「・・・いや、あの、楓さん? 一応これでも歴史に名を遺した人なんだぞ。」

「うん、知ってる。授業で習ったから。」
四郎
「だったらもう少し尊敬してもいいと思う訳よ。四郎さんは。」

「はいはい、わかりました。ところでその後滝夜叉姫とは出会ってないの?」
四郎
「出会ってるよ・・・。」

「まじ?私の知ってる人?」
四郎
「知ってるも何も何時も居る。」

「まさか・・・・あの人?」
楓 笑いころげる。
四郎も笑い転げる
夜子
「呼んだ?」
びっくりする二人。



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