第17回: インド “高度” 人材 (Feb.2019)

 日本では働き方改革や労働人口縮減を背景に外国人材への期待が高まっている様子、このところインド人材を日本で採用したい・させたいという動きが急速に高まっている。英語ネイティブで数字に明るく、ITに強いインド人技術者は今の日本の人材ニーズにぴったりだし、13億もいるのに中国・ASEANと比較した就業人口は圧倒的に少ない、もっと働きに来ても良いはずだ、という理解があるようだ。今後1年ほどでChennai・Bengaluruと直行便の就航が相次いで予定されているが、それを待たずして南インドへの視察ツアーも明らかに増えている。

 2019年1月、日本のスタートアップ5社10名とインド人学生50名が当地Bengaluruに会し “アイディアソン” を行った。日印混成の10チームが2日間 に渡り議論を重ね、創出された事業案をプレゼンして競い合うイベントを当社にて総合プロデュースした。経済産業省の事業の一環として日本政府がインドで初めて行う競争型・協創型のイベント、インド人学生にとっては “就業機会としての日本” を意識する良い契機となった。

 未だ新卒一括採用が主流の日本では、卒業生ネットワークも世界に広がり全国に23校展開する国立最高学府、インド工科大学 "IIT" がよく知られている。Delhi校やHyderabad校などは日印交流拠点ともされており、言語や文化に興味を示す学生も集うが、かといって就業先や留学先に “敢えて日本を選ぶ” 者は少ない。理由は単純、現実的な待遇を始め魅力的な情報が溢れる欧米に対し、日本ではどんな経験が得られるか、検討の俎上に載せる材料がないだけだ。

 着物や舞踊、書・茶・華、手工芸や折り紙、何より日本食等、日本の繊細な文化を好み嗜むインド人は少なくない。アニメやコスプレといったサブカルを入り口とする者も多い。当地で毎年恒例のジャパンハッバ (日本祭) は今年で15回を数え、国立大学の校舎数棟を借り切った丸一日のイベントには総勢6千名が訪れた。日本の人気は間違いないし、“行ってみたいか” と問われて否定する者はまずいない。しかしだからといって、日本で “働きたいか”、はまた別の話だ。

 4月施行予定の特定技能制度もインドは当面の対象国に含まれていない。いかに賃金格差があっても、当地の一般的な作業者が日本で通用するとは考えづらいし、逆にそれを満たすスキルと英語力さえあれば欧米・中東で十分に稼げる。ましてや、数学とITに堪能で口も達者なインド “高度” 人材ともなれば、“わざわざ日本へ” には強い動機が必要だ。

 とはいえ懐の深いインド、IIT生と労働者の間は相当に厚い。当社が産学連携、海外インターン、新学科開設等で協業している全国の工科大学やMBA校の学生たちは十二分に優秀だ。過去に日本滞在経験があって多少の日本語を話したり、中国・ASEAN同様に日本にある種の憧れを頂く者も見かける。インド “高度” 人材の採用には、学校を介して彼らに声をかけたり、長期的に自社のファンを作るアプローチも有用だ。現に諸外国の企業はかなり積極的に自社に必要な人材を囲い込み育成しているし、学校側も卒業後の雇用確保につながるのであれば、と極めて協力的だ。たまの視察を繰り返すよりも、腰を据えた取り組みが求められる。

 今回のアイディアソンも、現地入りするまで日本からは想像だにしなかった事情、当日を迎えてみて明かされた参加企業の事情等を踏まえ、土壇場での "現場合わせ" に力を割いた。何とか互いにコミュニケーションはできるとして、参加の動機や背景、期待や思惑、温度感を異にする初対面の者を議論させ一定の成果に導く為、周到な仕掛けを用意した。欧米を夢見るMillennium世代の目を日本に向けさせようという試みは、逆に日本はこの活動にどれだけ本気なのか、彼らインド “高度” 人材に日本の真剣さが測られる機会でもあったのだ、と感じた。

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