第24回: 日本丸とレッドカーペット (Apr.2019)

 令和元年となる新年度が始まり、より一層のグローバル化・地域的拡大を目指す企業も多いことだろう。世界で最もダイナミックな都市であり “シリコンバレーの先を行く” 当地は、直行便就航も控え “グローバルの道場” として益々、耳目を集めている。未だに “インドと言えば、カレー、ターバン、タージマハル。最近ではIT?” などと言っているようなら百聞は一見に如かず、早く訪れた方が良い。

 インドに型落ち製品が大量に裁ける市場や安価で扱い易い労働力を期待してはいけない。日本企業にとっては欧米とも中国・ASEANとも違う、“Phase3の海外展開” が求められる。“インドでイノベーション” を足掛かりにアフリカ・CIS他へ展開し、また現在のグローバル経営体制をアップグレードする、という活用が相応しい。最近、R&Dや事業開発を意図した活動が少しずつ始まっているが、“視察の次” のステップとして具体的にインドに何を期待してどんな活動を進めるか、悩みや戸惑いも多く見える。

 良くも悪くも論理構成が自由で柔軟、何かと議論を好み全ては交渉次第、“intellectual toughness” の素養を備えるインド人。日本丸の乗員を募るには要望・要件を明らかにする必要があるが、多くの日本人船長はこれが不得手だ。既に居る乗員とのフィット感を見て、などと言っても意味不明、特段の期待も明確な目標もないのだと付け込まれるだけだ。交渉戦略で論点設定する側が有利なのは常識だが、日常生活に実践機会が豊富なインド人に対して日本人はこの辺りが滅法弱い。“全てお任せ” されて相手の利益のみを追求するお人好しはいない。

 ここ数か月は特に、インドで日本向けの新卒採用を、という話も聞くが、一括採用・横並びのキャリア制度にインド人材は乗り辛い。英語に “対応している” ようでは物足りない。自らは世界イチ賢いと信じて疑わない国立最高学府の “高度人材” であれば尚更、本気で挑戦できない、言葉すら碌に通じない、日本丸をわざわざ敢えて選ぶ理由は乏しい。“東京24区・25区” はインドにはない。

 と語ると、やっぱりインドは面倒だ、と日本人は腰が引けてしまうが、これこそ “グローバルの道場” たる所以だ。欧米大手の撤退・再参入は珍しくないし、地場企業だってなかなか事業は安定しない。どこからいつ何時、思いもよらない新興企業が現れ市場を奪っていくか、規制や事業環境が何時どう変わるか分からない。“ミニ・グローバル” であるインドはグローバル以上にVUCAだろう。

 日本だからこそ、インドを “グローバルの道場” にすべき理由もある。どういうわけか、やたらと親日なのだ。中央・地方の政治家や役人、大企業の経営陣からスタートアップ、教授や学生、メイドや運転手まで、世界地図で日本の位置を指せなくても、首脳会談が毎年続いているのを知らなくても、誰もが “レッドカーペットを敷いて歓迎する” というくらい日本は好意的に捉えられている。共に戦ったインパール作戦が独立の契機になったことや、国境紛争や近代史上の因縁がなく地政学的に補完できるというのは一部の識者にしか知られていない。概ね往年の日本発グローバルブランドを挙げ、日本は技術・品質・管理が圧倒的に優れ、人が良く、長期的視点がある、という。

 無論、過去の経験を通じて意思決定の遅さ・優柔不断さ、言葉の問題、戦略性のなさを指摘する声があるのも事実だ。がそれでも、欧米や中韓に対する姿勢と比べて日本に対してはインド側からの関心も高い。アプローチさえ間違えなければ、何かを提案して門前払いを食うことはないし、多少の議論を通じて示唆を得ることはできる。

 人材豊富なインドで新たな乗員を得て日本丸の航路を定めるか、目についたレッドカーペットを歩みつつ背筋を伸ばして行き先を見通すか、“グローバルの道場” を活用する手法はいくらでもある。当社は “今のインドを知る” Tap to Indiaツアーを始め、インドをどう理解しどう付き合うか、初心者から黒帯まで実力に応じて楽しく挑戦し、時に大怪我せずに失敗できる機会を提供している。

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