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コロナウイルスは今後5年間で世界をどのように変えるか?|山をおりる Newsletter Vol.05-06

Photo by Akira Hojo on Unsplash

山をおりる Newsletter Vol.05(2020年7月15日配信)および Vol.06(2020年7月29日配信)より転載

YwO Newsletter Vol.06|「The New Normal」について


Haruguchi:
今回(Vol.06)は、Vol.05(本記事の下部に転載)で配信した「The New Normal」について話したいと思います

ここで扱っている「The New Normal」は、グローバルメディアのQuartzが、アカデミア、アート&デザイン、ビジネス、食、政府&非営利団体、ヘルス&サイエンス、メディア、テック、各業界の専門家に「コロナウイルスは今後5年間で世界をどのように変えるか?」と質問し、その回答をまとめたシリーズ企画です。山をおりる Newsletter Vol.05 では、このうちアカデミアとアート&デザイン分野の記事を抄訳しました。

「ニューノーマル」という言葉はよく聞くようになりましたよね。この言葉自体に何かイメージすることとか感じることはありますか?

Nakatsuka: 僕としては、むしろ「ニュー」じゃない普遍的なものはなんだろうって考えさせられました。なんというか「ニュー」として示されてるものの多くはコロナ以前からあったものが顕在化したものがほとんどだなぁって印象なので。

H: めっちゃわかる……

N: あと「ノーマル」って純粋に想像しにくいなって。。
多分40代の方と僕が抱いている「ノーマル」って結構な乖離がある気がします。

H: すでにいろんな論点が出ましたね。

・「ノーマル」の多義性
・「ニュー」の新規性
・「ニューノーマル」の普遍性

このへんをテーマに話してみましょうか

「ノーマル」の多義性


H:
まずひとつめ「「ノーマル」の多義性」について。

日本語にすると「普通」だけど、とても強い言葉だと思います。意味がひとつに固定されて、強要させるような印象を持ちます。
普通=白人男性としていた社会にNOを突きつけたのがBLMだとすると、昨今の「ニューノーマル」以前のノーマルが何だったのか、という議論が求められるのかも?

中塚が上の世代と比較して乖離があると感じている「ノーマル」はどういうイメージですか?

N: 僕の場合は、情報空間に対する接し方の違いってところが大きいです。身体の一部のように情報空間を扱ってるか、どうかの点で根本的な感覚が違うなという。

それは「個人」の在り方にも大きく紐づくと思っていて、慣習や組織に属さない人格を持っていると思うんですよね。そのうえで人と付き合うというか。

だから自己表現をしつつ、誰も傷つけないりゅうちぇるが若者から人気になる、という。

H: 今回の配信分だと、カリフォルニア大学のハニー・ファリド氏がフェイクニュースや陰謀論について言及してましたね

自己表現と情報の身体化が社会にどう受け入れられるか、という話として受け取りましたが、それはやはりテクノロジーの変化によるところが大きいんでしょうかね?

N: 大きいと思います。成長する中で手本にする対象が、周りの大人だけからネットを介して世界中の人に広がるので、影響があるのかな、と思ってます。

文化進化論を調べる中で、人は学ぶ対象が多いと習熟の精度が上がる研究結果がありました。

ファリドさんの言葉を借りると「テクノロジーとの接し方が変わる」というのは、次の世代が僕らを参照しながら、すでに起きていることでもあるんだと想像してます。

H: Discordの #conversation で前に話したみたいに、TikTokのようなテクノロジーの進化にすでにぼくらはついていけていないですからねw

N: そうそうwあのスピードと脈絡無さについていけてないw

H: テクノロジーの変化も含めて「ノーマル」の暴力性には注意しつつ、よりポジティブに「普通であること」をとらえようとしてきた歴史はいくつかありますよね。ジャスパー・モリソンと深澤直人の「Super Normal」とか。建築でいうと51C型とかですかね

