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第十夜 『二つの文化と科学革命』  C・P・スノー

「人びとの知的生活はますます二つの極端なグループに分れつつある。

 文系か理系か、それが問題だ。

 そう大騒動するのが、高校生の通過儀礼。あたかもこれが生涯を左右する運命の分かれ道であるかのように。

 それほどの大問題なのか疑問はあるけれど、ともあれ文理の別ということについて深く掘り下げて論じたのが、20世紀の英国を代表する知性の一人、C・P・スノー。

 科学者であり、官僚経験もあり、評判をとった小説をいくつも書き、世のあらゆる事象を語る評論家。マルチな活動をしていた彼は一九五九年、ケンブリッジ大学で開かれる年に一度の公式行事「リード講演」のスピーカーとなった。そこで為された伝説的な講演が、「二つの文化と科学革命」。その全編と後日の考察を収録したのがこの本になる。

 スノーの講演が、なぜ歴史に残るものになったのか? それは、現代人が直面する課題を正確かつ簡潔に取り上げ、はっきり目に見えるかたちで提示したから。ここでいう「二つの文化」とは、文系と理系のこと。両者の溝を埋めるのが急務と主張したのだ。

 スノーいわく、文学的知識人と科学者のあいだには、無理解の大きな溝が広がっている。

 文学的知識人から見ると科学者は、生きるうえで大切な「人間の条件」に気づきもせず、浅はかな楽天主義者だという印象に映る。

 逆に科学者からすれば文学的知識人は、先見の明を欠き、同胞に無関心で、根本的なところで「反知性」的に思える。

 両者には、共通言語も見出せない。文学的知識人に「熱力学の第二法則について説明せよ」と言ってもできない。こんなのは科学の基礎的素養であるというのに。いっぽうで科学者に「あなたはシェークスピアのものを何か読んだことがあるか」と問うても、ひとつも読んだことはないと答える。文学における古典中の古典であるというのに。

 教育の専門化が進んで、文化がすっかり分離してしまったのだ。生きた文化を目指すには、これを再び融合させなければ。二つの文化間のギャップをなくしてこそ、知恵をつかってものを考えていく、知的でバランスのいい社会を築いていける。

 というのがスノーの主張だった。なるほどこの問題意識は、もちろん21世紀になった現在も重要なまま。学生の身に置き換えれば、文系か? 理系か? と進路を決めていくのは必要だけど、受験に関係ないからといって専門以外の教科や知識をないがしろにしてはいけないということだ。

 人間的成長には広い教養が必須なのだし、狭いところにしか視野が届いていないと、肝心の専門分野でも結局は成果が上がらなくなってしまうのである。


二つの文化と科学革命

C・P・スノー 

みすず書房

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