第11回: 詐欺にあった話 (Dec.2018)
商店や窓口、カスタマーサービスと話していると、“ほぉ、そう来たか” と感心させられることがある。日本人的には “やられた、騙された”、“ふざけるな、詐欺だ” と怒りたくもなるが、ここは “Incredible India !”。冷静になれば、せいぜい数百円を余計に払った程度だ。
募金やチップと思えば安いくらいだが、気持ちよく払えていないのが問題だ。散々、面倒なやりとりをした挙句、結論と異なる対応や請求が来ると意地悪や嫌がらせを疑ったりもするが、目の前の担当者は何も考えてなかったり、気にすら掛けていないのがほとんど。むしろこちらの要望に対して素直にJUGAAD対応し、その後の伝言ゲームや各所のケアレスすぎるミスが重なった結果、期待と異なる形に行きついたに過ぎない。ミスが常態化した属人的過ぎる業務実態を問題視して手を突っ込んだはいいが、返ってこれまで微妙なバランスの上に成り立っていたオペレーションを壊してしまって業務が立ち行かなくなる、というのはインド赴任初心者の “あるある” だ。
他方、得意げに論理を捏ね回しやたらと弁の立つインド人も多い。インド人同士でも “ムラの外” の人は騙しがち・騙されがち。外国人、総じてお人好しの日本人などは、その気になれば赤子の手を捻るより容易い。
かく言う私も、まんまと騙された経験がある。詳細を語れば小説すら書けそうな壮大な話だが、話のネタとして簡潔に書き留めておく。舞台は当地Karnataka州Bengaluru市の、今や創業者一族から経営陣以下、かなり懇意にしている企業だが、ここを紹介してきたのが詐欺師Aであった。
新たなサービスプログラムを考案し、何とか初号案件を形にしようとしていた当時、関連分野の公社の存在を知った。何日も通い、散々待たされた上で面談できたCEOは、我々の話を聞くや否や “非常に素晴らしい取り組みだ。是非広めて欲しい” と。加えて “類似の経験が豊富なAが力になるはずだ” とその場で連絡先を渡された。ここで気付くべきだった、というのは、文字通りあとの祭り。“公社CEOの紹介” に、完全にガードが緩んでいた。
結果、Aは当社プログラムをダシにこの企業の顧客や取引先から金を集め、経営陣の強力な支援も得て初号案件そのものは実現したものの、その後、各所への対応やら補償やらで当社には高い勉強代となった。海外に送り出した参加者一行が帰国しようとした際、支払い済みであるはずの航空券の "未払いキャンセル" が発覚。出国予定の空港で足止めを食らい、ビザも本日いっぱいで切れてしまうがどうしたものか、という現地パートナーからの緊急連絡が契機だった。Aは家族同伴で随行していたが、何故か途中離脱、数日前に素知らぬ顔で帰国していた。
実はAにはキックバックを約した内部協力者Bもいた。発覚後、被害者面で涙を流しながら架空の身の上話をするBはかなりの役者だったが、Aから入金がないとなると、矛先を当社に変えて請求してきた。更には、Aが約したという(?)、無職の息子の採用までを迫ってくる始末。
およそ全容が判明し、解決への協力も期待して公社CEOを再訪問した。電話での様子も従前と違ってのらりくらり。埒が明かないので突撃して問い質すと、Aを紹介したことはおろか、取り次いだ秘書がいたことすら否定する。曰く、“公社は誰に対しても門戸を開いているから、どんな人間が紛れ込んでいても不思議ではない” と。
厚顔にも未だに自宅で家族とのんびり暮らし、警察署からの呼び出しにも逐一創造的な言い訳をして一向に取り合わないA。政権維持をかけた選挙資金に貢がれたか、彼自身の手元に現金は残っていない模様。結局、ムラの外からはここまでの解明がやっとで、未だ解決には到底至らない。
思い返せば当地への移住当初、生活環境の手配を依頼した日系事業者の対応にすら苦慮した。準備ができたと呼ばれて行ってみれば何ら手付かず、作業した形跡すらない。挙句、“これがインドの水準です” と宣う。従前過ごしたシンガポールに比べればまだ少ないが、当地を知らない日本人をメシのタネにする日本人もいる。ムラはムラでも、積極的な刺激に共鳴し合える関係を築きたいものだ。
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