(何度もいうけど)暴力性には留意しつつ、その普遍する性質をポジティブに読み取ろうとする態度は、個人を社会に結びつけるある種の方法なのかもしれないなと思いました。

N: 最近だと、角尾さんがツイッターでそんな話をされてました。国によって、アノニマスなデザイナーが多い、少ない、もあるとか。

そうすると、民芸に近くなってく感がありますね。「普通であること」の範疇が、デザインはより広く抽象的で、民芸は特定の文化や工法に閉じたもの、という違いはあるのかもしれないけど。

あと社内のアプリの開発・デザインの現場なんて見てると、すごく人に対してフラットと言うか、それこそ思想としては「普通」が根底にあるような気がします。

H: なるほど。それは市場というかユーザーのペルソナを開いておくみたいな感じですか?

N: そんな印象です◎

H: 藤村さんたちの『リアル・アノニマスデザイン』のなかで、松川昌平さんが「ポリオニマス・デザイン」について書いていて、副題が「匿名性と顕名性の間としての多名性」だったんですよね。そうした「開かれた普通」みたいなものをデザインしようとする姿勢は、今後重要になるかもですね

N: 多名性はまさに興味深い単語です!

それを情報の伝達と発展と考えると、メディア論の地平でデザインもネットも議論できるんじゃないかとこの本を読んで思っていた次第ですw(話がそれていくww)

H: おーなるほどおもしろい!ちょっとまたこれについても別の機会に話しましょうw

「ニュー」の新規性


H
: ではそろそろふたつめ「「ニュー」の新規性」。かんたんにいえば「なにが新しいねん」問題ですねw 頭では日本政府の「新しい生活様式」を想定していました

ことさら新規性に価値を置く風潮についても議論すべきだとは思いますが、中塚が「コロナ以前からあったものが顕在化した」というものは、たとえばどういうものですか?

N: 特に身近に感じているリモートワーク化は、以前より変わらない問題なのと、人種、格差についても同様に以前からの問題だなぁという印象でした。

H: ペンシルバニア大学のマウロ・ギリェンさんは「歴史の加速」だといってますね

N: 加速感は確かにありますね。

H: これも、新たに生じたものではなくこれまでの不満の噴出だという意味では、ある種の若い世代の反発や身体性がダイレクトに社会に届いているようなものなのかなーとも思いました。アーティストのジョシュア・キタレラさんがいうように、アメリカではZ世代の政治的な動きが顕著に見えたり

ぼくはまだ加速主義を追いきれていないのでうまく言及できないんだけど、そういう議論にも近いのかな?

N: 加速主義まで言っちゃうと少し、大げさかも…?

起こすべき変化を起こそうとする動きと、変化を正義とする加速主義(僕も追えてないので勝手な印象です)は線引きをしておいたほうがよさそうですね。

ただ、変化する道筋はどういったものであるべきか、の議論をしても良いのかなと思いました。

例えば、感染症と都市自体が紀元前からの問題、みたいな話もあって…
今、ハードとしての都市がその加速どうついていく道筋があるのか、というのは考えてもいい点かもしれないと思いました。

H: たしかにそうですね。ニューノーマルについて話されることはソフト面のことが多い印象があるので、ハードとしての都市がどういう道筋を行くのかは考えてみたいですね

ナビーラ・アラバイさんやケラー・イースターリングさんは、具体的に「空間」について言及されていたのが印象的で、いま起きていることの検証から次の都市をどう加速(ドライブ?)させるかという話をもっと聞きたいですね

N: そうですね。バルセロナの都市生態学庁のように、変化の中でリアルタイムに観測し、都市エコロジーのマネジメントを行う組織は、今後とても参考になっていきそうです。

ここは、以前このチャンネルで話したスーパーシティの話と繋がる話題です。

H: やはりこうした政策×デザインの領域は「ニュー」を感じますね。ハラリとタンの議論は刺激的でした

N: この記事、積読してたのですが、少し読んでみて面白いなと思ったのは、テクノロジーによって自身のマイノリティな側面が支えられた、という達成感というか、そうしたポテンシャルに対する気づきのようなものがお二人に共通してますね。

