見出し画像

味噌汁にもやしを入れるのは思考停止

味噌汁。それは定食の脇役である。あくまでメインのおかずとご飯を食べている合間にすするもの。そんな認識を多くの人が持っていると思う。

しかし思い返してもらいたい。定食が出てきて一番最初に口にするのは味噌汁ではないだろうか。少なくとも僕はそうだ。なんなら僕は定食の最後の締めも味噌汁である。基本的にはご飯とおかずは同じように食べ進めていくが、ラスト一口のみおかずを残しておく。そのおかずを噛みしめ飲み込んだ後に残った味噌汁をすする。これが僕の思うベストの食べ方である。最初と最後が味噌汁なのだ。

つまり味噌汁とは定食の玄関である。その家に訪れたときに初めて見るのが玄関であり、最後に別れの挨拶をするのも玄関である。玄関が汚い家はその他の部屋も全部汚い。玄関にどっかの地方で買ってきたよくわからないお土産を置いているような家は他の部屋もそういうセンスで構成されている。味噌汁もそういうことである。定食屋の星の数は味噌汁が決めているといっても過言ではない。ちなみに僕の玄関には物をできるだけ置かないようにしている。星をつけられるのが怖いからだ。


話が変わるが、僕が働いている職場は新橋にある。サラリーマンの聖地、新橋。僕は飲食店の多さがゆえに聖地と呼ばれていると思っている。
仕事終わりに飲みに行くのはもちろんのこと、なんといっても大事なのはランチ。仕事の合間のひと時の休息...ランチ。午後の仕事への活力の源...それがランチ。ランチなしには仕事はない。つまり仕事はランチ。ランチを食べに出勤している。時間がなくて食べられないときは働いてないのと同じ。無職である。無食であり、無職である。

そんな日々のランチに重きを置いている僕だが、それゆえに失敗したくなくて、行きつけの店ばかりに行ってしまう。しかしせっかくランチ聖地にいるのだからいろいろな店に行きたい気持ちもある。だからたまに新しい店舗のドアをたたく。聖地の中にあるまだ見ぬ宝を探しに行くのだ。文字通り冒険の始まりである。


つい最近同僚と一緒に行ったことのない店に向かった。同僚が行ってみたかったからという理由でつれて来られたその店は古い駅ビルの地下にある。その時点で少し不安を抱いていたが、とりあえず注文してみる。注文したメニューは、から揚げと牛カルビのダブル定食。名前は完璧である。新橋のおじさんの大好きなもの2つが一緒になっている。キャバクラで女性にちやほやされながら、後輩に「俺の時代は~」と仕事の説教をするみたいなものだ。

しかしそこで出てきた定食についてきた味噌汁の具はもやしだった。
もやし?もやしだけはおかしい。別にもやしが嫌いなわけではない。なんなら大学時代はもやしを毎日食べてた。お金がないというのもあったが、ウェイパー(中華風だしの素みたなもの)とあえてナムルにすると絶品でむしろ好んで食べていた。しかしそれでも味噌汁に入れるのは許せない。完全に思考停止している。

まずもやしは味噌汁に合わない。別にもやしが汁物に合わないわけではない。中華スープに入っているもやしはおいしい。しかしそれはちょっと味が濃い目でとろみの強いスープだからこそ合うものなのだ。もやしの淡白な味とシャキッとした歯ごたえは味噌汁という薄味のものには合わないのだ。
和風の玄関に人工芝のマットを置いているようなものだ。足の感覚の気持ち悪さだけが残る。絶対人工芝を置いている家はダサい。ちなみにうちの実家はベランダに人工芝マットを置いている。

次に具のかさ増しをしようという魂胆が見えすぎている。もやしは安い。そのもやしを使ってちょっとでも具を入れようという気持ちは買ってあげたい。しかしそれは本当に必要だろうか。よく行く海鮮丼を出すお店の味噌汁の具はネギだけだ。それでも出汁に旨みがしっかり出ていて、なんの不満もない。むしろネギだけにして出汁で勝負しているという潔さが清々しい。玄関に盆栽一個をドンと置いてあるのだ。間違いなくその盆栽を気に入っているのだと感じられる。
それに比べて、もやしを入れるということは出汁も具材も半端であるということを主張していることと同義なのである。シーサーが置いてあると思えば、招き猫があり、そこにアフリカの成人の儀式で使うような仮面を置いてあったりする玄関と同じだ。だいたいそういうところに限って壁に変な字体の格言が飾ってある。絶対その格言意識してないだろと思う。

つまりもやしを味噌汁に入れることの何が悪いかというと、もやしでこの味噌汁がより良くなるかということを考えていないのである。とりあえずの精神でたまたま安くていれやすかったのがもやしだったというだけである。そこには作り手の意図がない。思考停止ということだ。
別に玄関に変なお土産を置いていてもいい。それがそこに住んでいる人の思い出なのであれば、その人にとってはたった一つの素晴らしいインテリアだからだ。しかしそのお土産がほこりをかぶっているような安物なのであれば、置かないほうがいい。置く理由を忘れて惰性で置いているだけだ。


結局「味噌汁は定食の玄関説」のとおり、そのお店の定食はおかずもご飯もいまひとつだった。なんならちょっと冷めていた。せっかくのダブル定食だったが、キャバ嬢にも後輩にも冷たい対応をされたようだった。ランチくらいは僕に温かくしてくれよと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?