第6回: “インド人材”と教育事情 (Oct.2018)

 平均年齢25歳のインドは当面、労働力には恵まれている。日本からも様々に注目される “インド人材” はどのような環境から生まれるのか、インドの教育を俯瞰する。 

 初等中等教育は、日本の六三三制に対して “5+3+2+2” と称される。ローカル校の場合、概ね日本と同じ満6歳の4月に入学し翌3月までが一学年とされるようだ。8年生までの初等教育就学率は全国で97%に達する。

 政府や民間の支援を受ける公立校 (Government Schools) は最貧困層を対象とする。必然的に "庶民" は私立校が選択肢となる為、“教育には金がかかる” のが常識だ。CBSE・ICSE・州教委・各種インターナショナルスクール等の "標準カリキュラム" を各学校が独自に選択し、開始月も長期・短期の休暇も独自に定める。一定のスタンダードに則っているとはいえ、画一的な日本に照らせばバラバラ。一口にインドの初等中等教育と言っても、環境も内容もレベルも大きく異なっている。

 10年生 (日本の高1相当) と12年生 (同高3) に全国統一テストがある。この結果はその後、大学等の高等教育に進学する際の実質的な足切り基準となる為、殊に都市部の家庭は早いうちから塾通い・家庭教師等の対策をする。IIT等の超難関校やIAS (国家公務員)・ CA (公認会計士) を目指す学生が全国から集まり切磋琢磨する “受験の聖地” と呼ばれる都市もある。

 時に自殺者も生む熾烈な競争だが、かつての日本の受験戦争とは意味合いが異なる。海外に進路を取る者も多い中、インドで受験に挑む者は既に “グローバル” で通用するエリートの素養を備える。私自身、グローバル企業のインド統括や海外で事業を営むインド人から、これまで幾度となく同じ質問をされてきた。“何で日本人の君がわざわざ好き好んでインドで仕事をするのか?自分はインドで生まれ育ったが、海外の方がよっぽど楽に稼げる” と。

 そこまでトップノッチでなくとも地域有力校の学生も十分に優秀、理系卒のエンジニアがMBAを取るのも普通だ。だが、一般的な学生を "客" とする教育機関に問題が多いのも事実。技術系大学 (Engineering Colleges) の定員は全国に150万席あるが、その充足率は僅か50%に留まり、定員割れは3,300校。入学しても卒業までに就職先が決まる者は学生の半分、定員の1/4に満たない。インド政府は2003年から教育品質の低さと過剰供給を指摘してきたが、乱立に歯止めがかかったのは2016年のことだ。

 現Modi政権は “Make in India” と併せて “Skill India” を主要政策に掲げる。“インドの一番の埋蔵資源は人材” とも言われるが、マネジメントと単純労働者をつなぐ “現場監督” は全く足りていない。現場実務の精度を底上げする教育が望まれるが、産学の乖離は未だ大きい。

 当社は、ベラルーシ共和国教育省傘下のRIPO (Republican Institute for Vocational Education) のインド代表として、同国での技術研修の機会を提供している。機械・電気・コンピューター工学等、専攻分野に応じた実務研修と関連企業での現場インターン、異文化生活を合わせたプログラムに1年で約100名が参加した。

 益々加速する技術革新とグローバル化の流れの中で、教育機関自身もいかに “将来、食うに困らない力” を学生につけさせるか、頭を悩ませている。伝統的に教育機会の限られていたメイドやドライバーの子息子女も大学に進学して親と異なる職業に就き始めている。日本は “インド人材” をどのように理解し、どのような関係を築いていけるだろうか。

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