これは、単なる気付きではなくて、ある種の全能感というか、世界に対してポジティブに向き合えるような感じなんだと想像します。(僕がゲイバーで真剣に女装してみた時に感じたようにw)

春口さんから紹介頂いた「アナキズム 一丸となってばらばらに生きろ」にもそんな話があるんですね。

この記事は、そんな方が政治を行い、市民にも同じような体験が得られる制度を作ろうとしているお話なのかな?と妄想してみると、それが成立すると、EXITを感じさせるのかもしれない。そんな期待感が刺激的なのかもしれないなぁと思いました。

H: そう!アナキズムとデザインや都市との関係についてはどこかで触れておきたいなと思ってます。

>テクノロジーによって自身のマイノリティな側面が支えられた、という達成感
これは大きそうですよね。メディアとしても考えておきたいところです。

「ニューノーマル」の普遍性


H: ではみっつめ「「ニューノーマル」の普遍性」にいきましょうか。

すでにひとつめのところでノーマルの普遍性(あるいは多名性)については話しましたが、「ニューノーマル」の普遍性を考えるにはどうすればいいか、という議論が求められるのかなーと思います。

ハーバード大のブルース・シュナイアーさんがいうような、社会システムに冗長性や非効率性を取り入れられれば、日常がシフトしたときにも対応できるレジリエンス的な都市の能力にもつながるのかなーとか。

これ、科学技術社会論(STS)を議論に導入してみよう、みたいな話なのかもしれないですね。

これもちゃんと理解できていないので、勉強しないとですね……

N: STSは言葉として初めて見ましたが重要な領域ですね。ANTの土台になったと書かれていて、興味が湧きます。

冗長性や非効率性の導入は、短期的には経済的なメリットが無いように思われるので、中長期的なヴィジョンの浸透がより大切になりますね。

H: STSは超重要な議論になるのでいつかちゃんと勉強しましょう!

たしかにそうですね……たとえばコロナを機にコンタクトトレーシングを経て監視社会へのシフトがいっそう強まったけど、良い悪いは置いておいて、監視社会の中長期的ヴィジョンを考えよう、となると建設的な議論になりそう

N: そうそう。ネットでも色んな対策案やそれに対する意見がありましたが、それぞれ短期-中期-長期の意見がごちゃ混ぜになっているのが意見の相違のように見せている気がしました。

そして、都市の話はハードの問題なので、すぐには変化できない中長期的なものに紐づいていくべきなんでしょうね。分野を横断した情報整理学の実装、というか。。

H: 中長期的な議論を継続するには、STSやトランスディシプリナリ・デザイン(transdisciplinary design)のようなある種の分野を横断するための方法論が必要なんだろうね

ニューノーマルを長期的に考えるという意味では、ベンジャミン・ブラットンが「COVID-19パンデミックがもたらした変化のほとんどは、ポストCOVIDとしてではなく、たんにニューノーマルにおける正常なものとして名付けられるだろう」と示唆するのはおもしろかったですね。言い換えれば、ニューノーマルのニューはいずれ取れる、ということですよね。

彼はロシアのストレルカで2017年の段階でその名も「The New Normal」プロジェクトをディレクションしていて、分野を横断したうえで議論をつづけることを重要視しないとなと思えます。

山をおりる Newsletter Vol.01 で話していた、線形でないコレクティヴなメディアのあり方にもつながっているような気もして、がんばろうと思いますねw

N: ふむふむ。そういう意味だと媒体が中長期か、短期か、どちらだけで分断されてしまうかも?

ユーザーからすると、中長期的な議論と、短期的な議論をうまく架橋していくメディアがあると親切設計ですね。両方に等価の普遍性を与えてあげるという感じで。

H: 親切設計いいですね笑 ジャーナリズムとの距離感というか関係性をそこで考えたいっすね

Vol.05配信分でほかに気になるテキストありましたか?

