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増田悦佐『増補改訂版 クルマ社会の七つの大罪 自動車が都市を滅ぼす』土曜社

クルマによってアメリカが落ちぶれたということを論じた本である。著者は、元々は株式アナリストとして、投資関係の著書が多いが、現在では文明評論家を名乗っている。

馬車なんか持てない身分だった下層民の多くが「馬なし馬車」(自動車)なら持てる一般大衆になって、よりしあわせになった。だからこそ、アメリカは多くの移民を受け入れながら驚異的な文化統合をやってのけ、どんなに貧しい人間にも自助努力さえすれば、経済的・社会的・文化的に上昇するチャンスのある国として光り輝いていた。

しかし、アメリカ社会の荒廃が、クルマさえ持てない社会的弱者のパーセンテージを上昇させているという。しかも、アメリカ人の8割以上は、自動車がなければ身動きができない空間に分散して住んでいる。

クルマはエネルギー浪費型の交通機関だという。自動車が浪費する石油量は机上計算では鉄道の6倍である。そして、スペース浪費型の交通機関でもある。道路や駐車場のスペースがかかる。交通事故の犠牲者も減らない。

クルマ社会の非常の重い罪は、行きずりの共同体を崩壊させたことだという。行きずり共同体とは、しがらみのない共同体で、ふらっと入った居酒屋の客の集団などのことである。行きずり共同体による緩やかな監視が犯罪の発生率を非常に低くするという。詐欺スレスレのクルマの過剰修理や、自動車事故犯罪などが起こる。

クルマ社会になり、家族の枠に閉じこもって、隣近所とのやり取りがほとんどなくなっているともいう。家族の孤独化も進んだという。

著者は、大衆社会の階級社会化、味覚の鈍化、自動車産業の衰退、統制経済の大衆動員、電気自動車・水素燃料批判について解説している。その論考の中には、少し同意し難い部分もあるが、アメリカの状況を知るためにはよいかもしれない。

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