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医療者の判断と患者の意思決定をどう調整するか? - 神経難病患者の胃瘻造設をめぐって

こんにちは。やまとドクターサポートの原田です。毎週開催している「15分間の医師カンファ」では、現場での気づきや悩みをテーマに、やまとの全診療所の医師が様々な視点から解決策を考える場を設けています。今回は、若年の筋ジストロフィー患者さんの胃瘻造設をめぐる意思決定支援について話し合いました。

Take Home Message

  • 患者さんの拒否の背景にある思いを丁寧に理解することが重要

  • 医療者と患者が向き合うのではなく、横並びで考えていく姿勢が大切

  • 当事者同士の交流など、多角的なアプローチを活用する

カンファでの意見交換

A医師:「患者さんの意思決定にどう関わるかというところで少し悩んでいるケースがあります。20代の筋ジストロフィーの患者さんで、2017年から訪問診療を開始しています。現在の状況としては終日NPPV(非侵襲的陽圧換気)を装着して、栄養は経鼻経管となっています。専門病院と併診していて、経鼻経管の交換や肺炎などの治療が必要になった場合にはそちらで入院加療しています。

栄養のメインが経鼻経管で、これまでは経口摂取も少しできていたんですけど、最近は嚥下機能の低下もあって経口摂取はほぼできておらず、ここ数ヶ月は1ヶ月に1kgぐらいのペースで体重が減少しています。経鼻経管も2016年からずっと続いていて、長期に渡っていることもあって鼻に繰り返す潰瘍形成も見られています。経鼻経管の閉塞も一定の間隔で繰り返していて、十分な栄養が入れられていないという状況です」

A医師:「以前から胃瘻の造設は提案されていたんですけれども、ご本人は抵抗感が強くて、家族も本人の意思を尊重する方針で。実際私も胃瘻造設を提案したこともあるんですが、ご本人に嫌だとはっきり言われてしまうと、それ以上強く提案することもできずにいました。ただ昨年の冬に肺炎を繰り返してその時数ヶ月間病院で入院加療した経緯もあって、今度こそ今年の4月になったら胃瘻造設をしますということで本人も前向きに考えていたんですけど、幸い全身状態が落ち着いたこともあって、なんとなく今回も見送るような方針になりつつあります」

B医師:「経過が長いのでまず確認したいのは胃瘻を作るのがなんで嫌なのかという所な気がします」

A医師:「この方のご家族の1人も同じ筋ジストロフィーで、その方も胃瘻増設されて今病院に入っているんですけど、その時痛かったみたいな話をお母さんが知っていたのか、それですごく怖いという印象が強いみたいです」

C医師:「一般的な話だと思うんですけど、とにかくラポール形成に努めるというか、患者さんとの関係作りにかなりの時間を割くことが必要かなと思います。あと、お兄さんの経験を見ているというのも、また細分化してそこのどこが嫌なのかを見て聞いたり、話し合っていくのがいいのかなと思います」

D医師:「そうですね、年代、特に20代というのが多分一番重要なポイントなのかなと思います。今まで神経難病だど60歳とか70歳ぐらいの方しか診たことはないですけど、僕であれば医療者の価値観より家族と本人の価値観を優先するかなとは思っています。ただ、経鼻経管を入れつつ胃瘻を入れないというのはメリットが多いので、それを選択しているのであれば話が変わる話かなと思います」

E医師:「私たち医療者だけじゃなくて、ピアサポーター、あとは当事者からの意見交換も大事かなと思います。『Nothing about us without us』という有名な言葉があって、『私たち抜きに私たちのこと話さないで』ってよく言われます。筋ジストロフィーの患者会というのを探してみると全国にあるようなので、そういう患者会との交流会をしてみてはどうでしょうか」

F医師:「まず、この患者さんが限られた状況の中でどう生きていきたいか、どう過ごしていきたいかが大事だと思います。経鼻経管だけで発熱をしながら過ごしていくと、なかなか体も辛いし、わずかにやりたいこともなかなか手が届かない、ということになりかねないので、胃瘻をすることによってそういったことが出来るかもしれない、というところをよく相談するといいかもしれません」

F医師:「あとは意思決定する場合に、そこで決めてしまうということではなく、揺れを置いていいんだよとか、後でやっぱりこうしたかったということを出しても全然構わないから、それは相談してやっていこうねというところを伝えるのも大事かなと思います」

G医師:「最近、神経難病の方で胃瘻はしないって決めていて、もう経鼻経管だけでこのままお看取りということで病院から返されてきたんだけれども、やっぱりどんどん痩せていく、具合が悪くなっていくというところで、やっぱりもう1回見直しませんかということで、結局胃瘻をつけた人がいるんですね。なので、そういう方法があるよとか、メリットとかを最初にインフォメーションだけはしておいて、調子が悪くなった時にやっぱりどう、みたいな感じで私だったら進めるかなと思います」

H医師:「ピアスと同じで、やめてもいいんだよっていうので、やってみたいな、そういう感じで行くのもいいかなと。色々選択肢がある中で、いいと思うけど1回やってみて違うと思ったらやめることもできるし、という感じで。人生決めつけちゃうみたいな重みじゃなくて、軽い感じでっていうとおかしいんですけど、色々柔軟にできる中の1つだよみたいにして提案して。そういうタイミングで、私ならやるかなと思いました」

A医師:「皆さんありがとうございました。いろんな目線から立って、いろんな角度からの提案をしていくことが大事だなと思ったのと、あとはお母さん同士の繋がりでその患者さんのネットワークがあったり、長年付き合っている訪問看護師さんとかもいるので、チーム全体でそのこと寄り添っていきたいなと感じました」

おわりに

医療者の判断と患者さんの意思が異なる場合の対応は、在宅医療における重要な課題の一つです。今回の議論を通じて、特に若年患者さんの場合、医療者の価値観を押し付けるのではなく、本人の生活や人生の視点から共に考えていくことの重要性が確認されました。

また、当事者同士の交流や、決定を一時点で固定化しないこと、チーム全体で寄り添う姿勢など、様々な工夫が提案されました。これらの視点を活かしながら、一人一人の患者さんに合わせた意思決定支援を実践していきたいと思います。

以上、やまと地域医療グループの原田でした。