N: 僕はマウロ・ギリェンさんが人口動態とテクノロジー採用の関係について言及しているのが興味深いです。

個人的にはソフトの変化は時間をかけるもので、今あるテクノロジーをどう採用するか、はすぐにでも運用を考えられそうだな、と。
ただ、監視社会みたいな矯正具という感じではなく、補装具のようなテクノロジーの運用があるんじゃないかと想像しました。

H: 補装具か、いいですね。テクノロジーにすべてのっかるのではなく、共生していくような視点ですかね

N: そんなイメージです。

算盤をやったら暗算が早くなるじゃないですか。あれって算盤というテクノロジーが頭で計算するフレームを提供してくれるんですよね。そういうテクノロジーの導入が生まれてくるとよいなぁと。

H: ハラリとタンの議論にもそういうフレームのイメージがありそう

N: たしかに。お二人にはテクノロジーを通して見えている世界があるのかもしれないですね。

H: ぼくはさっきも触れたナビーラ・アラバイさんが、国家だけでなくそれぞれの自治体の長の役割が重要視され、市民の意思決定への参加によって地方自治体が「知識や能力を届けるために民間セクターや市民社会への信頼を増す」と指摘しているのは胸熱でした。日本でも自治体ごとの対応に差があって、なるほどー🥰と思っていたので

これはオードリー・タンが若林さんからのインタビューで話していたことにも符号していましたね

N: そうですね。

それに途中でアノニマスの話題から、開かれたデザインへつながったのも近いものがあるのかもしれませんね。また、開かれる、といってもマイノリティも含めた次元に広がってるのが、現代なのかもしれないです。

H: おーたしかにいまっぽいかも。多名性の論考、読み直してみよう……

というわけで、今回はこんなところでしょうか!

N: そうですね!

H: 山をおりるの今後やりたいことのブレストみたいにもなって、良き会でした!ありがとうございました〜👋

N: ありがとうございました!

H: Quartzの「The New Normal」がすごいところは、複数の分野にまたがった複数の著者が寄稿しているところ。今回のひとつめの話題「「ノーマル」の多義性」でも話したように、ひとつの意味に矯正してしまうような「ノーマル」の暴力性に対し、複数の「ノーマル」を提示することで、Normal のオルタナティヴな風景を見せてくれる。ぜひ読み比べてほしい。LINK

またQuartzは日本のビジネスニュースレターメディアとして「Quartz Japan」を展開している。こちらも要チェック!

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*下部にQuartz誌「The New Normal」アカデミアとアート&デザイン分野の記事の抄訳がつづきます。

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YwO Newsletter Vol.05|The New Normal 1|コロナウイルスは今後5年間で世界をどのように変えるか?

ある日、いつものようにRSSのフィードを読んでいたら、Quartzの記事がやたらと多いことに気づいた。大量投下されたそれらの記事は、どうやらCOVID-19に関連した記事であるらしいことはわかった。「The New Normal」と銘打たれたこのシリーズは、Quartz編集部がアカデミア、アート&デザイン、ビジネス、食、政府&非営利団体、ヘルス&サイエンス、メディア、テック、各業界の専門家に「コロナウイルスは今後5年間で世界をどのように変えるか?」と質問し、その回答をまとめたものだ。ぼくたちはこれから、この「あたらしい普通」に適応しなければならない。

日常とはとつぜんに変化する。COVID-19はそれをまざまざと見せたわけだけど、もっと小さな変化が、すこしずつ日常を変えていくことだってあるだろう。ぼくたちは「終わりなき日常」を生きて久しいけれど、変えるべきものを変えるために、残すべきものを守るために、ぼくたち自身の「あたらしい普通」を見きわめる必要があるのかもしれない。

今回は第1弾として、アカデミアとアート&デザイン分野の専門家による回答を概括し、日本語に訳出した。要約によって各テキストの詩的な表現は一部捨象されているし、そもそも正確な翻訳を目的としていない。識者たちが未来をどのように考えているかに触れるための一助になればと思っている。各サマリーの末尾に記事のリンクを付しているので、気になるものがあればチェックしてほしい。

複数の分野の、複数の著者による「あたらしい普通」の集積は、固定された Normal のオルタナティヴな風景を見せてくれるはずだ。

The New Normal - アカデミア


エリザベス・カリッド・ハルケット(Elizabeth Currid-Halkett)
南カリフォルニア大学公共政策大学院教授

コロナウイルス感染症は単なる病気ではない。株式市場の暴落、膨大な失業者数、そしてジョージ・フロイドの殺害と、世界中の都市で起こった警察の残虐行為への抗議活動……。現在を記録したいくつもの事実や数字は、この数ヶ月で人びとが経験した悲しみや不安などの感情を凌駕しない。ものや数字ではなく、人の関係性、権利、ちがいはあれどともに社会を良くするためにできることにこそ、焦点が当てられると信じている。 

ハニー・ファリド(Hany Farid)
カリフォルニア大学バークレー校教授(電子工学、情報工学)
ソーシャルメディアは、世界中の人びとにとってニュースの主要な情報源になっていると同時に、ヘイトや分断、誤った情報、そのほか違法な行為であふれている。COVID-19は、人びとが陰謀論や誤報に、オンラインを介して多くの時間を費やしていることの問題を明確にした。こうした議論は、ますます頼りにするようになったテクノロジーへの私たちの見方や接し方を変えることになるだろう。 

マウロ・ギリェン(Mauro Guillén)
ペンシルバニア大学 Wharton School 教授(経済学)

COVID-19によるパンデミックは、歴史の加速を生み出している。高齢化を考えてみれば、今回のパンデミックは失業率の急激な増加を誘発し、経済の不確実性に直面すると夫婦は出産を先延ばしにするだろうし、渡航制限などにより移民は減少、結果として人口の高齢化は加速し、社会保障など政府プログラムの財源不足への早期是正をうながすだろう。少子化やリモートワークの傾向が強まることを前提にジェンダー・ダイナミクスを考えれば、男性よりも女性のほうが在宅での労働に適応し、女性の賃金や昇進の可能性も高まると考えられる。今回のパンデミックは、とくに高齢者や小規模な組織においてテクノロジーの採用を加速させることが予想される。現在進行中の人口動態の変化とテクノロジーの採用が相互に作用しているからこそ、COVID-19の影響は永続的で深遠なものになるだろう。

アンバ・カク(Amba Kak)
ニューヨーク大学 AI Now Institute 国際戦略プログラム ディレクター

技術解決主義(Tech-solutionism)は後退するだろう。社会的弱者への権利擁護活動は、テックジャイアントや政府へのプライバシー保護の要求から、中央集権化され説明責任のない技術インフラに代わるオルタナティヴへ、その焦点を移すことになる。 

ブルース・シュナイアー(Bruce Schneier)
ハーバード大学 Berkman Klein Center for Internet & Society フェロー、ハーバード・ケネディ・スクール公共政策学講師

私たちはこれまで経済の効率性を重視してきた。余分な在庫、小規模な仕入れなどは非効率的で、無駄だと考えられてきた。しかしCOVID-19は、非効率は安全の保障であることを教えてくれた。過剰な生産能力や冗長性に助けられたし、私たちはグローバルで単一なサプライチェーンではなく、地元のサプライチェーンを必要としている。効率的なシステムは、経済へのショックに対処する能力が限られている。気候変動、金融危機、政治危機、そしてパンデミックなど、頻度を増す世界的な危機から持続可能な安全を確保したいのなら、システムに非効率性を取り入れる必要があるのだ。 

サレイ・マルティネス + セス・ホルムズ(Sarait Martinez & Seth Holmes)
オアハカ州先住民コミュニティ開発センター 理事長 / カリフォルニア大学バークレー校(文化・医療人類学)

今回のパンデミックを経験したのち、農業従事者の地位と待遇を大きく変化する。パンデミックのあいだもその前も、農業従事者は医療従事者などのエッセンシャルワーカーたちに、家で隔離されている人たちに、COVID-19から回復した人たちに、食料を提供してきた。農業従事者が私たちの健康と福祉を守るための強力な存在であることが理解されたいま、労働者として、また人間として、彼らの権利が尊重されるべきだ。パンデミックののち、国家はレイシズムや外国人恐怖症の発生を取り消すために、個人的、対人的、組織的、制度的な作業をはじめるだろう。私たちには、農業従事者だけでなく、社会のすべての人たちが、立場に関係なく、それぞれにふさわしい尊厳、社会包摂、権利を確実に享受できるようにする責任があるのだ。 

The New Normal - アート&デザイン


ナビーラ・アラバイ(Nabila Alibhai)
カルチュラル・プロダクション・ラボ inCOMMONS 創設者

1. レジリエンスのアート
アートや創造性は、あたらしい現実(a new reality)のなかで自分自身を再定義する助けにもなる。コロナ禍において多くの人びとがクリエイティブに取り組むようになったことは、未来への長期的な影響を持つことになるだろう。想像力/創造力は、私たちが直面するあらゆる不確実性を乗り越えるレジリエンス(回復力)のための批判的能力なのだ。
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2. コロナにかたちづけられたコミュニティ
あらゆる階層において、パンデミックはあらためて「空間」の価値を浮き彫りにした。恵まれた人びとにとっては住宅の質の向上への投資が多く見られ、ベランダや家庭菜園など開放的な空間が一般的になるだろう。家の外に目をやれば、徒歩や自転車で15分圏内のコミュニティが台頭し、共有資源と公共空間の再開発が進んでいる。人口密度の高い地域では、公共空間はより重要な活動の場になっている。
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3. 都市のフロントライン
今回のパンデミックでは、不平等の可視化、国家や制度の欠陥など、問題の普遍性が強調される一方で、その解決にはより地域に根ざした対応が求められている。市民の幸福を維持するうえで、それぞれの自治体の長がより重要な役割を担うようになった。意思決定への公的な参加は、地方自治体が「聞く」ことに長けるだけでなく、知識や能力を届けるために民間セクターや市民社会への信頼を増すことを意味するようになるだろう。

ベンジャミン・ブラットン(Benjamin Bratton)
カリフォルニア大学サンディエゴ校 視覚芸術学教授、同大学 The Center for Design and Geopolitics ディレクター、ストレルカ・インスティチュート「The New Normal」「The Terraforming」ディレクター

COVID-19によるパンデミックによって、だれもが疫学者になった。このことは、人間社会の文化的実践が不連続に何千もの種を媒介するウイルスに覆い尽くされる、疫学における人類学的ビジョンを持ち込んだ。
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体液の状態を1時間ごとに定量化することは、これまでは糖尿病や心気症患者にとっての関心事だったが、今後は日常生活の標準になるだろう。バイオメディカルのスタートアップ企業は心理学/統計学的に対象へ特化した診断プラットフォームを提供し、民間のデリバリーサービスは自宅から研究所まで大量の体液を運ぶための新しいプロトコルを開発しなければならなくなるだろう。
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ワクチンの開発に成功したあと、予防接種のサイクルが政治的行為へと変化し、だれがワクチンを打つのか/打たないのかが論争の的になるだろう。
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遠隔ロボット技術の発達により、アメリカの都市の産業はほかの大陸にいる人を容易に雇用できるようになり、それと呼応してロボットはさまざまな政治的動機により悪用されることになるだろう。
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都市に対する家のインターフェイスは再構成され、複数のセルが集まった「大きなロッカー」のモチーフから、より気密化が進むと同時に、永住者のみがアクセスできるより多元的なオープンコモンズへ変化するだろう。
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個人の健康状態の計測技術が発達し、アップルとナイキはスマートマスク市場で最大のシェアを獲得するだろう。
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COVID-19パンデミックがもたらした変化のほとんどは、ポストCOVIDとしてではなく、たんにニューノーマルにおける正常なものとして名付けられるだろう。

ジョシュア・キタレラ(Joshua Citarella)
アーティスト、スクール・オブ・ビジュアル・アーツ 非常勤教授

アメリカが安定した時期を脱したため、Z世代(Gen Z)が早くから政治化している。COVID-19やBLMなど政治的に重要な瞬間のそれぞれが私たちのアイデンティティをかたちづくり、立場の選択をせまる。このウイルスは文化的ナショナリズムを強化し、重要なサプライチェーンの再構築を急がせる。しかし最大の影響は、アメリカの無能な政治に対する、透明性の高い一般市民の理解に表れるだろう。

ヒラリー・コタム(Hilary Cottam)
作家、イノベーター

パンデミックの喪失感と深い苦しみのなかで、自発的な社会基盤のあたらしいかたちが生まれてきた。危機を乗り越えるための組織が存続することは期待すべきではないが、あたらしい連帯に参加した何百万人もの人びとが支援の喜びやつながりを忘れないことは確かだ。イギリスでは、戦争という危機のなかで、同じようなことが起こった。第2次世界大戦は19世紀の社会システムのもろさを露呈し、他者がどのように生きているか、正義とはなにかという前提をくずした。人びとは貧困の現実を知り、その根源が怠惰にあるのではなく、より複雑な構造的・文化的障壁にあることを知った。今回の危機において、ふたたび互いを知る経験をすることで、21世紀型の社会システムにすこしでも近づくことができればと願っている。

ケラー・イースターリング(Keller Easterling)
建築家、作家、イェール大学大学院 環境デザインプログラム ディレクター

COVID-19は、白く、不平等で、無力な政府を暴くX線であり、気候変動の危機のためのリハーサルでもある。こうしたマインドは、あたらしいデジタル技術、計量経済学、法など、複雑な問題を分離し解決しようとする技術的な言語に権威を与え、いまもっとも危険な結果──「あたらしい普通」を確立しようとしている。COVID-19は、政治的、法的、学問的な境界線のすべてを横断して、相互に依存する要因の観察を必要としている。コロナ禍において、距離をとる、手洗い、顔を覆うなど、非常にシンプルで信頼性の高いプロトコルの組み合わせによって、空間的、医学的、行動的なエビデンスを構築している。しかし私たちは多くのもののあいだで複雑なプロトコルをデザインしているはずだ。そして空間は、「普通でないもの no normal」を探す、相互作用のプロトコルのための大きな混合室なのだ。

アディー・ワーゲネヒト(Addie Wagenknecht)
アーティスト

私はより良い世界の不可能性について聞きたくない。とくにあなたがその世界をつくることに積極的に参加していないのならなおさらだ。パフォーマティブである必要はない。コロナ禍、そしてジョージ・フロイドの死へのプロテストが同時に起きているいまのこの時間を失うわけにはいかない。これは蜂起だ。私たち全員が行動に移す必要がある。

フォレスト・ヤング(Forest Young)
デザイナー、アーティスト、ブランド・コンサルタンシー Wolff Olins 国際プリンシパル

私たちはいま、世界的な公民権運動と長引くパンデミックのなかで、集団による生活の営みを経験している。黒人や褐色のコミュニティが不釣り合いな影響を受けているのは、彼らがエッセンシャル・ワーカーとして求められ、自らの家族を養うためにリスクの高いサービス業に耐えているからだ。したがってプロテストの激化は、何世紀にもわたる抑圧的な制度をしかれてきたコミュニティにとって、特別なコンテクストに結びついている。経済が復活し、警察の改革がおこなわれた5年後、私たちはこんにちの犠牲を振り返ることになるだろう。私たちの未来の記憶の中心になるのは、死に値する仕事への深い理解なのだ。

第2弾につづく ── H

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Photo by Paul Earle on Unsplash

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